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公爵姉妹は幸せです  作者: 京栞


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36/42

#36

遅れて大変申し訳ありません!

翌日へともつれこんでしまいました……

久方ぶりにリリアーネ視点です

(sideリリアーネ)


 時を数分ほど遡って、アノンが直接聖女と話をすることで決着がつくと、アノンは私に向かって尋ねてくる。


「……リリ、僕から話をかいつまんで聞くのと、直接聞くのと、どっちが良い? 直接会わせるのは駄目だけど隣の部屋とかで聞き耳立てたり覗いたりする分には害はないから……どうせ公爵様のことだから最初からそういう部屋に通してるでしょう?」


 アノンがお姉さまに視線をずらすと、お姉さまは不承不承といった感じで頷き、口を開く。


「そう言われるのはなぜか釈然としないけれど、その通りよ。もしも怪しい動きがあれば、隣に控えていた騎士が押し入ることが出来る、そういう部屋でなければ通したくない相手だもの」


 私は十年以上貴族として生きたはずなのに、そんな部屋の作りなんて気にしたこともなかった。

 アノンが尋ねた内容を肯定したお姉さまは流石に貴族家当主だ。

 そう言った環境下にも慣れているのだろう、動揺の一つも見せない。


 私が気付かないような部分にまで気付いているアノンは、一体私の知らない人生をどのように歩んできたのか。

 まさか、私みたいに貴族の血を引いていたとか?

 それとも、貴族に仕えてそういう危ないことにも関わっていたとか?


 取り敢えず、そんな部屋があるなら絶対に話を聞きたい。

 そもそも私はこの巻き戻りについて何か知っている人ならば、直接会いたかったのだ。

 教会の人と関わった記憶はほとんどないから、いい印象もなければ逆に悪い印象もない。


 ……北部と教会の関係が悪い原因は私も分かるけれど、お姉さまはともかくアノンがそこまで警戒するならと直接問うことは諦めたけれど、せめて情報は欲しい。

 アノンやお姉さまに任せていると、きっと私が傷付くような内容や危険な情報は伏せられてしまうから。

 アノンが言ってくれたのは、勝手に動かれるよりましだと思っているようにも見えるけれど。


「お姉さま、私も隣の部屋からお話を聞いても良いですか? 絶対乗り込んだりはしないので!」

「……私も一緒に話を聞いても構わないの? 流石に一人でそんな近くにはいさせたくない」


 勢いよく発言した私には、すぐ返事をせずにお姉さまはアノンに尋ねる。

 どこか、私やアノンに踏み込みすぎることを遠慮しているようにも見える。

 けれどアノンはあっさりと許可を出した。


「公爵様が聞く分には。他の人間に聞かせるのは止めてもらえれば。話を聞いてリリを危険にさらさないと確信できる相手がいないので」

「分かった。リリ、私もいて構わないなら一緒に聞きましょう」


 ……アノンは、どこまで話してしまうつもりなのだろう。

 もしも、私が死んでしまうことや、公爵家に降りかかる災難を知ってしまって、心が傷付いたり、私を嫌いになってしまったら?

 そう考えて少しだけ怖くなってしまった私に、アノンがそっと近づき耳元で囁く。


「リリ、大丈夫。僕が上手くやる。……お姉さんが知らなくていいことは出来る限り伏せるよ」


 そう言ってくれるアノンだって、今はたったの三歳の男の子でしかないのだ。

 力技で来られて大丈夫な保証はどこにもない。

 それで言ったら私も肉体的には五歳なんだけど。


「アノン、本当に気を付けてね? 何か危険になったらすぐ私が……は、無理だけど、お姉さまが助けてくださるから」

「うん、分かってる」


 ぎゅっと、アノンの手を両手で掴んで告げる。

 安心させるように私に向かって微笑むアノンが、今は私の、唯一の支えだった。


______

 お姉さまと合流して、壁越しに耳を澄ます。

 部屋の作りを工夫しているようで、応接室と隣の部屋の合間にある覗き部屋は、話し声だけでなく、部屋の中の様子もぼんやりと確認できるようになっている。

 余程の大声でなければ、こちらの話し声は向こうには聞こえない安心設計なので、聞き耳を立てていると確信されるような事態にはまず陥らなさそうだ。


 事情を知らなければ、ただの小さい孤児にしか見えないアノンは、勝手にホスト側のソファに座ると、子どもが凡そ発しないような朗らかな落ち着いた口調で切り出す。

 明るい調子のはずなのに、どこかとげとげしい雰囲気を纏い、言葉の節々から敵意が漏れ出ている。


「改めての挨拶は不要だよ、レストゥラ・シモン第三聖女。父君のシモン枢機卿はお元気かな? 僕の記憶が正しければ今頃は奥方に二度目の不倫がばれた時分だと思うけれど、よく貴女をこちらへ派遣する余裕があったね?」


 何の話かさっぱり分からないけれど、教会の枢機卿の不祥事らしい話をし出したアノンの向かいの女性、聖女レストゥラが静かにその表情をこわばらせる。

 隣のお姉さまを盗み見るけれど、お姉さまもどうやら知らない話のようだし、きっと前回の生で得た情報なのだろう。


 レストゥラは少しの間、言葉に詰まったように視線を泳がせたけれど、観念したように口を開く。


「……よくご存じですのね。では、私のことも?」

「ああ、貴女が孤児院から引き取った養子ではなく、枢機卿が娼婦に入れ込んだ挙句に生まれた婚外子だって話? あんなのは教会の上層部なら薄々全員察してる話じゃないか。結局今は同じ戸籍なんだし、脅しにもならないよ」


 少し警戒しているようにも見える彼女に反して、アノンの声は揶揄うような調子で告げた。


 レストゥラの顔色が次第に青くなっている。

 確かにこんな話を隠しているのなら、本人的には絶対に知られたくないような話だ。

 それを外部の、まだ幼い少年が知っているのだ。

 神託というのに私たちの情報があるとはいえ、そんなことまで把握されているとは普通思わないだろう。

 少しだけ可哀そうにも思える。

 私の隣のお姉さまは初めて知った情報に驚いているのか、それとも情報元について考えているのか、深く黙っている。


「私の素性まで、本当にご存じですのね」

「そりゃ、君たちの信じる神に役割を与えられてる人間だからね。それくらいは知っていないと守れるものも守れないよ。ただでさえ、人間というものは信用ならないんだ、ましてや狂信者と似非信者の両極端な教会なんて情報はあればあるだけ良い。もっと致命的な内容は脅しとして取っておいてあげてるけど」


 若干怯えが混じって来たレストゥラに対して、アノンは平然と何でもない事のように淡々とした物言いをする。


 何も言えなくなって黙ったレストゥラに向かってアノンが先に口を開く。

 今度は一転して、明るい調子に戻ったけれど、今度は先ほどとは比べようもないほどの怒気がある。

 壁越しにも息の詰まるような緊張が届き、思わず息が浅くなる。

 その迫力は、二度目の人生だからこそ出せるそれなのだ。


「無駄話はそれくらいにするとして、まずは言い訳くらい聞いてあげるよ。下される神託は僕だって把握しているから」


 そうしてアノンは本題を切り出した。


 僕はね、怒ってるよ。教会に。

 ______一体どうして神託で干渉するなと言われている人間に、無理に接触しようとする真似が出来るわけ?

いつもお読みいただきありがとうございます。

リリアーネ視点、実はアノンが巻き戻り前に何をしていたのかがほとんど分からないという……

教会に所属していたことも本人以外今の時空では誰も知りません。

情報のアドは、アノンにあります。


次回更新予定 4/27

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