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公爵姉妹は幸せです  作者: 京栞


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34/41

#34

夕方の更新で申し訳ないです!

(sideマーガレット)

「……あくまで、あの子たちが望むなら、だ。リリアーネたちが拒否したなら申し訳ないが帰ってくれ」


 絞り出すように声を出す。

 私の顔はきっと苦虫を噛み潰したような酷い顔になっていることだろう。

 くすり、と笑ったレストゥラが鷹揚に頷く。


「ええ、分かりました。……まあ、断られても困るのは勝手に動いたことにされる私と教会の要請を断った閣下だけで、教会は別に困りませんもの。待たせていただきますわ」

「失礼する」


 応接室を出て、思わず大きな息を吐く。

 一気に訪れた疲労感と共に、久しぶりに手汗をかいていることに気付く。


 ……どこが清らかで優しい聖女様だ。

 教会の人間は誰も彼も腹に一物を抱えたバケモノばかりで嫌になる。


 リリアーネの部屋に向かいながら思考を巡らせる。


 断りたい気持ちが八割、頭痛が二割。

 教会の神託というのは、神々から距離をおいたこの時代においてこそ、わざわざ神が介入するほどの大事として取り上げられる。

 十年隠し通していた神託をみだりに公開するとも考えにくいが、万が一それを公開してでも『リリアーネ』との接触を試みようとするつもりならば、こちらは大分不利だろう。

 公爵家の血を引いているという確かな証拠も、提示をするには教会の力を借りねばならない。

 迂闊に断ることも難しい。


 一先ずはリリに事情を説明して、一芝居打ってもらうか?

 子どもの癇癪であれば、「話したい」と言った手前引かざるを得まい。


 レストゥラの話を与太話というには、具体的すぎるし、わざわざ北部との確執に触れてまで話そうとしたことに嘘はないだろう。

 正直、リリアーネや孤児院から引き取った子供たちが大人びていたのも神託とやらが関わっているなら納得しやすい部分もある。

 アノンも、三歳にしては受け答えがだいぶしっかりしている印象だったし、私を見る目が時々警戒するような色に変わるようだった。

 家族同然の者を引き取るのだから、当然かとも思っていたがそうであればあんな風に隠そうとせずとも良いし、引き取った後もその視線が変わらない理由が気になっていた。

 明確に敵意ではないので、いずれ慣れればそう言った疑いも薄くなると考えていたが、こちらが疑わねばならないとは。

 レストゥラには彼も会わせる気はないが、念のため呼び出して事情は聴いた方が良さそうだ。


 リリアーネの部屋の前まで来て立ち止まる。

 何故か扉の外にミディが控えている。

 私に気付くと静かに礼をする。

 その顔には不満がありありと出ている。


「何故部屋の前に? リリアーネは何を?」

「……五分ほど前に、閣下がお引き取りになったアノンという子が来たのですが、リリアーネ様が二人きりになりたいから部屋を出ていてくれと」

「部屋に入れたのか」

「……リリアーネ様が閣下もご承知だとおっしゃったので」


 そんなことを言った記憶もないし、アノンたちがいる使用人の居住区は子供一人で歩いてこれる距離ではない。


 咄嗟に扉に耳を当て中の様子をうかがう。

 室内からは、やけに大人びた口調の幼い声が二つ。

 片方は最近やっと聞きなれた妹の可愛い声。

 どうやら本物ではあるようだが、一体何故彼がここにいるのか。


「……ふうん、レストゥラか……この時期に北部に行った記録は無かったはずなんだけどな……取り敢えず分かった、知らせてくれて助かったよ」

「突然呼んでごめん、アノン。でも、今頼れるのはアノンだけだから」

「大丈夫。むしろこの事態は僕の知り合いの所為だと思うし、僕がなんとかするよ。リリは心配しないで」


 震えるように絞り出されている声を、静かに励ます声のトーンは私が耳にしていたものよりもワントーン低い。

 私の前では猫をかぶっていたわけだ。


「リリ……私は彼を呼ぶようにとはまだ言っていないのだけど、どうして彼がここに?」


 断りを入れずに扉を開けて声をかける。

 二人は応接スペースのソファに隣り合って座って話し込んでいる。

 二人の反応を観察しようとするが、驚いた顔のリリはともかく、意に介した風もなく迎え入れたアノンは腹の底が見えない。

 どこか先ほどまで接していたレストゥラと同じ種類の落ち着きが絶妙に私の心をざわめかせる。

 咄嗟の警戒心が強い視線となって二人に向かう。


「こんにちは、リリのおねえさん。思ったよりも早いですね?」

「え、えっとお姉さま、その」


 私に対して後ろめたさがあるのだろう、言いよどんだリリをその小さな体で後ろに庇ったアノンが流れるように話す。

 一瞬の隙もなく紡がれた言葉には、自己保身ではなく、リリアーネを守ろうとする意思と冷静さが窺い知れる。


「リリには教会関連の人間が来たら教えてほしいとお願いしていただけですから彼女に非はありません。言いたいこともたくさんあるとは思いますが、一先ず事態が収拾してからで。それで構いませんね?」


 どうやってもその体では私相手に勝ち目はないというのに、それでもリリのことを庇う姿勢に少しだけ安堵する。

 色々と隠し事があっても、一先ずこの場では妹が無事であることが私の最優先だ。


 ここで乱闘騒ぎでも起こせば、その隙に教会の連中が何をしでかすかも定かではないし、あの口ぶりから察するに教会の手の者でもないだろう。

 こちらを見つめてくる目も私がどう出るかを見定めようとはしていても、敵としてはみなしていないようだった。 


「後でその連絡手段と移動手段については聞くが、それで構わない。……リリの敵では無いなら目くじらは立てない」

「ではお言葉に甘えて。教会の者が来たようですね。リリからはレストゥラという聖女だと聞いています。彼女は一体何用で?」


 私が頷くとアノンもすぐに警戒を解いて、詳細を促す。

 後ろに庇われていたリリが少しだけ展開の速さに困惑しているのが、この状況でも可愛い。

 既に彼自身が知った情報を簡潔に開示し、足りない情報を求める姿に、こういった状況への慣れを感じてしまう。

 大人であっても、こうすぐに対応できる者は少ない。


 普段、仕事の指示を出している部下たちよりも話が早くて助かるような、三歳児よりも厄介な部下たちに複雑なような気持ちに駆られながら本題に入る。


「王都の中央大神殿に所属する第三聖女、レストゥラ・シモンの一行は、リリアーネかアノンのどちらか、もしくは両方に面会することを求めている」

お読みいただきありがとうございます。


次回更新予定 4/22

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