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公爵姉妹は幸せです  作者: 京栞


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48/63

#48

間に合わなかったよ、パトラッシュ……

(すみません……)

「監禁なんて、そんな軽く言うことか? おっさ、あ、えと、え、エルヴィン様ってなんか変だよな」


 俺の言葉に呆れたような顔で口を滑らしたビリーは、明らかに俺のことをおっさんと言いかけ、慌てて言い直す。

 おっさん呼びは明らかにアウトだろうが、貴族相手に変ということも大概まずい発言ではある。


 だが俺はむしろ子ども相手に、貴族らしく敬われる方が落ち着かない。

 大体、本当であれば今頃は目の前のこの少年くらいの子どももいるような年齢なのだ。

 おっさんと呼ばれてもかえって親しみを感じて嬉しいものである。


「貴族相手だからって無理して様付けとかしなくて良いぞ。どうせ俺は大した人間じゃないし、おっさんで良い。……んで、ここに来たってことは姫様も俺にかけられてる容疑を知ってるってこったろうけど、どこまで聞いてる?」

「ええと、俺たちが遊んでるところにさっきのやつ……えと、ユリウス? だったか? が訪ねてきて、俺とか他の子はリリの寝室を借りてたんだけど、珍しくリリが大声出してたから、見に行ったら、思い詰めた顔してるから……」

「なるほどな、確かにそんな言い方されちゃあ動揺するよな」


 ビリーの話をまとめると、どうも、俺が拘束されたことをユリウスが告げに来て、姫様が自分に騙されていたのだと言ったらしい。


 ユリウスは、幼少期に両親を亡くしている所為か、人の情緒にあまり寄り添ってやれないところがある。

 普段であれば、共に執事長の下で育てられたともいえるミディがなだめたりするものだが、どうもそちらも俺への嫌悪に支配されているらしく、姫様にもだいぶ圧をかけたようだ。

 流石に自分より十近く離れた年の子どもにそういう言い方をしてしまうのは如何なものか。

 まあ、元はといえば自分が二人の生きる力を潰さないよう干渉しなかったことが問題かもしれないが。


 姫様には申し訳ないことをした。

 ビリーの言う限り、二人の言葉には相当ショックを受けられたようだから、もしビリーたちが傍にいない時にこの事態に陥っていれば一人でもっと苦しまれたのだろう。


 眉間にしわを寄せた俺に向かって、ビリーが思い切った様子で切り込んでくる。


「なあ、おっさんは裏切ってないんだよな? さっきのユリウスってやつへのあしらい方もまるで敵意がなかったし、俺に気付いてもこうやって何の警戒もしてない辺り、出ようと思えば出られるくらいには強いんだろ?」


 なんという直球の聞き方をするのだ、この少年は。

 普通はもう少し遠回りに聞くものではないのか?

 いや、このくらいの歳の子どもであればこんなものか?


 にしては、後半の指摘は正確に俺の性質を突いている。

 姫様の入れ知恵があっても、ここまで自信を持っては言えまい。


 確かに、俺はユリウスの言うことをあえて一度も否定せずむしろ煽って油を注いでやったし、ビリーの存在に気付いても自分から彼を説得しようとしたり彼の行為を邪魔するようなこともしていない。


 やはりこの子はかなり目端が利く少年のようだ。


「あのなあ、仮に俺が裏切ってたとして裏切ってるなんて言わないだろこの状況で」

「でも、嘘吐くほど俺の存在に価値なんてないだろ? やろうと思えばいつでも殺せるうえに、俺を騙してリリを利用することまで企むくらいなら、そもそもここに入れられるようなことするほど頭が悪いわけじゃなさそうだから」


 平気な顔で自分に価値がないと言い切る姿は己の役割を十分に理解している様子だった。


 姫様がこの子らに向ける感情がどれほどのものかは計り知れないが、姫様もまだ子ども。

 仮にここでビリーを殺したとて、孤児が殺された以上の事件にはなり得ないし、妹を愛するマーガレット様だって、姫様の為に犯人を罰しこそすれ、ビリー自身を失った悲しみというのはあまりないだろう。


 だが、それを言われずとも察している辺りは孤児院出身だからか、貧民街出身だからか。

 いずれにしても、真っ当な子どもが当たり前に持っているべき感覚ではない。

 それにこういう事を頭では理解したとしても、平気でそれに賭けることが出来るのは、よほどの考えなしか自分の感覚を信じるだけの実力がある場合だ。

 どちらでもこの歳でその度胸は大物だ。


 こんな状況でなければ、今すぐこの少年を鍛えたいと思わせてくれるくらいには、ビリーの言動は一から十まで魅力的だ。

 何より、姫様を心の底から大事な家族だと認識して疑わないところが良い。

 立場が変わっても純粋にそう思えるような奴が果たしてどれだけいるか。

 ましてやその立場を慮って代わりに自分がリスクを背負うやつなんて数えるほどだ。


「姫様といい、最近のガキは賢くて困るな……」


 言葉とは裏腹に自分の口角が上がっているのが分かる。

 こんな状況で考えるべきではないが、一つだけ、全てが解決したらこうしようと心の中でつぶやく。


「それで、どっちなんだ? はっきり言ってくれ。俺は紛らわしいのも勝手に自分で判断するのも嫌なんだ」


 じれったいというように真っ直ぐな目で見てくる少年に向き直り、俺は口を開いた。


「そうだな、俺はやってない。裏切ったのは他の誰かだ」

お読みいただきありがとうございます。

次回更新予定 5/25

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