#29
ギリギリ金曜日だと主張させてください。
(毎度更新遅れて本当すみません泣)
(side マーガレット)
「……そう。滞りなく準備が進んでいるのなら構わない。下がっていいわ」
執務室。
妹が一人にならない時間を見計らって呼び出したゼルスの孫、ミディの報告はいつも通り彼女の目の前で接触した人間やリリアーネの行動の要所を確実に抑えている。
孤児院からいきなり引き取ったので、半年空けずにお披露目をしようとすることは無理があるのではないかとも思っていたが、公爵家の血を引く者らしく、家庭教師が驚くほどのスピードで作法を身に着けているという。
元々出会った時から私に対してしっかりと敬語を使えているあたりそこまで気にしていなかったが、ゼルスや他の側近たちが言うには平民の孤児院であれだけ賢く育つことは本当にまれだそうだ。
流石は公爵家の娘だと彼らは言っていたが、リリアーネ以外の子どもたちもあの年齢にしては賢いのではないかと思う。
まあ、自分以外の幼少期など知らない人生であるから、それが正しい感覚なのかは分からないが。
ともかく、妹に過度に無理をさせずに済みそうならばそれでいい。
食事なども時間があれば出来るだけ時間を合わせるようにしているが、少なくとも私には楽しそうに過ごしているように見える。
何やら悩み事がありそうでもあったが、私に言って解決することではないのだろう、私には何も言ってくれないので様子を見ている。
リリアーネの様子の報告を受けた私が下がる許可を与えても、ミディは俯いたまま私の目の前から動かなかった。
基本的に私に対しては必要最低限の報告しかしてこない妹付きの侍女が動かないことに疑問を抱き、書類を処理する手を止めて声をかける。
「まだ何かあるのか?」
「……シュトゥルム卿について、お聞きしたいことがあります」
「エルヴィンがどうかしたのか? 先ほどの報告ではリリアーネとのやり取りには問題がなかったように思うが」
名を上げられた側近の名前を聞き返すと、意を決したように顔を上げたミディが私を睨みつけるような目で叫ぶ。
「何故あの方をお嬢様につけたのですか⁉ あの方は、先代の事故を仕組んだという噂がある人間でしょう⁉ お嬢様につけるのであれば、ユリウス様だけで十分ではありませんか!」
「ミディ、控えなさい。噂は所詮、噂ですよ」
室内で他の書類を整理していたゼルスが孫娘を諫めようと声をかけるも、彼女の勢いは止まらない。
その目にはエルヴィンに対するものであろう敵意が滲んでいる。
「執事長は黙ってください。たとえそうだとしても、閣下とも仲が良くないあの方を、どうしてお嬢様に近づけるのですか? お嬢様を利用して閣下を危機にさらすような真似をするのではっ!」
彼女の言葉に動揺しているのはその実私よりもゼルスの方だろう。
私の変わらない表情にミディは戸惑っている。
大方私がそれを否定するか、肯定して彼女の提案を受け入れるとでも思ったのだろう。
エルヴィンが私のことを特別好いていないことは知っているが、それは互いに織り込み済みで彼は側近に居続けているのだから、何も問題ない。
最も、私が彼に直接私を好きになれない理由を問いただしていることを知っているのは私とエルヴィン当人だけだが。
「……それではお前はどうするべきだと言いたいの?」
私の質問に少しだけ勢いを殺した声でミディが答える。
「エルヴィン卿は、お嬢様の担当を外れるべきだと、私は思います。ユリウス様は主家に対して反逆を考えるようなお方ではありませんから」
「リリアーネはユリウスではなく、エルヴィンに懐いているのに?」
あれくらいの女の子は、見知らぬ成人男性を怖がるものだろうに、私の可愛い妹はエルヴィンを紹介したときから気に入っていた。
逆に年が近く、警戒を抱かれにくいだろうと考えていたユリウスの方を警戒しているようだ。
まあ、ユリウスは表情をあまり変えない男なので仕方がない所もあるが。
エルヴィンの方も、リリアーネのことを「姫様」と呼び、言葉通り公爵家の姫として可愛がっていると聞く。
エルヴィンもリリアーネも私の方に顔を出すときに、二人で話した内容を事細かに伝えてくるし、リリアーネに何を贈るかを報告してくるので彼らの仲の良さはミディと同じかそれ以上に理解している。
何より、あの男は父似のリリアーネを決して裏切れないだろう。
父の娘だというだけで私のことを守り続け、父の領地というだけでこのブルーメ領も北部も安定させようと奔走し続けているこの男が、私よりも父に似た彼女に尽くさずにいられぬはずがない。
私はそれを知っている。
「それが危険なのです! お嬢様は純粋でか弱いお方ですからあの男に騙されるに違いありません!」
真剣に述べている彼女の言葉に、茶化すつもりではなかったが思わず鼻で笑ってしまう。
「リリアーネが純粋でか弱い、か」
「閣下?」
どうやらこの侍女はまだ、私の可愛い妹の本性を理解できていないようで安心する。
「リリアーネは私の妹だぞ? ただの純粋な思考しか持てないお花畑なら私は私は披露目の会の計画を任せることも、あの子の為に孤児院の子ども全員を引き取るような真似もしない」
一部では私が妹可愛さに狂い始めただの、唯一の家族に振り回されているだのと言われているが、決して私は公爵の地位もブルーメ家の誇りも忘れていない。
……まあ、家族への奉仕は初めてだから、多少加減を見誤ってしまったことは認めるが。
もし異母妹が愛に飢えているだけの幼子だったなら、徹底的に隠し通して私の傍に置き続けただろう。
確固たる意志を持たぬような子であれば、貴族社会に見つかればたちまち食い物にされてしまうのだから、披露目を終えれば病弱だということにして一生私が保護してやるつもりだった。
その方が家にとっても妹にとっても幸せだろう。
しかし、実際に出会った私のリリアーネは自分の大切な者を守ろうとする意志を持つ、ブルーメの者らしい強さを持った少女だった。
それでありながら、私に頼ることも出来るその冷静さも私は好きだった。
まあ、こちらに来てから一番最初があれなのは私を信用していなかったというよりは迷惑をかけたくなかったというので目をつむっておこう。
私が動いてどうにかなることは私の気持ちの結果だが、それだけで孤児をいきなり引き取ったりもしない。
リリアーネはいずれ公爵家の外でも活躍するに違いない。
そうなったとき、彼女と同年代の信頼のおける相手を得るのは存外難しいだろう。
であれば、今のうちに彼女の意を汲める存在を囲っておくのは当主としても正しい行動だろう。
エルヴィンもユリウスも癖のある人間だが、有能であることは間違いない。
家臣である彼らで慣れることでいずれ外の人間と接しても問題なく生きて行けるはずだ。
リリアーネだってそのくらいの意図は理解しているだろう。
「それに私はリリアーネへの態度を懸念するならむしろユリウスの方だと思うが」
お読みいただきありがとうございます。
次回更新予定 4/6




