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公爵姉妹は幸せです  作者: 京栞


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105/110

#105

お待たせしました!

金曜ぶりの更新です。

「エルヴィン……」


 私の巻き戻りは、私が願って起きた事象ではない。

 女神の存在を疑うつもりはないけれど、会ったことは勿論、声を聞いたこともない私と、エルヴィンの慕うその人は、きっと違う。

 私は確かに、一度目の死の瞬間に後悔を抱えていたけれど、それが理由やきっかけと言われてもまるで意図が分からない。

 私はただ、死んでしまっただけ。

 運良く、二度目の機会を得ることはできたけれど、次はきっとない。


 ……何より。

 誰かの為に命を削って人を助けられるほど、きっと私は出来た人間じゃない。

 私がそれをできるとすれば、きっとお姉さまか、お姉さまが大事に想っている人を救うためだ。


 エルヴィンの懇願する声が、どうしようもなく苦しそうで、どんな言葉をかけることが正解なのかも分からない。

 開いた口は、ただ、彼の名前を呼ぶことしかできなかった。


 しばしの沈黙を破ったのは、アノンだった。


「不幸か幸いか」

「アノン?」

「リリアーネ・ブルーメが与えられたのは、たった一度のやり直しだけ。貴方が慕っていた女性とは、状況は似ていても、条件が違う」


 だから、過度に過去と重ねて見るべきではありませんよ。

 アノンが淡々と述べると、ハッとしたように、エルヴィンが体をアノンの方向へ前のめりに傾ける。


「リリアーネ様は、リーリエ様みたいに苦しむことにはならないと?」

「それが本当の苦しみかどうかは分からないけれどね。リリはもう二度と失った時も人も、取り戻すことはできない。それだけは確かですよ」


 アノンはそうはっきりと言いきった。

 お姉さまが少しだけ迷っている様子で口を開く。

 心配そうな瞳が、一瞬こちらを向いて、すぐにアノンに向けられる。


「貴方は、リリが私の代わりに巻き戻ったといつか言っていたわね? リリが私の為に代償を背負ってここにいる、なんてことはまさかないわよね?」


 念を押すようにゆっくりと、確かめられたアノンは、曖昧に笑った。


「……まあ、それはあると言えばある」

「なんてこと⁉」

「は⁉」


 ガタッ!

 思わず、といった風に同時に立ち上がってしまったお姉さまとエルヴィンがずいと、アノンの方へ乗り出す。

 私は、思わぬ話に、少しだけ怖くなってしまった。

 私の表情に気付いたお姉さまが、そっと私の肩に手をやった。


 アノンは、何一つ変わらない冷静な表情でさらっと言った。


「そんなに過剰反応するほどじゃないよ。ただ単に、リリは一度消滅しかけていた魂を無理やりつなぎとめて、その後に時間を巻き戻してもらったから、辛い記憶も何もかも覚えているってことだから」


 皆にとっては初めての時間でも、私にとっては思い入れの深い時間かもしれないし、逆により苦しさを増してしまうような時間になるかもしれない。


 お姉さまもエルヴィンも、それぞれに想像したのか、微かに顔を顰めている。


 私の一度見た世界は、既に以前とは違う歩みをしつつある。

 二度と、失わないためになら、多少の苦しみも耐える覚悟はできている。

 それでも。


「二周目の苦しみは、埋めようにも埋めれないんだから、リリのことは出来るだけ悲しませないで欲しいよ。ね、リリ?」

「そう、だね」


 言いたいことを言うなら、今だよ。

 そんな風に目で訴えかけてきたアノンに小さく頷き、エルヴィンとお姉さまをそれぞれ一度真っ直ぐ見つめる。

 二人は些か怪訝な顔で首を傾げた。


「リリ?」

「姫様?」

「お姉さまも、エルヴィンも。私は一度目の時も二人のことが大好きで、いろいろしてくれようとしているのはわかってるから。だから、無理をしないで欲しいんです」


 エルヴィンは私を公爵家より平和な場所へ連れて行こうとして、お姉さまは私がもっと穏やかに暮らせる場所を作ろうとして、私の前からいなくなってしまった。

 私の一番に求めていることは、そうじゃなくて。


「……だから、私と一緒にいてください! 勝手に、いなくならないで! わ、私、をっ、おいでいがないでぇっ!」


 耐えきれずに最後の方はぐしゃぐしゃになりながら、泣いて叫んでしまった私に、目を軽く見開いたお姉さまが、おずおずと私を抱きしめてくるので、こちらからもぎゅっと抱き着きしがみつく。

 精神年齢から、肉体の年齢へと大分引っ張られてしまった私は、泣き止むこともなかなか容易ではなかったけれど、お姉さまは私が泣き止むまで、ずっと抱きしめていてくれた。


 私が泣き止むと、エルヴィンがおずおずと私に手を差し出してきたので、私はその手をつかんで自分の頭の上に置き、無理矢理撫でさせる。

 少しだけ困ったような顔をしてみせたエルヴィンは、お姉さまが頷いたのを見ると、ゆっくりと、髪型を崩さないように繰り返し撫でてくれた。


 アノンがホッとしたような、寂しく感じているような笑顔で、私を見つめていたことに、私は気付かず、二人に甘えて見せるのだった。

お読みいただきありがとうございます。

金曜日は月曜日休んだ分も含め、二話更新できるように頑張りたいと思います。


次回更新予定 10/9

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