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公爵姉妹は幸せです  作者: 京栞


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109/110

#109

また遅れました、すみません!

「メニューをどうぞ。こちらはサービスのレモン水です」


 案内された席につくと、すぐに店主がコップに入った水二杯と、メニューを書いた紙を差し出す。


 こういった飲食店に入った経験は乏しいので、こういったところの常識は分からない。

 けれど、飲用に耐えるだけでなく、レモンで風味をつけの見やすくした水をサービスで提供し、平民の半分も出来ない読み書き能力を必要とするメニュー表があることから、相当裕福な層が顧客であることは明らかだ。

 まあ、そもそも平民のほとんどは、屋台で買い食いか、自宅で食べるのが常なので、店内飲食の時点である程度値が張ることは予想できたけれど。


 お姉さまは受け取ったメニュー表を開かず、そのまま私に受け渡すと、慣れた様子で注文を告げた。


「うん。私はいつも通りにコーヒーとチーズケーキを。リリは?」

「あっ。ええと、じゃあ、フルーツティーと、この、ぱ、ふぇ? をお願いします!」


 お姉さまに気を取られていて、何を注文するか決めていなかった。

 これまで喫茶店に入って、自分の意志で注文するということは無かったので、どんなものがあるかもよく分からない。

 私は慌ててメニューを確認して、咄嗟に目に入ったメニュー名を告げる。

 店主は鷹揚に頷いて、メモを取る。


「閣下にコーヒーとチーズケーキ、お嬢様にはフルーツティーとパフェですね」

「ぱふぇとは初めて聞くな。新しいメニューか?」


 お姉さまが小首を傾げて店主に尋ねる。

 目立つところに名があったので、てっきり有名な菓子なのかと思っていたけれど、お姉さまも知らなかったみたいだ。


「ええ。ここ二か月の間に始めた新しいスイーツなのですが、かなり評判が良いですよ」

「ここには、果物がアイスクリームと一緒に乗っていると書いてありました!」


 メニュー表には、それぞれの菓子の説明が簡単に書かれていて、パフェの欄には、「アイスクリームに、生クリームや果物・ジャムなどを添えて、グラスに彩りよく入れた冷菓」と書かれていた。

 寒冷な気候の北部では、冬のうちに氷を切り出して氷室で保管することが一般的な為、他の地方に比べて氷菓や冷菓のハードルは低い。

 料理長が微弱な氷の魔法を使えるブルーメ家では、アイスクリームは頻繁に出てくるデザートの一つでもある。


「はい。元は王都の喫茶店が出したスイーツだそうですが、王都から移転してきた店の評判がかなり悪く、こちらでアレンジし直したところ常連たちにえらくウケまして。あまりに注文されるものですから、今月からメニュー表にも加えたのです」

「王都からの移転? 中央と北部では気候もかなり違う。こちらで上手く馴染んでいけるか?」


 お姉さまが怪訝な顔で聞き返す。

 領主と言えども、一平民が王都から越してきたこと自体を把握するのは領の規模からして不可能だ。

 それでも気にする様子なのは、中央の人間が北部を馬鹿にする傾向があることを危惧しているのだろう。


 店主は苦笑いで首を横に振る。


「いえ、既に件の喫茶店は畳んで王都に戻ったようです。何やら王都の流儀とやらを近隣住民に押し付け揉め事になりかけたらしく……。ああ、詰所の衛兵の方には話してありますから、そのうち閣下のお耳にも入るでしょう。……パフェは作るのに少々お時間がかかりますから、お先にコーヒーとフルーツティーを。閣下もチーズケーキはお嬢様と同じタイミングでお出ししてよろしいですか?」

「ああ、頼む」


「……注文に慣れていらっしゃいますが、お姉さまはこのお店の常連なんですか?」

「常連と言えるほど頻繁には来れていないのだけれど、視察で街に来た時は大体来るわね。ここは店主がうちの元騎士でもあるから、半端な人間は近づけないし」

「えっ、そうなんですか」


 お姉さまの言葉に、そっとカウンターの店主を見るけれど、現役の騎士のような筋肉の大きさは無い。

 ただ、言われてみれば確かに、僅かに身のこなしが早く、無駄がない。


「まあ、店主が入れてくれるコーヒーが美味しいというのもあるけれど」

「お姉さま、普段は紅茶をお飲みになっていますよね?」


 お姉さまは、普段公爵邸でお茶をするときは必ず、一杯目をストレート、二杯目以降をミルクティーにして飲む。

 砂糖は基本的に入れないけれど、お茶菓子が無い時や、甘くない間食が出たときはティースプーン二杯分の砂糖を入れていた。


「ええ。コーヒーは色が黒いから貴族相手に出すには受けが悪いのよね。それに珈琲は色と苦みのせいで毒に気付けないこともあるし、なかなか良い豆を仕入れるのも、保管するのも大変だから」


 紅茶も、ミルクや砂糖に慣れ過ぎると、いざという時に気付くのが遅れることもあるからストレートは外せないわね。


 お姉さまが口にするものにも、毒が盛られるというのか。

 さらりと口に出された毒、という言葉に思わずどきりとすると、表情にでていたのだろう、お姉さまが安心してと苦笑する。


「大丈夫よ。実際に私が盛られた訳じゃないわ。けれど、過去に北部で事件になっていることだから、リリも北部貴族をもてなすときは気を付けた方が良いわね。年配の方であるほどそう言ったことはお気になさるから」

お読みいただきありがとうございます。


次回更新予定 10/16

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