第66話 一回流れた便器を、そのまま営業に使わないでください
第三便所。
WC-RC-002。
次は。
人が使う試験です。
白い便器の横。
札。
試験運用中。
一日二十利用まで。
異常時は使用停止。
「最初は普通の利用者からです」
直人が言うと。
モルドが便器を見る。
「俺たちじゃ駄目か」
「使い方を知っている人だけで試しても、実際の運用になりません」
「なるほど」
◇
一人目から四人目。
洗浄。
一回ずつ。
漏れなし。
排水正常。
回収槽。
到達。
問題なし。
◇
五人目。
若い荷運び人。
札を確認し。
中へ。
やがて。
ごう。
一回目。
床下正常。
回収槽到達。
だが。
扉が開かない。
◇
五秒。
十秒。
「……長いですね」
フィルが扉を見る。
ロッカ。
「床下は静かだ」
ミーナ。
「給水も止まっています」
設備側。
異常なし。
なのに。
利用者が。
出てこない。
◇
中。
男は。
便鉢をのぞいていた。
汚物は流れている。
だが。
底には。
透明な水。
「まだ残ってる」
札。
ひもを一度引く。
「一回は引いた」
便器。
水。
残る。
「終わってないのか?」
◇
男の手が。
ひもへ伸びる。
止まる。
もう一度。
伸びる。
外。
縄。
擦れる。
次の瞬間。
ごう。
二回目。
「二回です」
ロッカ。
「排水正常」
オグ。
「回収槽、二回目到達」
ミーナ。
「給水異常なし」
故障ではない。
◇
男が。
出てくる。
「一回目のあと、水が残ってたんだ」
「それは正常です」
「正常?」
「臭いが上がらないように残す水です」
「わざと残してるのか」
「はい」
「じゃあ、一回目で終わってたんだな」
フィル。
記録。
五人目。洗浄二回。
理由――封水を流し残しと判断。
◇
六人目。
一回。
七人目。
一回。
八人目。
高齢の男。
札を読み。
中へ。
ごう。
一回。
そして。
また。
扉が開かない。
◇
中。
男は。
札と便器を。
交互に見る。
「二度は駄目」
便器。
水が残る。
「でも残ってる」
札は。
読んでいる。
それでも。
残った水の意味が。
分からない。
やがて。
ごう。
二回目。
◇
「八人目も二回」
設備。
異常なし。
男が出る。
「札は読んだ。でも水が残ってるから、流し切れてないと思った」
「残っている水は正常です。臭いを止めるために残しています」
男は。
札を指した。
「それを最初から書いてくれ」
◇
二件。
同じ迷い。
案内不足。
確定。
ただし。
一日目は。
同じ条件のまま。
二十利用まで。
続ける。
◇
九人目から十五人目。
一回ずつ。
異常なし。
十六人目。
小柄な女性。
「ひも、少し高いですね」
届く。
だが。
引きにくい。
記録。
◇
十七人目から。
二十人目。
一回ずつ。
「二十利用。終了です」
◇
一日目。
設備。
漏れなし。
排水不良なし。
がたつきなし。
運用上の問題。
三点。
封水を流し残しと思う。
洗浄ひもが高い。
水量の用途を分けて記録できていない。
◇
ここで。
まとめて直す。
案内。
絵中心。
① ひもを一回引く。
② 流した後、水が少し残ります。
③ この水は正常です。
その下。
臭いを止めるための水です。
最後。
大きな×。
二回続けて引かない。
◇
洗浄ひも。
短い延長。
追加。
小柄な人でも。
無理なく。
引ける高さ。
◇
一洗浄。
6L。
一日目。
20利用。
22洗浄。
利用洗浄水。
132L。
清掃水。
18L。
試験洗浄水。
12L。
総流入量。
162L。
◇
二日目。
口頭説明。
なし。
案内と。
ひもだけで。
使えるかを見る。
◇
一人目。
初めて使う。
市場の荷運び人。
ごう。
一回。
少しして。
ごう。
二回目。
◇
「案内は見ました?」
「案内?」
原因は。
すぐ分かった。
札。
扉を開くと。
隠れる。
閉めると。
現れる。
だが。
その時には。
利用者は。
便器を向いている。
座った位置から。
札は。
左後ろ。
◇
内容ではなく。
位置。
直人は。
札を。
便器正面へ移した。
立って。
見える。
