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公爵姉妹は幸せです  作者: 京栞


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26/42

#26

一時間遅れすみません……

「私の補佐官で領政を担当しているユリウスと、財務担当のエルヴィンよ」


 お姉さまが私の部屋に連れて来た二人の側近のことは、勿論前回の人生で既に知っている。


 複雑な気持ちで彼らを見ている私の様子には気づかずお姉さまが続ける。


「リリも明日から少しずつ貴族のしきたりにも慣れていかなければならないでしょう? 北部の貴族にも披露目をしなければならないから、二人にはその担当をしてもらおうと思っているの。予算や会場の装飾についても相談するだろうから」


 妾腹の公爵令嬢として引き取られた私には、社交界に向けて早めに披露目の機会を設けなければいけないというマナーがある。

 その披露目の準備には当主だけでなく、披露目をする当人も関わることが普通なので補佐を付けてくれるのだろう。

 前回の私はそんなものがあると知ったのは当日で、知らない間に整えられた会場と衣装でよく分からないまま終わったのだけれど。


 お姉さまが話し終わると、先に青年の方が一歩前に出て名乗る。


「お初にお目にかかります、リリアーネお嬢様。閣下の補佐官を務めさせていただいております、ユリウス・カルストと申します。リリアーネお嬢様が公爵家に相応しいお披露目の会を開けますよう職務に励ませていただきます。どうぞユリウスとお呼びください」


 言葉の節々からも伝わるように、堅苦しく厳格なユリウスはお姉様の二つ上で、平民ながら代々文官として仕える家の出身。

 今は領政中心に補佐しているようだけど、最終的には公爵家のほとんどの仕事がお姉さまの目を通る前に彼の目を通さなければならないくらいに信用されていた。

 前回の人生で私のことを公爵家に連れて来たのも彼だ。

 初めて会った時の彼は、ただの孤児院の少女に過ぎない私のことをお嬢様と呼び、丁寧に扱ってくれた。


 ただ、公爵邸に引き取られて以降は初対面の際の優しさはどこに消えたのか、明らかに私を蔑む人々の一員と化されてしまった。

 騎士クラウス(私を下げるような言動をしてお姉様に怒られた護衛騎士だ)ほど露骨な嫌がらせはされた記憶がないけれど、私がやむを得ず夜会に参加するたびに嫌味を言ってきたり、ただでさえ少なかった私の予算を無駄だと言って削ってきたりしたのであまりいい思い出はない。

 ただ、仕事の正確さは随一で、彼が了承したことを覆されたことは無かったし、あからさまに害してくるような人ではなかった。


 今回は私のことをどう思っているのか、まだその表情は読み切れないけれど、お姉さまに命じられた仕事を放りだすような人ではない。


「……よろしくお願いします、ユリウス」


 ユリウスが一歩下がると、代わってもう一人の男性、エルヴィンが前に出る。


「お会いできて嬉しいです、リリアーネ姫。貴女の父君の時からブルーメ家にお仕えしている、エルヴィン・シュトゥルムと申します。急に連れてこられて大変でしょうが、些細なことでも頼ってくれたら、俺は嬉しいです。よろしくお願いしますね」


 子どもである私の為に口調を柔らかくして、少しおどけた調子で接してくれるエルヴィンの、記憶と全く変わらない姿に嬉しくなる。


 エルヴィンは公爵家の内では数少ない私に同情的な人で、屋敷内で孤立していた私を、使用人たちには内緒でしばしば外に連れ出してくれた。

 お姉さまの側近の中では珍しい、お父様の側近も務めていた人で、そのせいか派手な役回りは任せてもらえない微妙な立場だった。


 私を娘のように思っていると言ってくれた、幼い頃の心の支え。

 教師にも指導をしてもらえなかった私に、こっそりと教本をくれたり、飢えているときにお菓子をポケットに忍ばせてくる優しさにずっと救われていた。


 いつまでも改善されない私の状況に耐えかねて、境遇をお姉さまに直接訴えようとした彼は、そのまま二度と私の目の前に現れなかった。

 当時はお姉さまの怒りを買ったに違いないと思っていたけれど、今ならお姉さまに告げる前に誰かに消されてしまったのだろうと考えがつく。


 今度こそは優しい彼を、そんな目には遭わせたくない。


「よろしくお願いします、エルヴィン」


「シュトゥルム卿、お嬢様に対してその口調はいかがなものかと。公爵家の令嬢を姫呼びするのも些か不適当でしょう?」

「そうかいユリウス? ブルーメ家は王族の血も濃い一族だし、北の大領主の直系なんだから姫で間違いないだろう? それに女の子は皆等しくお姫様扱いをされるべきだ。少なくともこれから外で戦っていかなきゃいけないお嬢様たちはな」

「二人ともそのくらいで止めてくれ。話が進まないだろう」


 二人は折り合いが悪いらしく、私の呼び方が気に障ったのか突っかかるユリウスをエルヴィンが笑いながらいなしている。

 お姉さまが止めると、二人ともすっと元の位置に戻る。


「二人とも優秀な部下だし、……夫人と違ってリリを傷つけるようなことは無いはずだから。出来るだけ私がリリの傍にいてあげたいけれど、それも難しいからそういう時は彼らを頼りなさい」

「……分かりました、お姉さま」


 真剣な顔で私に伝えてくるお姉さまが悲しまないようにしてあげたい。

 それは私が彼らに関する真実を知ってしまったからこそできること。

 私が生き抜くためにも、今彼らと関わることが出来るのは好都合なのだ。


「私、お姉さまに喜んでもらえるような立派なお披露目の会にしますから!」

お読みいただきありがとうございます。


次回更新予定 3/30 12:00

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