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公爵姉妹は幸せです  作者: 京栞


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27/42

#27

お待たせしました!

 四日ほど経ち、暖かな日差しが部屋を柔らかく包み込むそんな昼時。

 私はキャロットオレンジの髪をお団子で一まとめにした栗色の瞳の若い女性の声に耳を傾けていた。

 ふっと気付くと、窓の外からは正午を知らせる鐘が鳴っている。


「……本日の授業はここまでにいたしましょうか。リリアーネ様は覚えが早い上に礼儀正しいので教師としてはありがたい限りです。この分なら再来月のお披露目にも十分間に合うでしょう」

「レミアンヌ先生の授業が分かりやすいからですよ!」


 私がそう言葉を返すと、教本を閉じたレミアンヌ先生がふわりと微笑む。


「まあ、嬉しいことを言ってくださいますね。それではまた来週お会いしましょう」

「ありがとうございました!」


 レミアンヌ先生は、お姉さまが手配してくれた家庭教師だ。

 本来であれば、私の教育は王都で有名な教師を呼ぶ予定だったのだけど、アデラ・ガルムの一件を踏まえて調査したところ、庶子にはひどい扱いをする人物であることが分かり、急遽北部貴族から雇うことになったのだ。


 レミアンヌ先生は現在は子爵夫人だけれど、元は私と同じような伯爵家の庶子の出で、結婚前から名だたる北部貴族の家庭教師を務めている有能な女性だ。

 他の子どもより作法が追い付いていない私に対しても、一切嫌な顔をすることなくどの内容も丁寧に根気強く教えてくれた。

 巻き戻っているとはいえ、一度目は公の場でギリギリ失礼にならないだけの最低限の知識しか学ばせてもらえなかったので、私も楽しくて仕方がない。


 レミアンヌ先生を屋敷の入り口まで見送り、自分の部屋に戻る途中、後ろから声がかかる。


「お、姫! ちょうどいい所に。これからお時間大丈夫ですか?」

「エルヴィン! はい、ちょうど先生をお見送りしてきたところですから、大丈夫ですよ」


 ぱっと振り返ると、書類を抱えたエルヴィンがこちらに歩いてくる。

 そのまま横に二人並んで話しながら自室に向かう。


「いやあ、それにしても姫は偉いですねえ、毎日毎日授業ばっかりで。俺が姫くらいの時はどうにかして授業から逃れようと必死でしたけど」

「レミアンヌ先生の授業はとても分かりやすいし楽しいですよ?」

「レミアンヌ……ああ、ドリス子爵のご夫人ですか。彼女は王都の学院に研究者候補として呼ばれるくらい賢い方ですから」


 お姉さまに紹介されてから、エルヴィンはほぼ毎日私の所にやってくるようになった。

 貴族のお披露目にも流行や伝統があるそうで、まずは過去の資料を見ながら、どういった形式にするのかを相談することにしたのだ。

 前世でもそうだったように、エルヴィンは最低限臣下としての距離を保ちながらも、会うたびにお土産を持ってきたり、困っていることは無いかと聞いてくれたり、もし父親が生きていればこうだったのではないかとさえ思える扱いをしてくれる。


 ちなみに、もう一人お姉さまに紹介されたユリウス・カルストの方はというとほとんど現れない。

 挨拶を受けたときからそこまで関わりたいようには見えなかったからそれも仕方ないけれど。


 私の部屋につくと、応接スペースのテーブルいっぱいにエルヴィンが資料を広げ、一つ一つ説明してくれる。


「前回は立食形式を中心にご紹介しましたから、今回はパレードの例も見てみましょうか。まず、六年前の……」


 にこやかな顔で説明しているエルヴィンを見ながら、先日アノンと交わした会話を私は思い浮かべていた。


______

「お願いアノン教えてちょうだい。何かが起きるなら、私は知って、それを回避したい」


 私がそう言うと、アノンはこくりと頷き私に向かって指を二本立てた。


「リリ、公爵家で君にとっての要注意人物はたくさんいるけど、君のお姉さんにとっての危険人物はそう多くない。公爵が自力で気づけなかったのは二人。公爵の側近を裏でかき乱したユリウス・カルストと公爵家の情報を王家に売ったエルヴィン・シュトゥルムだ」

「待ってよ! ユリウスはともかく、エルヴィンは公爵家を裏切るような人じゃないわよ! 孤立してた私に優しくしたせいで殺された彼がそんなことするはず!」


 彼の口から出た言葉に私は思わず反論した。


 先代からの側近であるエルヴィンだけが、侍女長の下で増長した使用人たちの横暴を止めてくれた。

 お姉さまの代わりに管理していた侍女長だけでなく、お姉さまにまで手紙を出して、状況を何とかしようと試みてくれた、唯一の人なのだ。

 彼が私の父である先代公爵の話も公爵領の話もいつも愛しさがあふれる表情で語ってくれたからこそ、私は北部を嫌いにならずに済んだのだ。


 そんな彼が直接お姉さまに進言しに向かい、帰ってこなかったことは、前世で私が王族に嫁ぐことになった一つのきっかけでもあった。

 大事な側近でさえ簡単に死んでしまうようなところでは、きっと生きていけないと思ったから。


 私が声を荒げても、アノンは全く動じず、私にとっては一番辛い真実を知らせた。


「そりゃあ君にはそうだろうね。エルヴィン・シュトゥルムは君の為に公爵家の情報を王家に流したんだから」

「え?」


 私の、ため?


「彼は、先代公爵そっくりの色をした君が虐げられていることに我慢が出来ず、公爵家の情報と引き換えに君が独立できないかと密かに王家に交渉していたのさ。王家も一枚岩じゃないから、結局上手くまとまる前に密告されて公爵の側近に殺された訳だ」

「そんな、私……」

「君の死後に公爵家内部を調査して初めて分かった話だからね。公爵自身も王家に情報が漏れた原因を知らなかったし、動きを制限されていたリリには予想もつかなかったんじゃないかな。上手くいかなかったら申し訳ないからって、話がまとまるまでリリ本人にも言うつもりはなかったようだし」


 エルヴィンは、私のために、命だけでなく、何よりも大切にしてきた公爵家の情報を売ってまで、私を自由にしてくれようとしていた。

 その事実を受け止めきれずに体がよろめく。

 同時に、公爵家を裏切ったというのが彼なら、もう一人にも事情があるかもしれないと思い当たる。


「じゃ、じゃあユリウスは⁉ まさか彼も?」

お読みいただきありがとうございます。


次回更新予定 4/1(いい加減時間を戻したい)12:00

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