座って。
見える。
扉を開けても。
隠れない。
◇
二人目。
若い石工。
説明なし。
中へ。
ごう。
一回。
便鉢。
水が残る。
ひもへ。
手が伸びる。
その時。
正面の札。
流した後、水が少し残ります。
手。
止まる。
この水は正常です。
「これでいいのか」
◇
扉。
開く。
追加洗浄。
なし。
「もう一回流そうと思ったけど、札を見た」
フィル。
記録。
◇
その後。
二十人目まで。
二度流し。
なし。
洗浄ひも。
問題なし。
二日目。
終了。
◇
結果。
20利用。
21洗浄。
二度流し1件。
利用洗浄水126L。
清掃水18L。
試験洗浄水12L。
総流入量156L。
ただし。
掲示位置変更後。
19利用・19洗浄。
二度流し0件。
◇
「三日目は」
直人が言った。
「途中で直しません」
「問題が出ても?」
「安全に関われば止めます。それ以外は最後まで記録します」
一日目。
問題を見つけた。
二日目。
直した。
三日目。
見るのは。
直した状態が一日持つか。
◇
三日目。
予定。
20利用。
20洗浄。
利用洗浄水120L。
清掃水18L。
試験洗浄水12L。
予定総流入量。
150L。
途中修正。
0件。
◇
翌朝。
三日目。
正面の案内。
昨日の位置。
洗浄ひも。
昨日の高さ。
固定部。
接続部。
そのまま。
◇
開店前。
試験洗浄。
二回。
12L。
排水正常。
漏れなし。
清掃。
18L。
フィルが。
記録紙を開く。
最上段。
通常運用移行判定。
まだ。
空欄。
◇
一人目。
旅商人。
この便器を。
初めて見る。
「使い方は?」
「中に案内があります」
それだけ。
◇
ごう。
一回。
五秒。
十秒。
十五秒。
二度目。
なし。
扉。
開く。
「水が残ってたけど、札に書いてあった」
フィル。
1利用・1洗浄。
追加洗浄0。
◇
二人目。
杖を使う。
年配の女性。
座る。
立つ。
一度。
壁へ。
手を伸ばす。
直人の視線が。
止まる。
だが。
ふらつき。
なし。
転倒。
なし。
低くしたひも。
届く。
ごう。
一回。
◇
「立つ時が少し怖かったけど、使えたよ」
フィル。
2利用・2洗浄。
その横。
立ち上がり時、壁へ手を伸ばす動作あり。
「手すり、付けます?」
「今日は触りません」
安全上。
即停止するほどではない。
だが。
改善項目には。
残す。
◇
三人目から九人目。
一回ずつ。
追加洗浄なし。
◇
十人目。
ごう。
一回。
扉。
開く。
フィルが。
記録を数える。
10利用。
10洗浄。
半分。
予定通り。
それでも。
誰も。
安心しない。
◇
十一人目。
十二人目。
十三人目。
一回ずつ。
◇
十四人目。
洗浄。
一回。
その後。
扉が開かない。
五秒。
十秒。
十五秒。
フィルが。
顔を上げる。
縄。
動かない。
二十秒。
やっと。
扉。
開く。
「水が残ってて、本当にこれでいいのか二回読んだ」
追加洗浄。
なし。
14利用・14洗浄。
◇
十五人目から十九人目。
一回ずつ。
二度流し。
なし。
十九人目。
扉。
開く。
フィル。
19利用。
19洗浄。
あと。
一人。
◇
二十人目。
仕事帰りの職人。
中へ。
しばらくして。
ごう。
一回。
ロッカ。
「排水正常」
ミーナ。
「給水正常」
オグ。
「回収槽、到達」
まだ。
終わりではない。
◇
五秒。
十秒。
十五秒。
二十秒。
縄。
動かない。
二十五秒。
扉。
開く。
「水、残ってるぞ」
フィルの顔。
一瞬。
固まる。
男は。
続ける。
「でも札に、残ってていいって書いてあるな」
直人。
頷く。
「はい」
◇
フィルが。
最後の線を引いた。
20利用。
20洗浄。
二度流し0。
オグが。
息を吐く。
「通ったな」
「まだです」
直人が言った。
◇
空気が。
止まる。
「二十人終わったぞ」
「利用試験は」
直人は。
白い便器を見る。
「終わりました」
次。
床。
次。
確認口。
次。
回収槽。
「設備が、一日持ったかを確認します」
◇
直人は。
最初に。
便器の前へ。
しゃがんだ。
