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公爵姉妹は幸せです  作者: 京栞


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46/63

#46

お待たせいたしました。

暴走ユリウスと余裕しゃくしゃくエルヴィンです。

(sideエルヴィン)


 ふああああ。


 間抜けな成人男性の声が反響する。

 薄暗く湿った空間に響いた己のあくびはひどく空虚に感じられた。


 公爵邸の地下牢は今でこそ使用されることはないが、一昔前、先代公爵が爵位を継いだ頃は現役で使われていた牢獄だ。

 公爵家や貴族に関わる犯罪を起こした者は、この公爵邸の地下牢で過ごしながら尋問を受けていた。

 それは決して表に出して良いような類のものばかりではなく、そのうちのいくつかは今では国の方で取り締まられているものもある。

 俺自身も何度か尋問の手伝いをさせられたが、最初の何回かはしばらく眠れなくなったものだ。


 夫人の妊娠を機に、子どもと犯罪者を同じ建物の中に入れることは教育に良くないのではないかと先代がその機能のほとんどを別の場所に移したので、マーガレット様が継いでからここを使用するのは初めてのことだろう。


 しかし、久方ぶりにその役目を果たすことになったこの地下牢は、お世辞にも警備が万全とは言い難い。

 一応手錠もかけられているし、部屋には鍵と鉄格子があるが、ある程度の騎士であれば抜け出すことも容易。

 力はないが手先は器用な俺であれば、十分も経たずに部屋を出ることだってできるだろう。


 ふあああああ、ともう一度大きくあくびをしたのとほとんど同時に地下牢の扉が開く。

 通路とつかつかと歩き、俺のいる部屋の前で俺を見下ろすと、親の仇でも見るような目で青年は睨んでくる。


「相変わらずのんきそうな顔で反吐が出ますね」

「お前は相変わらず気難しい顔をしているなあ、ユリウス。父親が心配するぞ?」


 俺が言い終わるか終わらないかのうちに、ガンっとユリウス・カルストは拳を鉄格子に打ち付けた。


 それも当然の反応ではある。

 彼の父は先代公爵と共に帰らぬ人となった側近たちのうちの一人。

 そして彼は、多く居た先代公爵の側近の中で唯一生き残った自分のことを、事故を仕組んだ犯人だと信じ込んでいるのだから。


 その勘違いから生まれた憎しみが彼を活かしてくれるのならばと、誤解を解かずむしろ煽るような態度を取ってきたこと自体を後悔する気はないが、こうも真っ直ぐに言われてしまうのは些か心配でもある。


「父上をお前が語るな! この際だ、お前には過去の余罪もしっかり吐いてもらう」

「余罪? 残念だけど思い当たる節はなあ」


 公爵家にお仕えする上で真っ白なままでいられるわけもないが、少なくとも彼が疑っているようなことだけはしていない。

 幼い頃から兄弟のように過ごしてきた大事な仲間と、彼にならすべてを捧げられると思えた主を、どうして俺が手にかけられようか。


「ふざけるな。先代様も父上も、ミディの両親も、他の側近だって、あんな事故如きでお亡くなりになるような方々では無かった!」


 そうだな、あいつらはただの事故で死んだわけじゃないだろうよ。


 激高して叫ぶユリウスに俺は内心同意した。


 先代夫妻とその側近たちが一斉に同じ事故で亡くなるなどあり得るはずがない。

 彼らが移動に利用していたルートは安全性が担保されているものだったし、事故で危険に陥ってもあの忠誠心の高い連中が主を救えないわけがない。

 それでも主共々亡くなったというなら、人為的な何かが影響しているに違いない。


「唯一、先代の側近で生き残ったお前が、何かを仕組んでるに違いない。閣下は騙せても、私のことは騙せると思うなよ」


 とはいえ、こうも真っ直ぐ宣言されてしまうのも困りものだ。

 カルストの先代、ユリウスの父親や祖父ならば、こんな風に相手に疑っていることを言ったりはしない。

 執事長が面倒を見たとはいえ、やはりこういった駆け引きはまだまだ経験不足のようだ。


 下の世代は先代の側近がいない為に経験にも知識に乏しい奴が多い。

 マーガレット様は流石は先代夫妻の娘といった優秀さだが、人の感情の機微には鈍感なところがあるし、自分を基準としてしまいがちだ。

 優秀すぎる主に仕えるには、まだまだ側近たちの実力が足りていない。


 個人的にはさっさと実力をつけて、引退させてもらいたいものだが。


「俺を勝手に尋問することはマーガレット様が許さないはずだが? あの方は他の証拠が出てくるまでの軟禁しか許可してないだろう?」

「ふん、もうすぐ閣下が出立なされば、俺の権限でお前をどうにでも出来る。閣下には、裏切り者が暴れたから処分しただけですとお伝えすれば問題ない」


 おいおい、そんなことは思ってても言っちゃいけないだろうが。

 大体、俺が本当に裏切り者だったら、余計な情報を与えてるじゃないか。

 マーガレット様がいる限り俺に手出しできないということは、俺に何かをしようと出来るときは、マーガレット様がここにいないという事と察せられるじゃないか、全く。

 そこは黙っておいて、公爵閣下にも愛想をつかされたようだぞとか、揺さぶりをかけるための材料に取っておくべきだろうが。

 こりゃあ鍛え直しかなあ、うん。


 顔色を全く変えず内心でそんなことを考えている俺の無反応に興を削がれたのか、それとも少し冷静になったのか。

 ユリウスは咳ばらいをすると改めてこう告げる。


「……無駄に話し過ぎました。それでは次にお会いするときがあなたの悪事の暴かれるときです。せいぜい震えて待っていてください。では」


 ユリウスが出て行き、扉が閉まる。

 そのまま足音が遠ざかり、やがて聞こえなくなるとくるりと後ろを向き、俺は壁に向かって話しかける。


「ところで坊主、お前、姫様が連れて来たガキの一人だろ? 俺に何の用だ」

お読みいただきありがとうございます。

次回更新予定 5/20

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