#107
二話連続公開二話目です!
ここから数話ほど、閑話的なお話が続きます。
色々あった公爵邸もようやく落ち着き、人がいなくなったことで、私はお姉さまと一緒に過ごす時間が増えた。
私の授業も一時的に止まったままなので、大抵はお姉さまが執務をしている部屋のソファで小説を読んだり、刺繡を練習して過ごしている。
巻き戻る前から興味のあった小説は、実は一度も手に取る機会がないままだったので、公爵家で所蔵している小説を片っ端から読んでいる。
お姉さまは私に構えないことを申し訳なさそうにしていたけれど、これが結構楽しい。
刺繍も基礎だけは何とか知っている、というレベルだったけれど、お姉さまがカリカリと羽ペンを走らせる音に耳を傾けながらする刺繍は、いつもより集中できる気もする。
そろそろ練習用の布ではなく、ハンカチとかへの刺繍を考えてみるのも良いかもしれない。
そんな感じで過ごしていたある日、私はお姉さまに誘われて、公爵邸のすぐ裏側にある馬房に来ていた。
「リリ、馬房は大きい馬も多いから私からあまり離れないでね」
「はい、お姉さま」
公爵邸の馬房には、お姉さまの馬だけでなく、公爵邸に常駐している騎士の馬、馬車を引く用の馬、伝令用に育てられているとにかく速い馬など、約五十頭近くが飼われている。
馬の体はとても大きく、特に後ろからうっかり近づいてしまうととても危険だからと、これまで近寄らないように言われていた。
お姉さまに付いて、馬房の奥側にある一際広い部屋まで行くと、お姉さまはそこにいた一頭の姉さまと一緒に過ごす時間が増えた。
私の授業も一時的に止まったままなので、大抵はお姉さまが執務をしている部屋のソファで小説を読んだり、刺繡を練習して過ごしている。
巻き戻る前から興味のあった小説は、実は一度も手に取る機会がないままだったので、公爵家で所蔵している小説を片っ端から読んでいる。
お姉さまは私に構えないことを申し訳なさそうにしていたけれど、これが結構楽しい。
刺繍も基礎だけは何とか知っている、というレベルだったけれど、お姉さまがカリカリと羽ペンを走らせる音に耳を傾けながらする刺繍は、いつもより集中できる気もする。
そろそろ練習用の布ではなく、ハンカチとかへの刺繍を考えてみるのも良いかもしれない。
そんな感じで過ごしていたある日、私はお姉さまに誘われて、公爵邸のすぐ裏側にある馬房に来ていた。
「リリ、馬房は大きい馬も多いから私からあまり離れないでね」
「はい、お姉さま」
公爵邸の馬房には、お姉さまの馬だけでなく、公爵邸に常駐している騎士の馬、馬車を引く用の馬、伝令用に育てられているとにかく速い馬など、約五十頭近くが飼われている。
馬の体はとても大きく、特に後ろからうっかり近づいてしまうととても危険だからと、これまで近寄らないように言われていた。
お姉さまに付いて、馬房の奥側にある一際広い部屋まで行くと、お姉さまはそこにいた一頭の雪のように白い雌馬に声をかけた。
「グレイシア」
お姉さまの声に反応して、頭を上げた雌馬はゆったりとした足取りで私たちのところまでやってきた。
どこかで見たような記憶があると思えば、お姉さまが孤児院に駆け付けてくださったときに騎乗していた馬だ。
お姉さまは、雌馬の背を優しく撫でながら話しかける。
「リリ、私の愛馬グレイシアよ。リリよりは一つ年上かしら。グレイシア、改めて紹介するわ。私の妹のリリアーネよ」
お姉さまにそっと促されて、私も一歩前に出て微笑みかける。
真正面から見るグレイシアの瞳は、まるで宝石のような美しい黒さをしている。
「グレイシア、初めまして。私はお姉さまの妹のリリアーネよ、よろしくね」
『へえ、あなたがメグの妹? 随分と小さい子ねぇ』
私がグレイシアに話しかけると、すぐに頭の中に直接、少し気の強そうな女性の声が響く。
慌てて辺りを見渡しても、お姉さま以外の人間は私の傍にいない。
もしかしてと、グレイシアを見るとフン、と鼻を鳴らされた。
それを見たお姉さまが優しく微笑み、説明してくれる。
「⁉ お、お姉さま、頭の中に声が……」
「良かったわ、リリにも聞こえるのね。グレイシアは父親が聖獣であるユニコーンだから、知能も高く、いくつか魔法が使えるの。人間相手に意思疎通をするには、相性が関わるから賭けでもあったけれどね」
魔力の高さみたいな単純な基準でもないようだし、私以外に聞こえる人は、グレイシアの世話係をやっている厩番くらいだったの。
お姉さまがそう言うと、それに反応するようにまた頭に声が響く。
『メグの妹だもの、それくらい出来なきゃ困るわよ。……わたくしはグレイシア。メグの親友よ』
「グレイシア。私にとってはやっと出会えた妹だから、リリのことはお前も大切に守って頂戴」
『メグが言うなら仕方ないわね。リリアーネ、わたくしを頼ることを許して差し上げるわ』
お姉さまの言葉に不承不承といった感じで頷いた様子のグレイシアに、嫌われてしまったかとお姉さまの袖を引っ張る。
「お、お姉さま」
「大丈夫よ。グレイシアはこう見えて子供が大好きだから、リリたちを迎えに行った時もみんなのことをとても気にしていたのよ」
お姉さまの暴露にグレイシアがヒンと鳴き、照れたような声色で抗議している。
『べ、別にあなたたちが特別心配だったわけではないわ! 子どもを粗末に扱うような下劣なやつらが気に食わないだけで……』
私は丁度さっきまで読んでいた小説を思い出した。
ああ、これが俗に言うツンデレ……。
「……グレイシアは可愛らしいお馬さんなんですね?」
「でしょう?」
私が言うと、お姉さまは我が意を得たりというように頷き、グレイシアは器用に顔をそむけた。
『は、恥ずかしいからやめてちょうだい……』
それにしても、グレイシアはとっても綺麗で、そして大きい馬だ。
孤児院に来た時は、ビリーとお姉さまの二人を乗せてきたけれど、私でもお姉さまと一緒に乗れるだろうか?
馬上の景色はどんな感じなんだろう。
そんなことを考えながらグレイシアを見つめていると、お姉さまが壁にかけてある鐙を指して提案してくれた。
「折角だから、私と一緒にグレイシアに乗って、領都の街にでも出てみない?」
「いいんですか⁉」
公爵邸に来てからというもの、安全の確保が難しいと外出は禁止されていて、それは巻き戻り前もそうだったので、実は領都をほとんど知らないのだ。
唯一、巻き戻り前のエルヴィンが二回だけ使用人の目をぬすんで連れ出してくれたことがあったけれど、それもあまりに短い時間だったので、何があったかはほとんど覚えていない。
大きな町には本屋だったり手芸やだったり、甘いスイーツが食べられるカフェというのもある。
行けるものなら行ってみたい。
「ええ。帰ってきてから領都の警備を強化したから、今までよりも更に安全になっているもの。まあそれでも、私から決して離れないと約束してくれるなら、という条件はあるけれど」
元よりお姉さまから離れるつもりはないので、条件の内にも入らない。
私は勢い込んで頷いた。
「私、絶対お姉さまから離れません! 是非、街へ行かせてください‼」
お読みいただきありがとうございます。
次回更新予定 10/12




