#52
ギリギリの戦いをしています。
(sideリリアーネ)
「ユリウス兄様も私も態度が良くなかったことは承知しております。ですが私は父を殺した男をお嬢様に近づけたいとは思えません」
「ミディ……」
真剣な目をして私に訴えかけるミディの瞳に嘘はない。
なんと言えばいいか分からなくなった私の代わりに動いたのはアノンだった。
アノンは、はあ、とこれ見よがしにため息を吐くと笑顔を私に向けた。
「なんだ、結局ただの思い込みか。聞くだけ無駄だったね、リリ」
「なっ」
「おい、アノン」
ミディはその発言に言葉を失い、その顔を真っ赤に変化させた。
思わず止めてしまったビリーの声も無視して、アノンはミディにもにっこりと笑いかける。
まるで純真な天使のような笑顔とそれには似合わぬ舌鋒で責める姿は、いっそのこと悪魔憑き言った方が通りそうなだとでも異様さを醸し出していた。
「だってそうじゃないか。状況証拠にも満たない偶然の一致にどれだけの価値があるの? 本当に乗っ取ったりするようなつもりならとうの昔にできてるとは思わない?」
ぐっ、と詰まったような顔をしたミディに向かい、アノンはなおも問いかける。
「大体それだけ危険なやつだと思っていたなら最初からリリに告げてしまえば良かったでしょう? 結局それをしなかった時点で君のはただの思い込み、あるいは八つ当たりだ。違う?」
「違う! 貴方のような子どもに何が分かるっていうんですか⁉」
激昂したように叫んだミディのことをアノンはバッサリと切り捨てて鼻で笑う。
「分かりたくもないから結構だよ。今回の件だってきっと確実な証拠なんてないんでしょ?」
「そんなわけ無いでしょう! ちゃんとあの男の罪の証拠も集めてくれるって言っていたもの!」
売り言葉に買い言葉で放たれた言葉。
アノンはすかさず追撃を入れる。
丁寧かつ的確に彼女の気にするであろう所を突き、その冷静さを奪っていく。
「へえ、君と同じように偏った見方しかできないユリウス兄さまとやらが? 君たち二人の思い込みじゃなくて?」
「ユリウス兄さまを馬鹿にしないで! それに、証拠を出してくださるのは別の方よ」
「へえ、そんな人がいるの? 君の空想じゃなくて?」
なおも煽るアノンの言葉に耐えきれないとばかりにミディが反論し、ついに欲しかった情報を私たちにもたらした。
「本当よ! ダスゲイル子爵が兄さまにそう言っていたのを私は確かに聞いたんですから!」
「ふうん? ダスゲイル子爵、ね」
______
遡って数刻前。
私たちはミディにどうやって話を聞こうか迷っていた。
「情報を引き出すためにわざと煽る?」
私がオウム返しに言った言葉にアノンが頷いた。
「そう。正直彼らが感情論で動く人間なら、論理的な説得が効かない可能性も高い。だから一先ずは情報の収集を優先する」
そもそも具体的な根拠や証拠が出せるなら、公爵様だって親の仇を放っておくような方ではないでしょう、と続けるアノンにお姉さまの姿を思い浮かべてみる。
……確かに確実な証拠がある人間をみすみす逃すようなお姉さまではないし、情に流されるなんてことも考えにくい気はする。
「具体的な証拠があるなら? 流石に一つの証拠もなしにあそこまで嫌ったりするか?」
「それなら、エルヴィン・シュトゥルムについて調べ直せば良い。本当に裏切っているなら証拠が、裏切ってないならそう仕組んだ人間が出てくるかもしれないでしょう?」
ビリーの問いにも冷静に答えて、自分が無事であることを確信している様子のアノンが私の手を取る。
正直、ミディを追い込むような真似はしたくない。
そう思っている私を安心させるようにアノンは微笑んだ。
「……僕が勝手にやることだから。君の望みは僕が必ず果たす。どういう手段を使っても、ね」
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毎度のことながら3~6歳児って信じられないね(⇐作者)
次回更新予定 6/3