今朝。
確認した時と。
同じ位置。
まず。
外観。
便鉢。
縁。
便座周辺。
固定穴。
目で追う。
ひび。
欠け。
なし。
◇
次。
両手。
便器の左右。
軽く。
押す。
右。
左。
前。
後ろ。
便器。
動かない。
床との間。
隙間。
増えていない。
「固定部」
フィルが。
筆を構える。
「がたつきなし」
一本。
記録。
◇
直人は。
便器の根元へ。
指を滑らせる。
乾いている。
だが。
表だけでは。
足りない。
「ロッカ」
「分かった」
◇
床下確認口。
蓋。
外す。
ロッカが。
灯りを持って。
中へ。
直人も。
膝をつく。
排出口。
標準接続部。
排水管。
見える。
接続部の下。
乾いている。
床材にも。
新しい濡れ跡。
なし。
「布」
ロッカが。
乾いた布を。
接続部の下へ。
軽く当てる。
戻す。
白い布。
変化なし。
「乾いてる」
フィル。
接続部漏水 なし。
◇
直人は。
まだ。
顔を上げない。
接続部。
目で。
一周。
見る。
片側だけ。
押された跡。
なし。
管。
無理に。
曲がっていない。
固定位置。
朝と同じ。
「ずれは?」
ロッカが。
基準印を見る。
「なし」
排水管。
朝。
付けた。
細い印。
そのまま。
移動していない。
「接続位置、変化なし」
フィル。
追記。
◇
次。
床下。
周囲。
ロッカが。
灯りを動かす。
配管の下。
床梁。
回収側へ向かう管。
水滴。
なし。
湿り。
なし。
臭い。
異常なし。
「床下」
「異常なし」
◇
確認口。
まだ。
閉めない。
「最後の排水」
直人が言う。
「もう一回流す?」
オグが聞く。
「利用洗浄には数えません」
最終確認用。
別記録。
直人が。
指定量。
六リットル。
用意する。
「最終設備確認水、六リットル」
フィル。
別欄。
記録。
◇
便器へ。
所定量。
入れる。
ひも。
一回。
ごう。
全員。
別々の場所を見る。
直人。
便器。
ロッカ。
接続部。
オグ。
回収槽。
ミーナ。
給水。
◇
水。
便鉢を。
回る。
落ちる。
排出口。
通る。
床下。
管。
振動。
一度。
だが。
ずれない。
「接続部」
ロッカ。
布。
当てる。
「漏れなし!」
「回収槽」
オグ。
「到達!」
「給水」
ミーナ。
「補充正常!」
◇
直人は。
便鉢を見る。
封水。
規定位置。
戻る。
減りすぎ。
なし。
溢れ。
なし。
「最終排水」
「正常」
フィルの。
筆。
また。
一つ。
進む。
◇
次。
回収槽。
全員。
外へ。
オグが。
蓋の横。
測定棒。
出す。
朝。
開始位置。
印。
残っている。
予定。
三日目。
利用洗浄。
120L。
清掃水。
18L。
開店前試験洗浄。
12L。
ここまで。
150L。
そして。
今。
最終確認。
6L。
合計。
156L。
◇
「水位」
オグが。
測る。
棒。
下ろす。
止める。
上げる。
濡れた位置。
予定線。
比べる。
フィルが。
身を乗り出す。
「どうです?」
オグ。
もう一度。
線を見る。
「範囲内」
◇
誰も。
まだ。
声を上げない。
直人が。
数字を見る。
予定流入。
156L。
回収槽水位。
許容範囲。
大きな不足。
なし。
大きな超過。
なし。
「回収槽」
「異常なし」
フィル。
記入。
◇
次。
給水。
ミーナ。
供給容器。
残量。
確認。
開始量。
記録。
使用。
記録。
大きな差。
なし。
「給水側も合っています」
「漏れた形跡は?」
「ありません」
給水管。
接続。
床。
乾いている。
給水側漏れ なし。
◇
残る。
一つ。
直人は。
便器へ戻る。
「まだあるの?」
オグが言う。
「最後です」
便器。
固定部。
もう一度。
見る。
最終確認洗浄の後。
動いていないか。
手。
左右。
軽く。
押す。
動かない。
「固定」
フィル。
待つ。
「変化なし」
◇
そこで。
初めて。
直人が。
立ち上がった。
床下確認口。
閉じる。
蓋。
固定。
回収槽。
蓋。
戻す。
給水。
通常位置。
戻す。
一つずつ。
試験前の状態へ。
◇
「終わった?」
