#45
本日二話目です!
ちなみに残り四人の弟妹はリリの上質な寝具で寝落ち中です。
アノンは私の言葉を聞くと、しっかり私の目を見て頷き返す。
「リリが望むならいくらでも。君の望む幸せに僕が導くよ」
私はアノンに向かって先ほどユリウスに告げられたこと、ミディが私に言ったことを話した。
エルヴィンが公爵家を裏切っていると言われたこと。
今起きている反乱の報告をお姉さまに届く前に握りつぶしたこと。
……ユリウスもミディも、エルヴィンを裏切って当然の人間のように話していたこと。
アノンは私の話を聞き終わると、考え込むように天井に視線を向けた。
「エルヴィン・シュトゥルムが反乱の報告を握りつぶした、ねぇ。少なくとも僕はそんな流れは知らないね」
「アノンから見て今の状況でエルヴィンが裏切ると思う? アノンの言った通り私の為に裏切ったなら、今裏切る必要はないわよね?」
今回のことで裏切ったことが事実なら、彼の裏切りは私が公爵家に存在を知られる前に事を犯しているはず。
そうであれば、私たちが巻き戻った時点より前の出来事になるし、私の為に裏切ったというアノンからの情報と矛盾してしまう。
私と再び出会ってからも、私に優しくしてくれて、公爵家のことを心底嬉しそうに色々教えてくれた彼が、公爵家の正統な後継者であるお姉さまをそう簡単に裏切るだろうか?
それに私が聞き逃しているだけかもしれないけれど、エルヴィンはまだ裏切ったという話を肯定していない。
ミディは『疑いがある』としか言っていない。
なら冤罪だということもあり得るのではないか?
私の言葉を聞いたアノンは確かに、と言い、私に問いかける。
「あくまで僕は調査結果を聞いただけだから、別の事情があってもおかしくはないけれど、本当に裏切った理由がそれだけなら今裏切る必要はないね。リリは彼が無実だと思ってるの?」
「……分からない、けど。本人に聞かないで判断したくないの」
首を横に振って、感情の整理がついていないことを告げる。
巻き戻ってからの環境は、一回目とは違う事ばかりで、お姉さまとの仲は勿論、エルヴィンとの交流だって同じ流れは辿っていない。
だから、あなたの気のせいだ、エルヴィン・シュトゥルムは元から公爵家を裏切っていたのだと言われてしまっても、私は私の記憶以外に否定する術がない。
でも、だからこそ。
だからこそ、何も関わらないまま、彼との関係性を終わらせたくはないのだ。
北部の大領主たる公爵家を裏切った者の末路は、想像に難くない。
このまま、その疑いを晴らせなければ、私は二度と彼に会うことはできないのだろう。
もし冤罪であれば、エルヴィンはその最後の瞬間までやりきれなさと、後悔でいっぱいになって、苦しみながら死ななければいけなくなる。
そんなことには絶対にさせない。
私は一度かけられた冤罪を、最後のあの瞬間まで覆すことが出来なかったから。
そんな苦しみを私のことを大切に思っていてくれた彼に、味あわせたくはない。
「私の目には、やっぱりエルヴィンが公爵家を裏切るとは思えないから」
私の言葉にアノンはあっさりとこんな提案をしてきた。
「分かった。じゃあまずは本人に裏切ったのかどうか聞きに行こうか」
「でもどうやって? お姉さまが許してくれるかしら?」
ただでさえ大変な時にお姉さまに負担をかけることになってしまうかもしれないし、お姉さまがエルヴィンを裏切り者だと思っているなら、そんな危険人物には二度と近づけさせまいとするだろう。
それに私は今、出来るだけ部屋の中にいるように言われているのだ。
お姉さまが来るまで待っていたらお姉さまが出立してしまう。
ミディに協力を仰ごうにも、あの様子ではエルヴィンを助けようという行動に協力などしてくれないだろう。
「どこにいるとかは分かる?」
「ミディは地下牢って言ってたけど」
公爵邸にある地下牢は普段は使われないが、こう言った緊急時に一時的に罪人を入れるような場所になっている。
めったに本来の用途では使われず、仕事をサボった使用人の罰則に使われることが主だけれど、地下だけあって不気味で薄暗くじめじめとした場所だ。
私も巻き戻る前は、お姉さまの不在の隙に、何度となく侍女たちに地下牢に閉じ込められたものだ。
「地下牢か。ならなんとかなるかも」
「なんとかなるってどういうこと?」
地下であることがメリットに働くなんてことがあるのか。
そう思って首を傾げると、アノンが平然とした笑顔で言う。
「忍び込むに決まってるでしょ? 大丈夫、リリはここで待っててくれたら僕が行ってくるよ」
「でもそれって私が行ってバレるのとは違うじゃない! それにエルヴィンとアノンは面識もないじゃない」
人を収監中の地下牢に忍び込むなんて、たとえ私がやったとしても大問題になる。
ましてや子供とはいえ、平民であるアノンがばれてしまったら、エルヴィンより先にその場で処刑されることだってあり得るのだ。
私が顔を真っ青にすると、アノンは心配いらないと手を振る。
「大丈夫だよ。僕が色々出来るのは知ってるでしょ? 自分一人なら見つからない。リリを直接連れていくよりもずっと安全だし、確実だ」
「でも」
「ごめん、ちょっとストップ」
なおも言い募ろうとした私を止めたのは、アノンと一緒にこちらの部屋に来ていたビリーだ。
彼は私たちの会話に今まで口を挟まず黙って聞いていた。
「もう手遅れな気がするけど……リリ、アノン。それは俺が聞いていても大丈夫な話なのか?」
「まあビリーだし」
「ビリーのことは信頼してるから大丈夫よ」
アノンがきっぱりと言い切ったのに続いて私もそれを肯定する。
勢いで話していたので、実のところすっかり存在を忘れていたのだけれど、聞かれたところでビリーが私たちに危害を加えたりするようなことはあり得ない。
巻き戻りのことを話す勇気はまだないけれど、私のこともアノンのことも必要以上に詰める気がないのは既に知っているし、何よりビリーは私にとってもアノンにとっても最高の味方である家族なのだから、問題ない。
私とアノンの返答を聞くと、ビリーは少し照れ臭そうに笑うと、私たちによってきて真剣な顔でこう提案してくる。
「そうか。なら取り敢えず、俺の意見を聞いてもらえないか。話の内容全てが分かる訳じゃないけど、俺はお前らの兄貴だからさ」
それ、俺が行ってもいいか?
お読みいただきありがとうございます。
次回更新予定 5/18




