第64話 焼けた便器が一台できても、管につながらなければ流せません
王都で最初に成形された試験水洗便器、WC-RC-001。
素焼きまでは進みました。
大きな割れもない。
内部水路も残っている。
しかし。
排出口へ標準接続輪が入りません。
第三便所では。
床。
排水管。
地上回収槽。
そこまで準備が進んでいるのに。
便器と排水管をつなぐ最後の部分だけ。
寸法を決められずに残っていました。
二号便器は、すでに成形途中。
一号の失敗を。
そのまま二号へ持ち込むわけにはいきません。
第三便所。
朝。
ロッカが床板の中央にしゃがんでいた。
支持床。
補強梁。
点検口。
清掃スペース。
周囲は出来上がっている。
だが。
便器予定位置の中央だけ。
四角く開いたままだった。
「今日も、ここは残すんだな」
「はい」
陶山直人は開口部を覗く。
その下。
排水管。
地上回収槽方向へ仮置き済み。
勾配。
確保。
最後の接続輪だけ。
固定していない。
「一号は焼けたんだろ」
モルドが言った。
「焼けました」
「なら、一号に合わせればいい」
「排出口が規格から外れました」
「少しくらい削れないのか」
「一号だけなら」
直人は床中央を指した。
「でも一号に合わせてここを作ると、次の便器まで一号専用になります」
ロッカが頷く。
「交換できるようにしておく」
「はい」
床中央。
木札。
接続寸法待ち。
「今日は?」
「一号の出口が外れた理由を確認します」
「分かったら」
「二号へ反映します」
「それで、ここも進める」
「はい」
◇
王都窯。
WC-RC-001。
ヴァルハが標準接続輪を当てる。
途中で止まる。
「やっぱり入らん」
「測ります」
フィルが記録板を開いた。
全高。
許容内。
便鉢幅。
許容内。
固定穴。
許容内。
排出口。
収縮大。
さらに。
縦径。
横径。
違う。
「楕円ですね」
「ただ縮んだだけじゃない」
ヴァルハが言った。
排出口根元。
他より肉厚。
素焼き時。
出口専用の支持。
なし。
原因候補。
肉厚差。
焼成時の支持不足。
「この二つを見ます」
◇
その前に。
直人は。
作業台の端に置かれた三個の標準接続輪を取った。
一個目。
二個目。
三個目。
フィルが首を傾げる。
「同じ物ですよね」
「規格は同じです」
「一個だけじゃ駄目なんですか」
「測ります」
三個の内径。
わずかな差。
「三個目だけ、少し小さい」
「全部、規格内ではある」
ヴァルハが言った。
「はい」
手作りだから。
同じ規格でも。
完全に同じではない。
直人は。
三個目へ札を付けた。
上限確認輪。
「一番きついこれまで入ることを確認します」
「一個だけに合わせない」
「はい」
◇
排出口だけを再現した。
三本の試験片。
A。
現状再現。
B。
厚み修正。
C。
厚み修正。
支持治具あり。
判定項目。
三つ。
焼成後径。
縦横差。
標準接続輪への適合。
三本をまとめて焼く。
◇
結果。
A。
三項目。
不合格。
B。
径は改善。
だが。
縦横差と接続。
不合格。
C。
径。
合格。
縦横差。
合格。
接続。
一個目。
入る。
二個目。
入る。
最後。
上限確認輪。
わずかに手応えが強い。
直人は押し込まず。
真っすぐ。
規定位置まで入れる。
「C、合格」
フィルが記録した。
「採用します」
◇
ただし。
試験片Cを。
そのまま大きくしただけではない。
「Cで分かったのは」
直人が言った。
「厚みを急に変えないことと、下から支えることが有効だという点です」
「便器本体はもっと重い」
「はい」
短い試験片。
便器本体。
条件は違う。
「Cは答えじゃない」
フィルが言った。
「二号へ進む条件です」
◇
WC-RC-002。
排出口根元。
厚み。
なだらかに。
内部水路。
