#40
怒涛の展開!
「反乱?」
お姉さまはすっと立ち上がると私たちを見た。
開いたままの扉の向こうでは使用人たちが慌ただしく動いている様子が見えている。
普段はこの屋敷の中でも姿を確認できないほどの使用人は皆、厳しい顔つきになっている。
お姉さまの表情も公爵としてのものに変わっていた。
「リリ、申し訳ないけれどお姉さまは少し出なくちゃいけないみたい。……アノン、しばらくこちらの方で過ごしてくれるかしら。他の子も呼んで構わないわ。こちらにまで敵が来ないとも限らないから、しばらくはリリの周りで人の行き来はさせない。出て行くことも許さない。万が一の時はリリの命を優先して。責任は私が取る」
「承知しました、公爵様」
お姉さまは私に向かって困ったような顔で笑うとアノンに向き合い淡々と告げる。
アノンも特に口を挟むことなく了承し、深く礼をする。
「お姉さま」
「大丈夫よ。すぐ帰るから、リリは私のことを待っていて」
思わず声を上げた私の頭をさっとひと撫でして無理やりに微笑むと、お姉さまは部屋を出て行った。
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自室に戻った私はアノンを頼ることにした。
いくつか気になる事があったのだ。
「アノン……この時期に反乱なんてあった? 私、この時期に反乱なんて聞いた記憶がなかったんだけど」
「? ああ、リリはこの頃は屋敷の中に閉じ込められてたのか。……あったにはあったよ。ただ、この時期に反乱が起こったのは西部辺境だけで、北部からは兵を出すようなことは無かったはず。北部で反乱が起こったのはもっと後だし、どちらもその領単独で起こったものだ」
一瞬首を傾げたアノンはすぐに納得すると、私が知りたかった情報を教えてくれる。
ほとんどお姉さまに会わなかったあの頃もお姉さまが公爵邸にいたかどうかぐらいは分かる。
この頃のお姉さまは週に一度は私と食事をしてくださっていたし、長期間不在だった記憶もなかった。
かつては無かったことが起きている。
思えば、私のことをお姉さまが迎えに来たことだって、一度目は無かったことだ。
巻き戻ってから私が変えてしまった出来事も、そろそろ片手では足りなくなってくる。
「ねえまさか、私たちが巻き戻ったことの影響とか……」
「……無い話じゃないね。僕たちほどじゃなくても、前回と違う動きをしている人は多い。僕の神託の所為で教会の動きも変えてしまった。その影響で変わったことがあってもおかしくない。僕たちにとっては二回目でも、皆にとってこれは一回目なんだから」
私の言葉に頷き返したアノンが考え込んでいる横で、私は現実というものの不確定さに怖さを感じていた。
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(sideマーガレット)
「詳しい話を聞かせてくれ」
より防音性の高い部屋に移動し、王都から派遣された騎士の話を聞く。
外部の者にも下の者にも、動揺を悟られてはならない。
上の者が揺らいではいらぬ心配をかけることになる。
冷静な顔を装いつつも、内心の焦りは収まることを知らなかった。
「西部はともかく国境伯に怪しい動きは無かったはずだが」
北部の盟主、ブルーメ公爵として北部の統率を図る身だ。
管轄の違う西部の貴族は兎も角として、北部の国境伯は元はブルーメの分家でもあり、血の遠くなった今でも、国境を任せるだけに足る強さと忠心のある人間である。
幼くして公爵となった私の代わりにしばらくの間北部の賊を討伐して回ってくれたのも、非常に助けになった。
本来であれば、先週あたりには定例の手紙のやり取りがあるはずだったが運悪く、リリアーネ関連の手続きもあって時間が取れていなかった。
とはいえ、ひと月前の手紙でも、互いの部下の行き来に関しても特段変わった様子は無かったし、不満があってそれを溜め込むことが出来るような人間でもない。
一体何があれば、彼の領が反乱を起こすような事態になるのか。
「はっ。国境伯は現在監禁状態にあり娘婿が反乱を主導している模様です。制圧には傭兵や西部の兵を使っているようです」
騎士の言葉に記憶をたどる。
娘婿? ……ああ、昨年の北部合同訓練を体調が優れぬと欠席した奴か。
国境伯には我が家と同じように娘しかいない為、昨年婿を迎え入れたのだ。
代わりに来ていた伯が言うには、体格も策略も十分合格点だということでいずれ会えるだろうと考えていたが、まさかあの頃からその心づもりがあったか。
「伯は、まだ生きているのだな?」
「はっ。反乱を知らせる密書を王都と領都の両方へ出したそうですが……やはり閣下はご覧ではないのですね」
その言葉に反射的に顔を曇らせた私を見た騎士が頷いた。
そう、本来なら各地方を纏め上げる公爵より先に、王都の貴族が反乱を知り得るはずがないのだ。
本人も反乱を起こそうとしているか、情報を受け取れない立場に置かれているか。
……私は後者だったということ。
リリの一件もあってここ最近は使用人の再調査をしていたが、それだけでは足りなかったようだ。
ただでさえ人員不足だというのに、更なる問題を起こすとは、余程私のことが嫌いらしい。
やはり、という言葉に王たちは私の部下が裏切りを働いている可能性を既に知っていたようだと気付く。
わざわざ遠回しに気づかせるような伝え方をさせているのは、私に自分たちの情報優位性を悟らせたいという王都の思惑だろう。
内心で歯噛みする。
これだから中央貴族は好けないのだ。
「……私は受け取っていない。なるほど、王命が届いた理由は了解した。だが、ならばなおのこと裏切り者がいる状況で兵を出すことは出来ないことは理解していただけないか?」
「その点はご心配なさらず。既に手紙を握りつぶした者は判明しております」
「は? どういうことだ」
裏切り者を放置して討伐に参加させようという話かと思えば、ご丁寧に犯人を見つけてくれたという。
ここまで来ると仕組まれているのではないかというくらい、全ての情報をお膳立てしてくれるつもりらしい。
騎士は懐から封筒を取り出すと、恭しく差し出してくる。
宛名は中央貴族で王の側近の一人、差出人は国境伯。
彼の出したという密書なのだろう。
王に直接で出すよりも、側近に送った方が検閲を通す回数が少ない分、届くのが早いということを理解している高位貴族たちのやり方だ。
私はおもむろに中の便せんを取り出し、ざっと目を通す。
……なるほど。
「伯からの密書には直接ではなく、この人物を経由して届けさせるということが両方の手紙に書かれていたようなのです。もしも閣下が反乱を知らずにいた場合は、これをお見せし、説明するようにと命令を受けております。閣下への手紙を託した相手は______」
お読みいただきありがとうございます。
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