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公爵姉妹は幸せです  作者: 京栞


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35/42

#35

ギリギリ今日ですよね?(圧)

 自分の半分も生きていない幼い子に判断をゆだねることへの不甲斐なさ。

 私は内心歯ぎしりをするような心持で反応を見る。


 先に口を開いたのは、落ち着いた様子のアノンだった。


「公爵様はどうお考えなんです? 北部と教会はここ十数年関係が良くないですよね? 北部の大領主として、どうして欲しいんですか」


 ……本当に、この子は何者なのだろうか。

 本来なら一刻も早く問いただしたいが、生憎それどころではないしリリが信用するならば一先ず流しておかねばならない。

 既にある程度こちらと教会の関係性についても理解しているようなので、取り繕わずに素直な意見を吐露する。


「私個人としては、出来れば会って欲しくない。レストゥラが嘘を付いていなかったとしても、北部と良い関係に無い教会の聖女だ、不快な気分になるようなことも言うかもしれない。やっと出会えたばかりの妹をそんな人間に会わせたい姉がいると思って?」


 そうでなくとも、二人とも幼い子供であること……まあ、この様子を見れば精神的にはそうではないようだが……を無視して申し込むような者だ。

 まともな保護者なら会わせたくないと考えるのは至極真っ当な話だろう。


「しかし、断ればまた北部と教会の関係が更に悪化し、そのつけを払わねばならなくなるのは私ではなく民だろう。領主としては不甲斐ないがこれ以上教会の反感を買うのは不味い」


 教会の動きの所為で出した犠牲を北部の者は未だに許してはいないが、信仰対象を司る組織である以上、王国の人間であれば教会の影響下にあることもまた事実。

 こちらに協力的な北部神殿の修道士たちでも、王都の上層部の言葉一つでどうにかしてしまえる、それだけの権力が中央にはある。

 過干渉してこないことを良しとし、こちらも一切接触を断っていた付けがこんな形で回ってくるとは。


 幸いにして、清廉潔白を謳う教会幹部は、本人の拒否に無理強いは出来ないので、リリたちが断ってくれればそれでも良い。

 むしろそうして欲しい。

 今ならお披露目の場の前だという口実、幼すぎるという口実も使える。

 とはいえ、そうすると教会の狙いはほとんど読めないままになってしまうのが痛いところだが……。


 私の言葉を聞いたアノンは頷くと私を真っ直ぐ見つめて口を開いた。


「なら、僕だけで会ってはいけませんか? 僕もリリをあいつらに直接会わせたいとは思えないので」


 片方が会えば向こうも一旦は様子見してくれるでしょうし、後はリリのお披露目が住んで周りを固めてから会わせてやれば文句は言えないはず。

 私にとってはかなり都合のいい提案ではある。

 大事な妹を差し出さずに、情報を相手から引き出せる。

 公爵家の血筋を合わせない以上、何かが起こっても平民のやったこととして彼一人を切り捨てるという非情かつ冷静な判断も取れる。


「……君はそれで良いのか? 安全の保障はできないが」

「構いません。公爵様はリリの安全を第一に考えてくださればそれで。この見た目じゃ説得力はありませんが自分の身くらいは守れるので」


 中身はどうあれ、本来ならば思考も理論立たないような幼子を上手いように使おうとしていることへ、良心の呵責が多少なりとも動いていることに自分も領主として、貴族として未熟だと思い知らされる。

 きっぱりと自分ではなく妹を優先しろと言い切ったアノンの方が余程こういった企みには向いていそうだ。


 ここまで黙っていたリリが慌てたように口を開く。

 いつの間にやら自分は会わないことになりそうなことが気にかかったのだろう。


「アノンだけじゃ心配だし、私も」

「リリは駄目。目的が分散しているなら僕が出た方が早いし、万が一強硬手段に出ようとしたときに、孤児と公爵令嬢じゃ価値が違いすぎる。ですよね? 公爵様」


 自分もレストゥラと会うと申し出ようとしたリリの言葉をアノンはぴしゃりと断つ。

 私に自分の言葉への同意を求める彼は、自分を駒として扱ってみせろと言わんばかりの瞳をしている。


 縋るような目でこちらを見てくる可愛い妹に申し訳なく思いながら、アノンの言葉に同意して言い聞かせる。


「リリ、ごめんなさい。アノンの言う通り、いざという時の為にもあなたには聖女たちとは会ってほしくないの。公爵令嬢という地位は、いかようにも悪用されかねないし、何より私の一番の弱点だもの」

「……我儘を言ってごめんなさい」


 どこまで納得してくれたかは分からないが、リリはしゅんとした顔をして素直に聞き入れる。

 多少大人びてはいても、こう言った素直さが残っているところがまた可愛らしい。


______

 多少の打ち合わせを済ませて、アノンを連れ、レストゥラの待つ部屋へ戻る。

 レストゥラは、私の後ろにいるいたいけな少年の姿を認識すると、うっそりと笑みを深める。

 敬虔な信者にはこの胡散臭い笑みすら聖母に見えるというのだから嫌になる。


「すまないが妹は今日は疲れが溜まって先に休んでいてな。本人にも確認したがまだマナーが完璧ではないからお披露目までは面会は遠慮するそうだ。ただ、もう一人の方は聖女殿と話をしたいと言うからな。連れて来た」

「まあ、リリアーネ様とお会いできないことは残念ですが、そうおっしゃられては仕方ありませんわね? そちらがアノン様ですか? 可愛らしい方ですねぇ。アノン様、初めまして私は……」


 子ども相手に猫なで声であからさまに警戒心を解こうとする体勢に入ったレストゥラだが、アノンは冷めた目で一瞥すると冷たく返す。


「そういうの、良いから。……公爵様、後は僕だけで大丈夫です。お話が終わったら呼びに行きますね」


 先ほどリリの部屋で話していた時とは打って変わって私にはさも親しげな雰囲気でそう告げるアノンは、この空間では一枚上手にいる。

 後は打ち合わせの通り、隣室で聞いていろ、とこちら側にしか見せていない表情が物語っている。


「そうか。……聖女殿、くれぐれもこの子に危害は加えぬようにお願いします」


 可能性は低いとはいえ、一応の釘を刺すが、レストゥラはほとんど意に介さないような笑顔で頷いた。


「ええ、勿論、神のご加護がある方にそんな物騒なことはいたしませんよ……ふふ」

お読みいただきありがとうございます。


次回更新予定 4/24

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