#103
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「おじいさまの異母妹ということは、リーリエ様も当時は子供だったのだろう? ひいおじい様たちが見知らぬ子供を信用するとも思えないが」
お姉さまが首を傾げて尋ねる。
確かに、旅人に親切をすることと明らかな武装をして洞穴に潜む貴族男性を助けるのでは全く訳が違う。
「そうですね、リーリエ様を信用なさったと言うよりは、罠である可能性を踏まえてでも、早く味方と合流したかったのかと」
「だが、案内されたのは敵将の前だったのだろう? ……よくリーリエ様は殺されなかったものだ」
「ああ、いえ、リーリエ様たちが直接接触したのは洞穴で食料を渡した一回のみで、食事を用意し、抜け道の位置を教えてすぐに去ったそうです。このまま食料のない所為で飢え死にするよりは、戦って死ぬ方がまし、くらいだったのかもしれません。結果頭を失った隣国はその後衰退していくわけですから、リーリエ様の話に従ったのは英断だともいえるでしょう」
リーリエ様が教えた抜け道の先は、敵の本陣が敷かれている場所の裏側で、まさに将軍の休憩所の丁度真後ろだったそうだ。
抜け道についても、そのまま味方と合流できる抜け道も教えられ、最終的に敵陣を選択したのはおじい様だそう。
「それでは、その時に公爵家の娘であるとリーリエ様がおっしゃったのだな?」
エルヴィンは首を横に振って否定した。
「いえ、自らの素性については一切語らず、ブルーメ家には恩があるからとだけ言ってその場を去られたので、先々代は人間ではなく、妖怪や魔物の類かとも疑われたのだとリーリエ様が昔こぼされておりました」
「魔物ですか……」
苦笑して言うエルヴィン。
隣国との境は戦争の影響から未だに開発が進んでいないから、知らない魔物がいてもおかしくはない。
人型の魔物も珍しくはあるが、存在しないわけではない。
代表的な人型の魔物でいえば狼男だろうか。
あれは、見た目は完全に二足歩行の狼らしいが、遠くから見れば人に見えなくもない。
伝承として残っている特殊な魔物には、雪女や人魚といった人に近い形を持つ魔物の話だってある。
ある、が。
「……リリのおじいさんを悪くは言えないけど、魔物と思われるなんて流石に可哀そうだね」
「うん……」
微妙な顔のアノンが横からこそこそと囁くのに、思わず頷く。
リーリエ様からエルヴィンに伝わっているなら、本人の前でそんな発言をなさったのだろう。
いや、もしかしたら、おじい様はリーリエ様に直接魔物かどうか尋ねたのではないだろうか、そんな恐ろしい考えが頭を過る。
たとえそうでなくとも、女性に対して魔物だと思ったと言うのはちょっとどうかと思う。
渋い顔になった私やお姉さまに、エルヴィンが慌ててとりなすように続ける。
「でも、それも仕方がないかとも思えますよ。リーリエ様は、異国の血を引く顔立ちと、不思議な雰囲気をお持ちの方でしたから。勿論とても美しい方でもありましたし。追い込まれている場面で出会ってしまったら、幻覚か精霊の類かと私なら思ったでしょうね」
公爵家の方々とは同じ色を持っていても、それによって与える印象は全くの真逆。
公爵家の方々は皆さまかなり凛々しい雰囲気や振る舞いをなさる方が多いですし、先々代も実際そうでしたが。
リーリエ様は逆にいつもふわふわとした感じの見た目だけで言えば、完全に傾国の美女も目指せるようなご容姿でした。
そう言いながら懐かしむような表情で窓の外を見るエルヴィンは、いろいろなものを耐えているようにも見えた。
もしかしたら、リーリエ様はエルヴィンの初恋のお姉さんだったりするのだろうか。
そう感じるくらいには、エルヴィンの瞳に切ない色を感じさせていた。
エルヴィンは数秒ほど、押し黙ると、思いを振り払うように首を振り、ややあって話し出す。
「無事に戦争を終え、北部へと戻った後先々代が視察のついでに寄った湖のほとりの小屋で、リーリエ様は暮らしておられました。すぐに去ろうとしたリーリエ様を引き留め、いろいろと事情を尋ねられた結果、ブルーメ家の血筋であられることが判明し、公爵家に入られることとなったのです」
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次回更新予定 10/2