狭めない。
外壁。
薄くしすぎない。
二号用支持治具。
下から受ける。
縮みを妨げない。
固定しない。
焼成前寸法。
Cの結果を参考に調整。
記録。
◇
第三便所へ。
仮基準。
送付。
赤字。
WC-RC-002素焼き確認前・最終固定不可。
ロッカは。
その紙を受け取ると。
床中央へ墨を入れた。
床開口。
接続輪座。
調整代。
排水管中心。
「ここまで」
「はい」
「固定は二号待ち」
「お願いします」
◇
WC-RC-001。
黄色札。
排出口規格外。
ただし。
内部水路は。
二号と同じ。
試験専用仮接続。
封水。
形成。
洗浄。
一回。
正常排出。
二回。
漏れなし。
三回。
異常なし。
「内部水路、合格」
一号。
水路。
試験片C。
排出口。
二つの結果を。
二号へつなぐ。
◇
WC-RC-002。
素焼き。
窯が開く。
大きな割れ。
なし。
表面筋。
なし。
全高。
許容内。
便鉢幅。
許容内。
固定穴。
許容内。
排出口。
縦。
規格内。
横。
規格内。
接続輪。
一個目。
入る。
二個目。
入る。
最後。
上限確認輪。
入る。
「素焼き工程、合格です」
◇
検査札。
成形 合格。
乾燥 合格。
素焼き外観 合格。
素焼き接続寸法 合格。
その下。
空欄。
本焼き外観。
本焼き接続寸法。
漏水試験。
現場接続試験。
試験片Cの役目は。
ここで終わった。
ここから先。
判定されるのは。
二号自身だった。
◇
第三便所。
素焼き合格。
床開口。
仕上げ。
排水管。
仮固定。
接続輪。
仮位置。
地上回収槽。
据え付け準備。
「もう便器待ちだな」
ロッカが言った。
「本焼き合格後です」
「分かってる」
床中央。
接続輪だけ。
まだ。
固定されていない。
◇
次。
釉薬。
便鉢。
内部水路。
外側。
施釉。
排出口接続部。
無釉。
「ここまで白くしない?」
ヴァルハが尋ねる。
「接続寸法を守ります」
「見えなくなる場所だぞ」
「見えなくなってから漏れる場所です」
ヴァルハは。
何も言わなかった。
◇
本焼き当日。
朝。
WC-RC-002は。
窯の前に置かれていた。
ここまで。
何度も測った。
それでも。
直人は。
もう一度。
測定具を取った。
「また測る?」
フィルが聞く。
「これが本焼き前の最後です」
その言葉で。
フィルの表情が変わった。
◇
全高。
規格内。
固定穴。
規格内。
排出口。
縦。
規格内。
横。
規格内。
「変化なし」
フィルが記録する。
次。
接続輪。
一個目。
入る。
二個目。
入る。
そして。
三個目。
上限確認輪。
直人は。
一度。
手を止めた。
「どうしました」
「今の状態を覚えておきます」
排出口。
円。
欠け。
なし。
無釉部。
きれい。
輪。
真っすぐ。
差し込む。
最初。
軽い。
途中。
少し。
抵抗。
直人は。
押さない。
向きを戻し。
もう一度。
真っすぐ。
規定位置。
入る。
「入りました」
「はい」
「余裕は?」
「規格内です」
誰も。
余裕が大きいとは言わなかった。
◇
ヴァルハが。
三個の輪を見る。
「今なら全部入る」
「はい」
「第三便所にも」
「今の寸法なら」
「置ける」
「はい」
そこで。
会話が止まった。
本焼きだけが。
まだ残っている。
◇
検査札。
素焼き接続寸法 合格。
その下。
本焼き接続寸法 空欄。
第三便所から届いた紙。
接続部準備完了。WC-RC-002待ち。
失敗した場合の対応は。
もう決めてある。
第三便所を二号へ合わせない。
床を削らない。
排水管を無理に曲げない。
二号を不合格にする。
だから。
今。
規格内にある便器を。
本焼きへ送る。
◇
「確認するぞ」
ヴァルハが言った。
支持治具。
異常なし。
受け面。
異物なし。
窯棚。
