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公爵姉妹は幸せです  作者: 京栞


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44/64

#44

本日一話目の更新です!

「待って、エルヴィンがって、どういう事ですか⁉ 彼が公爵家を裏切るだなんて、そんな」


 絶対、あり得ない。


 そのまま部屋を出て行こうとしたユリウスを引き留めて、思わずそう叫ぶ。


 確かにエルヴィンは私の経験した未来で公爵家を裏切ったとして消されたとアノンは言っていた。

 けれどそれは、私が公爵家の中で虐げられている状況をどうにかしようと試みた結果だとも言っていたはずだ。


 今のところ、私とエルヴィンは前回よりも仲が良いし、お姉さまもエルヴィンのことは信頼している。

 安全な人間でなければ、あんなことがあった後に、わざわざ私の補佐につけるはずがない。

 エルヴィンだって私がお姉さまに大切にされていることは、私がお姉さまとの話もいっぱいしているから、充分理解しているはずだ。


 ユリウスは少し不機嫌そうな顔になると私の言葉を一蹴した。

 普段から私への視線は暖かいとは言えない彼だけど、仇を庇うものを見たような目で私を見つめる。


「言葉通りの意味でしかありませんが。……詳しいことはミディに伝えておきましたので、後は彼女からお聞きになってください」


 冷たい声でそう言うと、ミディの方を向く。

 先ほどまでの冷たい視線が心なしか優し気なものになりミディに向けられた。


「ミディ、リリアーネお嬢様には君からしっかりとあの男の罪状をお伝えしてくれ。あれの罪を理解なされば目も覚めるだろう」

「お任せください」


 ミディは真剣な顔でその言葉に頷く。

 その瞳には一切のためらいが見られない。


 自分の同僚のような存在の裏切りだというのに、何故こんなにも落ち着いているのか。


 二人ともエルヴィンが裏切ったことへのショックを見せず、間違いないと信じている様子なことが、私の動揺を助長する。


「それでは、今度こそ失礼いたします」


 次の言葉を私が継げないでいるうちに、そのまま軽く一礼をすると、部屋を出て行ってしまった。


 とにかく、詳しい話を聞かなければ。

 我に返った私はミディに詰め寄る。


「ミディ。エルヴィンが公爵家を裏切ったって、一体どういう事?」

「お嬢様。エルヴィン・シュトゥルムは反乱の知らせを閣下にお伝えせず握りつぶしていたのです。今はまだ疑いということで地下牢に拘禁していますが、王都からの手紙がなければあの裏切り者が今もお嬢様のお傍にいたと思うと……ぞっと致しますね」

「反乱って、今お姉さまが向かおうとしている?……」

「はい。こちらにも密告の手紙を送っているはずなのに、動きが無いことを危惧した王都の協力により判明したのです」


 反乱の密告を握りつぶす?

 公爵家に仕えるエルヴィンがそんなことをして何の得になるのだろうか。


 そんな疑問が浮かんだけれど、私は口に出せなかった。


 ミディの顔が憎悪に染まっていたからだ。

 目が血走り、溜め込んでいた悪意が一気にあふれたようだ。

 その悪意の対象が私ではないことを理解しつつも、身がすくむような心地になる。


 ミディは事実を述べるだけでは飽き足らないように話し続ける。

 声は次第に大きくなり、悪意はよりその色を濃くしている。


「大体、閣下も先代の側近の中で唯一生き残って厚かましく側近に残り続けているような人間を大切な妹に付けるだなんて危険な真似をなさらずともよろしかったのに」


 ミディはお姉さまの判断まで批判するようなことを平然と言ってしまったことにも気付けないくらい興奮しつつも、私には笑顔を作って話しかける。

 けれど、その目は決して私を映してはいないのだ。


「安心してくださいねお嬢様。これからはユリウス卿と私でちゃんとお守りします。閣下が見抜けなくとも」

「……やめて」

「え?」


 私が止めると、止められる理由が分からないと言わんばかりの顔でミディは動きを止める。

 私は、ゆっくりと言葉を選びながらミディに言う。


「エルヴィンは、事情もなしに公爵家を裏切るような人じゃないと思うわ。私のことを思って言ってくれたのだとしても、全てが明らかになる前に、いたずらに人を貶めないでちょうだい」


 少しなだめるようにもう少し冷静になってほしいと訴えかける。

 きっと、エルヴィンとの間に何らかの確執があったのだと思うけれど、それにしてもヒートアップしすぎだ。


 これで収まってくれればそれでいいと思ったけれど、興奮しきったミディはそれだけでは収まらなかったようで、なおも続けようとする。


「ですが、お嬢様は優しすぎるかと。どんな理由があろうとも、裏切り者に心を傾けるなど、あってはなりません。ましてやシュトゥルムなんてっ」

「止めて」


 語気を強めて言うと、ようやく少し冷静になったのか、ミディはハッとした顔になり、頭を下げると謝罪する。


「……すみません。少し頭を冷やしてきます」

「ええ。そうしてちょうだい」


 ミディが廊下に出ると同時に、寝室側の扉が開き、アノンとビリーが顔を覗かせる。


「大丈夫かリリ? なんか揉めるような声がしてたけど……」

「リリ、泣いてるの? どうしたの⁉ カルストに嫌がらせでもされた?」


 私の顔を見て即座に駆け寄ってきた二人の言葉に、私はもう涙を止めることはできなかった。


 アノンの手を取り、ぎゅっと握りしめ、絞るように声を出す。


「お願い……アノン、助けて」

お読みいただきありがとうございます。


本日は水曜日の分も合わせて2話更新となっております。

二話目は午後八時の更新を予定しております。

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