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公爵姉妹は幸せです  作者: 京栞


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47/64

#47

翌日になってしまい申し訳ないです!

「うわ、ばれてたのか。……もしかしてだけどさ、さっき出てった人にもばれてた?」


 まだ声変わり前の幼い声と共に空気の一部が揺らぎ、少年の姿が現れる。

 少し不安そうな顔をになった少年は恐る恐ると言った風に俺に向かって尋ねてきた。


「うんにゃ、気付いてないだろうな。ユリウスはあんまり武の才能は無いからなぁ」


 ユリウスも次代の側近として幼い頃から一通りの武芸や教養に触れさせられてきたが、残念ながらカルストの一族の血が濃い彼に武の才能は見出されなかった。

 それなりに神経質な性格なので、恐らく普段の彼なら違和感くらいは覚えることが出来たかもしれないが、生憎今の彼では無理だろう。

 現に少年はユリウスの言葉の内容にも所々反応してしまっていたが、一切気になっていないようだった。


 ゆるゆると首を横に振り、その可能性を否定すると、目の前の少年はあからさまにホッとした様子を見せた。

 と同時にさらに疑問がわいたようで続けて質問する。


「俺のこと、いつから気付いてたの?」

「気配だけなら最初から。お前と似たような技術を持った連中ってのは表には出てこないだけで意外と多いからな」


 自分も役割柄、似たようなことをしていたので、この少年が使用したそれが、魔力の一種であることも俺には分かっている。

 貧民街の人間には稀に発現する先天性の魔法だ。

 この魔法が使える奴は、大抵早いうちに目をつけられてどこかの子飼いの諜報員になるか、闇ギルドに拾われて裏社会の一員になる事が殆どだ。


 この年齢で彼ほどの練度であれば、上手く訓練すれば、幹部級にもなれるくらいの才能がありそうだ。

 この少年自身に俺への殺意とか敵意とかがあれば位置もすぐに特定できたのだが、ユリウスの殺気が上手く隠れ蓑になって、ユリウスが移動しているときは分からなかった。

 ユリウスの言葉への反応を隠し切れなかったのは、流石に子どもらしさを感じたが、こうやって話している感じも、一般家庭の子どもよりも堂々として落ち着いたものがある。


 調査によれば、孤児院でリリアーネ姫や子どもたちをまとめていたのは彼だそうだが、姫様が時折見せる子供らしからぬ現実的な考えはこの子の影響なのだろうか。

 マーガレット様は、お情けで拾ったにしてはかなり良い拾い物をしたようだ。


「お前、人を殺したことは? その力を悪用したことはあるか?」


 もし、既に人の命を奪っているなら表に出すには問題がある。

 消した相手によっては、こちらで裏工作もしなければならにだろう。

 そう思いながら尋ねたが、幸いにも彼は首を横に振った。


「精々、市場でスリをしたくらいだし、孤児院に入る前だからもう二年はこんなのしてないよ。ていうか、気配を見抜いたってのはともかく、なんで俺だって分かったんだ? 会ったこと、無いよな?」

「大体の体格と性別が分かれば、大体察しが付く」


 正確な位置が分かれば、後は空気の揺れを見れば、体格や息遣いで大体の年齢も分かる。

 後は条件に当てはめれば、この年代の人間で城にいられる者なんてほとんどいないのだから一瞬で分かる。

 騎士ほど強くはない俺だが、その代わり生き残るために相手を見定める力だけはあるのだ。


「いや、まず体格とか性別も分かる時点ですごいだろ……。とりあえず、少しだけど食べ物。どうせ夕食なんてもらえないだろうからって。俺たちのおやつに用意されたものだから量が少ないけどばれにくいとは思う」


 すこし、引くような顔になった少年が気を取り直すようにバスケットを差し出す。

 中には、水の入った瓶と一口大に切り分けられたサンドイッチが詰まっていた。


「ちょうど腹が減ってたんだ、ありがたく頂くよ。坊主は姫様に言われてきたのか?」


 多少の食事抜きも慣れているとはいえ、食事はとるに越したことは無いのでありがたく頂くことにする。

 流石に公爵令嬢に出すだけあって、サンドイッチはパンも限りなく柔らかかったし、間に挟まれた具は見栄えも味もこだわったであろう逸品だった。


「いや、本人が来ようとしてるのを止めて代わりに来た。流石に公爵令嬢が勝手に地下牢に行ったってなるのはまずいだろうし、たぶんだけど、公爵様だってこんなとこはリリに見せたくないだろ? ただ止めるんじゃ聞かないから、俺が代役をすればいいかと思って。俺なら見つからないと思ったし」


 なるほど、公爵家に引き取られても、彼にとっては守るべき家族なのだろう。

 俺の質問に答えるときの彼は、至極当たり前のことを言っていると言わんばかりの表情で、公爵令嬢に尽くすのではなく、妹をただ危険にさらさないためだと感じ取れる言い方だった。


 マーガレット様の意向も想定しているあたりは、姉心のように兄心でも抱いているのだろう。

 少年に目線を合わせると、俺は感謝を告げる。


「止めてくれてよかったよ。流石に俺もこの地下牢を直接見せたくはないからなあ。タイミングズレて拷問なんか見せたら可哀そうだし。えーっと、坊主、名前……」

「俺? ビリーだよ」

「そうか、ビリー。まあ、聞いちゃあいるだろうが俺の名前はエルヴィン・シュトゥルム。今はまあ、裏切りを疑われて監禁中ってところだ」

お読みいただきありがとうございます。


次回更新予定 5/22

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