オグが。
もう一度聞く。
直人は。
フィルを見る。
「結果を」
◇
フィルが。
読み上げる。
20利用。
20洗浄。
二度流し0件。
利用洗浄水120L。
清掃水18L。
開店前試験洗浄12L。
試験運用総流入量150L。
その下。
別欄。
最終設備確認洗浄6L。
最終確認後総流入156L。
◇
設備。
便器がたつき0件。
固定位置変化なし。
接続部漏水0件。
排水管ずれなし。
床下漏水なし。
排水不良0件。
給水側漏れなし。
回収槽水位 許容範囲。
途中修正0件。
◇
オグが。
今度こそ。
長く。
息を吐いた。
「全部、残ったな」
「はい」
壊れなかった。
だけではない。
朝。
決めた位置。
決めた水量。
決めた使い方。
それが。
二十人の後も。
変わっていない。
◇
フィルが。
一日目。
二日目。
三日目。
三枚を。
並べる。
一日目 20利用・22洗浄・162L。
二日目 20利用・21洗浄・156L。
三日目 20利用・20洗浄・150L。
その横。
三日目。
最終設備確認。
6L。
別枠。
ここも。
混ぜない。
◇
直人は。
三日目。
二人目。
杖を使った女性。
その欄を見る。
立ち上がり時、壁へ手を伸ばす動作あり。
フィルが聞く。
「これで止めます?」
直人は。
少し考える。
転倒。
なし。
ふらつき。
なし。
操作不能。
なし。
「通常運用を止める問題ではありません」
「じゃあ」
「改善項目です」
フィル。
別欄。
立ち上がり補助――改善検討。
◇
残る欄。
一つ。
通常運用移行判定。
フィルの筆が。
止まる。
「書きます?」
直人は。
便器。
接続部。
床下。
回収槽。
給水。
記録。
順に。
見る。
朝から。
変えなかった。
途中。
直さなかった。
二十人。
一回ずつ。
最後の確認洗浄も。
正常。
「書いてください」
◇
フィルの筆。
紙へ。
通常運用移行――可。
◇
その瞬間。
オグが。
大きく。
息を吐く。
ロッカが。
床下確認口の横で。
背を伸ばす。
ミーナも。
ようやく。
笑う。
「終わった……」
フィルが言った。
「試験運用は」
直人が答える。
「ここまでです」
◇
モルドが。
白い便器を見る。
「これで営業で使えるんだな」
「条件付きです」
「やっぱり付くのか」
「記録継続。異常時停止。回収槽水位確認。清掃記録。利用案内維持」
オグ。
顔をしかめる。
「多い」
「これまで決めたことだけです」
◇
試験。
終了。
だが。
改善項目。
一つ。
残る。
立ち上がり補助。
合格したから。
終わり。
ではない。
使えるからこそ。
次の改善へ。
進める。
◇
オグが。
入口の札。
外す。
試験運用中。
その下。
新しい札。
空白。
「何て書く?」
直人は。
答える。
「利用時間」
「はい」
「清掃担当」
「はい」
「異常時の連絡先」
「はい」
「料金」
モルドが。
顔を上げた。
「料金?」
「通常営業なら」
直人は。
空白の札を見る。
「誰が、いくらで、何時まで使えるかを決めないといけません」
◇
便器は。
使える。
設備も。
一日。
持った。
でも。
次は。
誰に。
使わせるか。
宿泊客。
酒場客。
近所の住民。
通りすがり。
料金を払える人。
払えない人。
◇
三日間。
外すために。
試験してきた。
試験運用中。
その札は。
ようやく。
外れた。
だが。
空白になった場所には。
次の問題が。
待っている。
設備の次は。
利用条件。
第三便所は。
ようやく。
営業としての段階へ。
進み始めた。
三日目の最後を、数値確認だけではなく設備そのものを確認する場面にしました。
20利用・20洗浄が終わった後も、すぐには合格にしません。
便器の固定、接続部、床下配管、回収槽、給水を順番に確認。
さらに最終設備確認として6Lを一度流し、実際に水を通した状態でも漏れやずれがないことを確かめています。
この6Lは三日目の20利用分には含めず、最終設備確認水として別記録にしました。
すべて確認できて初めて、
通常運用移行――可
となります。




