#102
「当主と、嫡男……。年代から考えるならば、ひいおじい様とおじい様をか?」
「はい。ヒューグン大戦役について、お二人はどのくらいのことを知っていますか?」
聞き覚えがあるような、無いような。
自分の中の薄い政治や戦争の知識を遡る。
「確か、隣国との戦争で一番犠牲を出したものでしたか?」
私の言葉に、お姉さまが補足をするように続ける。
「戦場自体は隣国と接している西部が大半だったが、ヒューグン大戦役は西部貴族の代替わりが多かったタイミングで起こされ、王室が北部や南部から出兵させるまでまともな戦いにはならなかった。ひいおじい様は西部貴族が安定すると、ブルーメ単独で隣国へ潜入し、初陣だったおじい様が当時の隣国の将軍を討ちとり、隣国との戦争そのものを終戦へと導いた。私が知っているのもこの程度ね。公爵家が活躍した戦でも、これは北部の戦ではなかったから」
エルヴィンは軽く頷いた。
「表向きにお教えできることはそのくらいで間違いありません。公式に記録に残されている資料には、敵地へ乗り込んだことを称賛するような記録に改変されていますが、ブルーメ家による情報統制の結果なのです」
「どういうこと?」
「マーガレット様のおっしゃる通り、この戦争は先々代の初陣でして、側仕えとして随従したもっとも血の近い分家の跡取りが、隣国と通じて先々代を敵陣へと連れ去ったのです」
エルヴィンが説明すると。神父様が感心したような声で言う。
「ブルーメの跡取りに手を出すとは、なかなか無謀なことをしますね」
「というか、連れ去るよりもその場で殺してしまった方が確実だったでしょうに」
それを呆れたような顔で見つつ、アノンも続けて発言した。
「確かに、なんでおじい様は無事だったんですか?」
「裏切った方はそのつもりだったようですが、隣国は魔力持ちの少なさから、魔力の強い人間を求めていたらしく。睡眠薬を盛られて隣国の研究所に連れていこうとしたそうで」
「なるほど、そこから救助をしたのがリーリエ様か」
お姉さまが納得したように言ったのを、エルヴィンが首を横に振って否定する。
「いえ、隣国の魔力持ちへの警戒は足りなかったようで、自力で抜け出し、国境近くまではご自身でいらしたそうです」
「流石はブルーメ家。お若い頃から優秀なのですね」
神父様がまた褒めるように言うと、エルヴィンが誇らしげに言う。
「血が優秀ということもあるが、何より研鑽を忘れない性格の方が多いからな。……先々代はブルーメ家本陣と合流したのですが、追っ手に追いつかれました。追っ手の数は多くなかったものの、隠密に長け、生死を問わぬとばかりに降り注ぐ毒矢に家臣たちは散り散りに、先々代とご当主は敵陣の中に孤立する形になってしまったそうです」
家臣の多くは、自国側へ逃げ戻ることが出来たものの、肝心の主人がいないのでは話にならない。
かといって、不在が隣国に伝われば、主人が捕らえられたり、殺されたりするかもしれない。
家臣たちは密かに捜索をするしかできなかったそうだ。
「孤立してしまった場合、国境付近とはいえ、周囲に敵がいる中で、当主と次期当主のみで駆け抜けることは危険でしかありません。仕方なく、近くの洞穴で一夜を過ごすことにされたそうです」
「妥当な判断ね。……私も一人で野営をする訓練を受けたが、ここから来ているのかしら」
「ええ、お二人とも常に世話係や侍従が控えているような生活だったそうでかなり苦しまれたようです。記録には残さずとも、次代に備えはさせるべきと考えられたのだと思いますよ」
お姉さまが合点がいったという風に頷いた。
「幸いにも追っ手が洞穴を発見することはなく、一夜を明かしたものの、火おこしをするのがせいぜいで、食料を得るにも精一杯だったようです。それを解決なさったのが、『偶然』通りかかったリーリエ様と異父兄のアサツキ殿でした」
「偶然?」
「山奥の、兵士が囲んでいるような場所にある洞穴に、わざわざ向かうことはあり得ないでしょう。リーリエ様たちは、『偶然』洞穴を見つけ、『偶然』持っていた食料を提供し、『偶然』知っていた兵士には知られていない、隣国の補給所の間への抜け道を教えました。そして、『偶然』居合わせた将軍は、先々代に打ち取られることになったのです」
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次回更新予定 9/30




