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公爵姉妹は幸せです  作者: 京栞


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54/64

#54

ぎりぎり今日!

「ねぇ、さっきのって一体……?」


 すうすうと寝息を立てながらソファに横たわっているミディを横目にアノンに訪ねる。


 アノンの放った浄化の光を受け、眠るように意識を失い、コロンと床に転がってしまったミディをそのままにしておくのも気が引けて、三人がかりで何とか寝かせてあげたのだ。

 すらりと背の高いお姉さまほどではないけれど七歳以下の子供三人で運ぶには十分大きいので、アノンが力を使いながら慎重にソファまで持っていったのだけど、かなり動かしたにも関わらず一向に目覚める気配がないのだ。


 アノンが私の問いに答える。

 その視線は自身の掌に向けられ、心底嫌そうな顔でこぶしを握りしめる。


「……悪意の増長と軽い暗示の呪いってとこだね。あの蔓は術が解けかけたら被術者を取り込むように設計されてたんだよ。一先ずは解いてみたけど、体に負担がかかっただろうし、もう少し目覚めるにはかかるかも」


 呪い。

 それは国教でもある女神の教えとはまた違う体系の信仰により起こる術。

 複雑かつ工程数が多い手順を正確にやり遂げることさえできれば、魔法や教会の使う神術と違いどんな人間であっても同じ結果が出せるが、それゆえに必要な代償は他の術の比ではない。

 他者の命を代償としなければならない為に、命を尊ぶ女神の教えの敬虔な信者が多いこの国では敬遠されがちな術でもある。

 アノンの言葉にビリーが首を傾げる。


「呪いって、貧民街のはぐれ呪術師が使うあれか?」


 ビリーは孤児院に来る前は貧民街で暮らしていたことがあり、多少の治安の悪い話題や怪しい話題にも耐性がある。

 今回も何となく聞いたことがある単語だったのか、話題にあげてきた。


 アノンはビリーの言葉には首を横に振って否定する。


「あれも確かに呪いではあるけれど、貧民街で使われているのとは比べようがないほど性質が悪い奴だよ」


 性質が悪いとはいったいどういう意味だろうか?

 アノンは私とビリーの顔を見て、理解できなかったことを察し、説明をしてくれる。


「呪い……呪術にも二種類あってね。一つは『まじない』。まあ、ビリーが言ったような貧民街のはぐれ呪術師や町の呪術屋が契約書に従って執り行うもの。大抵は失せ物探しやちょっとした運勢操作で相手を害するようなものは使ってはならない」


 契約書がある以上国からもある程度の仕事はもらえるからね、と言いながらアノンは話を続ける。


「もう一つは『のろい』。『まじない』と違って生き物の寿命を代償に他者の『在り方』を歪める。元の感情を増幅させたり、憎しみを愛に反転させたり、記憶を弄ったり……。これが出来るのはいわゆる呪詛師や黒魔導士と呼ばれる人に道を外れた者ばかりだ。まともな人間なら一生のうちに遭遇する機会すらないような連中さ」

「なら、ミディにかけられていたのは『のろい』の方ってことなのね?」


 他者の『在り方』を歪めるなんて普通の人間ではできない芸当。

 どうやら私たちが追わねばならない相手はかなり厄介な相手みたいだ。


「そう。でもまだこれくらいで済んだのは幸運だったよね。長い間かかっていると精神そのものが壊れてしまうことも多いからさ。この分ならしばらく休養すれば普通に生活するには問題ない」


 これじゃあと一週間もあれば、完全な廃人になるか狂気的な性格になるかの二択だったろうね、と言いながらアノンはミディの方をちらりと見やる。


 私はミディがまだ救える内に止められたと分かってホッと胸を撫で下ろした。


「そっか、良かった……」

「で、おかしくなる前の話からすると最後に話に出してたダスゲイルって奴が怪しいんだよな?」


 ビリーが話を戻して、ミディが話していた内容に言及する。


「そうね。もし彼がこの呪いをかけた人間なら、ユリウスも同じように呪われている可能性が高いんじゃないかしら? ミディもだったけれど、ユリウスも話していていつもより歯止めが効いていなさそうだったもの」

「一介の侍女にかけるくらいだ、それより上の人間に使わない道理もないしね。リリの言う通りその可能性は高いと思うよ」

「ならどうする? リリが危険な目に遭う可能性があるなら迂闊に近づけないだろ?」

「ひとまず彼女が起きるのを待って、もう一度話を聞いてみよう。術が解けてもう少し冷静に話が出来るならそれに越したことはないしね」

「あ、なら……」


 ビリーの疑問にアノンが答える。

 ビリーもそれには頷きながらも、何かを言おうと口を開きかけた。


 けれど、ビリーがそれを口に出す前に部屋の扉がノックされる。

 入室の許可を出すと、執事長が入ってきて私に膝まづく。


 途中一瞬ソファに寝かせられたミディを見て、軽く目を見開いていたし、アノンとビリーだけがこの場に同席していることに疑問符が浮かんでいるようだったが、それには言及せず私に用件を告げる。


「リリアーネお嬢様。マーガレット様の出立の準備がお済みになりましたので、出立前にお話を。……シュトゥルムの処遇についてのお話をなさりたいと」

お読みいただきありがとうございます。


次回は月曜日はお休みを頂きまして水曜の更新予定です。

ご理解のほどよろしくお願いいたします。

次回更新予定 6/10

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