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公爵姉妹は幸せです  作者: 京栞


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41/42

#41

誰が何と言おうと今日です。

嘘です。遅れてすみません。

 ああ、頭が痛い。

 鈍い頭痛も、荒れた感情も、全てを飲み込んで騎士に頷く。

 軽く手を上げれば、後ろに控えていたゼルスが頷いて、さっと扉の前に移動した。


「話は分かった。早朝には発つので申し訳ないが王都への伝令を再度頼む。一先ず今日は部屋を用意させてあるから湯浴みをして休んでくれ」

「はっ。お気遣いありがとうございます」


 一礼しゼルスの案内に従って出て行く騎士を見送り、室内に戻ろうとする。


 気配を感じ振り向くと、そこにいた赤毛の青年は気まずげに目を伏せた。

 少しの間逡巡すると、縋るかのような声色で私を呼んだ。


「……クラウス」

「閣下……」


 続くのが言い訳か謝罪か、聞かないままに言葉を遮って一つだけ問う。


「お前の思想の是非を議論する暇はない。お前は私に仕え続ける覚悟があるか?」

「勿論です。この身は全て貴方様の為に」


 間髪入れずに返したその声にも顔にも、一切の迷いは見えない。

 今の彼ならば、もう一度期待をするに値する。

 私は端的に指示を出す。


「なら良い。お前も支度を。出来るだけ急ぐぞ」


______

 数日前。

 私はエルヴィンとゼルスを呼び、クラウスの最終的な処遇について話していた。


 主家の令嬢として当主である私が認めたリリアーネに対しての不適切な態度は、侍女たちを解雇した以上ある程度の罰を下さねばならない。

 側近相手でなければ即座に解任していたところだが、ああいった性格を原因が原因だからと深く咎めずにいた私の責任もある。

 私に及ばぬとはいえ、若い騎士の中ではいちばんの実力者でもあるため適切な処分を考えるのは骨が折れた。


「クラウスは、このまま側近に残す」

「それは……」

「良いんじゃないですか。ここに書いてある通り、半年くらい見習い騎士と同じ給与に下げてやれば、あの誇りばかりの坊主には効くでしょうね」


 苦い顔をしたゼルスとは対照的に、エルヴィンはすんなりと賛同した。

 父に似た容姿のリリアーネにぞっこんのエルヴィンがこうもあっさり頷くとは思わなかった様子のゼルスがエルヴィンに食い下がる。


「エルヴィン……。ですが、あれはリリアーネ様に敵意を向けたそうですよ?」

「口だけならまだ挽回の余地があるでしょう。あれは多少選民思想の気が強いですが、主から離されることを何よりも嫌う、忠犬ですよ。謹慎まで喰らって手を出しちゃいけない相手も覚えられない駄犬かもしれませんが」


 リリへの態度に思うところはあれど、どちらかと言えば息子世代のクラウスへは寛容らしく、やり直す機会をやりたいと思っているようだ。


「お前が言うことももっともですが、リリアーネ様に害をなそうとしたらどうするのです」

「私だってそれは考えたが、私への忠義もあるし、リリのいる場に連れて行かなければいいじゃないか」


 逆に、アデラ夫人の一件からリリアーネへの害意へは厳しめのゼルスはやはりリリアーネの安全が気になるようだ。

 勿論私だって可愛い妹の前にあれを出そうとは思わないが、有能な人間を遊ばせておけるほどいい情勢でもないし、元々公爵邸内では護衛をつけないので、外回りの時だけ呼び出すのでも構わないのだ。

 私の言葉に頷きながら、エルヴィンが付け加えて提案をする。


「害意が無いとは言い切れませんが、そういう素振りが見えたら今度こそ始末すればいいわけで。心配なら俺が躾けましょうか? 主人想いは良くとも、主人の望みを邪魔するようなら処分の対象ですからね」


 父の側近の中でも仕事内容が多岐に渡ったエルヴィンは時折こういった危うそうな側面を見せる。

 何でもないように言いながらも、こういう時のエルヴィンは確実に成果を上げてくるのだ。

 正直普段は財務を中心に任せているが、父と同世代でなければ私の最側近にもなっていたに違いない。


 ゼルスはエルヴィンの顔を見るとため息を吐いてしぶしぶと言った様子で了承した。


「はあ、仕方ありません。エルヴィンがそういうならば、彼にはもう一度機会を与えましょう。ただし、エルヴィンの指導は必須とさせてください。よろしいですね?」

「構わない。エルヴィンも、仕事を増やしてすまないけれど頼むわね」

「ええ。マーガレット様の言うことがしっかり聞けるように躾けましょう」

______

「マーガレット様。お呼びと伺いましたが、財務で何か問題がありましたか? 一応今年の遠征費には余裕があるので、滞りなく物資は集まっているはずですが」


 執務室に呼ばれた理由を尋ねる彼に、怪しい様子は一切見えない。

 物的証拠が無ければ疑う発想すらなかったに違いない。

 それだけ彼は、公爵家に尽くしてきた男だった。

 今だってその裏切りが嘘であることを心の底から祈っている。


「……お前の公爵家への忠誠心だけは間違いないと思っているの」

「……なるほど」


 私の言葉に何かを察したように天を仰ぐ彼に向かって私は告げる。


「エルヴィン・シュトゥルム。お前には国境伯領の手紙を私の目に届かぬように隠ぺいした容疑がかけられている」

お読みいただきありがとうございます。


次回更新予定 5/8

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