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公爵姉妹は幸せです  作者: 京栞


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101/110

#101

すみません、間に合いませんでした!

「それ、は……」

「……」


 「戻った」。

 この言葉が指し示したところはつまり、私の巻き戻りと同じだ。

 私以外に、このブルーメ家に、時を戻った人がいた。

 その事実に私とアノンは驚き、そして困惑していた。


 それにエルヴィンは今はっきりと、私と同じようにと言ったのだ。

 エルヴィンは私に起こったことを把握しているということになる。

 エルヴィンは私たちが普通の子どもがする以上のことをやってのけても、いつも態度を変えなかったが、それは最初から私たちの中身に気付いていたということなのだろうか?


 お姉さまが険しい顔でエルヴィンに尋ねる。


「エルヴィン、つまりお前はリリが未来から巻き戻っていることに気付いていた、ということ? 一体いつから?」

「違和感自体は、初めてリリアーネ様にお会いした時からですが、確信を得たのは自分に冤罪がかけられたときですね。孤児院で大人に裏切られたばかりの子どもが、出会って間もない大人をそう簡単に信用するはずがありませんから」


 それに、いくらブルーメと言っても、この歳であの行動力と言動は優秀を通り越して異常です。

 俺はそんなのはマーガレット様だけで十分ですよ。

 そう言ってエルヴィンは苦笑した。


 確かに、私は巻き戻ってエルヴィンと再会してから、一度も彼を疑わなかった。

 それは既に前の時間で、彼と過ごした記憶を持っている私からすれば、違和感は全くなかったが、確かに、孤児院で奴隷として売られる寸前だった女の子が、初対面の貴族男性に素直に懐くのかと言われれば、それは難しいと思う。


「リリアーネ様は、この先に起こる出来事を一度体験してきたのですね?」

「……えっと、その、黙っていてごめんなさい」


 言い訳も思いつかず、素直に頭を下げると、エルヴィンは謝る必要なんてないと首を横に振った。


「いえ、当然の警戒だと思いますよ。むしろ迂闊に告白されていたら、まずは敵の俺を懐柔するための仕込みを疑ったでしょうから。関連する資料はほとんど抹消したとはいえ、当時を知る者の口を完全に塞ぐことは不可能ですし」

「資料を抹消か。それで私は聞いた覚えがないのか?」


 エルヴィンの言葉にお姉さまが納得したように声を上げる。

 頷いたエルヴィンの返答に、神父様が補足を付け加える。


「リーリエ様の死後は、彼の方ご自身の御遺言と、先々代のご命令でリーリエ様の名が刻まれた資料は廃棄・末梢の上、公的な場でお名前を出すことの一切を禁じられましたから。元々、公爵邸にお住まいの方でもありませんでしたし」

「北部神殿の禁書庫の一つに、一応資料が残してありますが、あそこは人の出入りを制限しているうえに表向きは天候に関する資料しか置いていないことになっております。存在を知っている者が調べなければまず見つけることも不可能でしょう」


 私の横で、アノンが小さくつぶやいたのが耳に入った。


「……僕が知っている女神関連の資料は全て中央のものだ。まして名を語ることも許されなかったのであれば、確かに筋は通っているのか」


 お姉さまはなおもエルヴィンに問いかける。


「リーリエ様は、どんな方だったんだ?」

「リーリエ様は、先々々代の公爵閣下……ややこしいですね。つまりお二人のひいおじい様にあたる方が、外国出身の侍女に産ませた娘、ということになっています」

「なって、います?」


 言い方に引っかかりを感じて私は首を傾げた。


「リーリエ様の母親は外国から出稼ぎにきた妓女で、すでに誰が父親か分からない息子がいたのです。リーリエ様ご自身も公爵邸ではなく、貧民街でお育ちになっていますが、公爵家の籍に加えるときに外聞が悪いからと書き換えられたそうです」

「ひいおじい様は随分勝手な方なんだな。身籠らせておいて、市井で育てさせるなど」


 お姉さまがすこし怒ったようにこぼした言葉に内心で同意する。

 私のように不幸が重なった結果ならともかく、最初から子どもがいる相手を身籠らせてその責任を取れないのは、ご先祖とはいえ人としてどうなのか。


 エルヴィンは首を横に振ってそれを否定する。


「いえ、それが、公爵家の方は誰一人、リーリエ様の存在をご存じなかったのですよ。行きずりで妻以外の女性と関係を持つことも、あまり褒められたものではありませんし、身籠らせるつもりは無かったのでしょう」

「それでは何故、リーリエ様は公爵家に? 何か存在を認知させるきっかけがあったのだろう?」

「……リーリエ様が、公爵家当主と、その嫡男の命を救ったのです」

お読みいただきありがとうございます。


次回更新予定 9/28

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