水平。
焼き砂。
均等。
便器底。
異常なし。
釉薬。
接続部への垂れなし。
窯位置。
中央寄り。
「一号より条件は揃っています」
フィルが言った。
「はい」
「試験片も通った」
「はい」
「素焼きも通った」
「はい」
その先を。
誰も言わなかった。
◇
三人で。
WC-RC-002を持つ。
窯口。
ゆっくり。
支持治具へ。
置く。
コト。
わずかに揺れた。
「待って」
フィルが声を上げる。
右。
接触。
左。
小さな隙間。
便器を持ち上げる。
治具の下。
焼き砂。
一粒。
「これか」
ヴァルハが取る。
「一粒でも傾く?」
「本焼きで形が動けば、その傾きが残る可能性があります」
再び。
治具を水平にする。
◇
もう一度。
二号を置く。
今度は。
左右。
均等。
便器。
動かない。
直人。
手を離す。
ヴァルハも。
離す。
「よし」
◇
まだ。
窯の扉は開いている。
まだ。
二号を取り出せる。
まだ。
測れる。
まだ。
上限確認輪も入る。
今なら。
やり直せる。
扉を閉じ。
火を入れれば。
肉厚も。
支持も。
釉薬も。
寸法も。
もう。
手では直せない。
◇
「最後に聞く」
ヴァルハが言った。
「焼くか?」
直人は。
記録板を見る。
肉厚修正。
確認済み。
支持治具。
確認済み。
試験片C。
合格。
二号素焼き。
合格。
三個の接続輪。
合格。
無釉接続部。
確認済み。
窯位置。
確認済み。
支持。
水平。
確認済み。
第三便所。
接続準備完了。
「焼きます」
直人が答えた。
◇
窯の扉。
ゆっくり閉じる。
排出口。
見えなくなる。
便鉢。
見えなくなる。
最後に。
支持治具。
見えなくなる。
ゴン。
閉鎖。
留め具。
一つ。
二つ。
三つ。
「まだ火は入ってません」
フィルが言った。
「はい」
「忘れ物は?」
直人は。
記録板を。
最初から追う。
追加。
なし。
「ありません」
ヴァルハが火口へ向かった。
「なら、入れるぞ」
◇
最初の炎。
小さい。
赤い。
まだ。
便器を変形させるほどではない。
だが。
ここから先。
不安になったからと。
条件を変えない。
予定どおり。
焼く。
それが。
最後にできる管理だった。
◇
温度。
徐々に上昇。
途中。
右側の火が。
わずかに強くなる。
ヴァルハが調整。
炎。
揃う。
高温域。
その時。
窯の奥から。
チン。
小さな音。
フィルの手が止まる。
「記録」
ヴァルハが言った。
高温域・小音一回。発生箇所不明。
それ以上。
推測しない。
焼成を続ける。
◇
火止め。
本焼き終了。
だが。
窯は開けない。
急冷させれば。
無事だったものまで。
割る可能性がある。
「結果は、もう中にある」
フィルが言った。
「はい」
「でも、見られない」
「はい」
◇
第三便所から。
短い伝言。
接続部準備完了。WC-RC-002待ち。
窯場。
検査札。
本焼き判定待ち。
その横。
三個の標準接続輪。
最後。
上限確認輪。
冷却中。
窯の奥。
ピシ。
一度。
フィルは。
時刻だけを記録した。
◇
夜。
検査表。
成形。
合格。
乾燥。
合格。
素焼き外観。
合格。
素焼き接続寸法。
合格。
本焼き。
終了。
その下。
空欄。
本焼き外観。
本焼き接続寸法。
「明日は」
ヴァルハが言った。
「外観」
「はい」
「縦横」
「はい」
「最後は」
直人は。
三個の接続輪を見る。
「全部入るかです」
中でも。
一番きつい。
上限確認輪。
試験片Cでは。
入った。
二号素焼きでも。
入った。
本焼き直前にも。
入った。
だからこそ。
次に入らなければ。
理由は。
はっきりする。
本焼きで。
二号が変わった。
それだけだ。
◇
直人は。
窯には触れなかった。
本焼き直前まで。
できることは全部やった。
第三便所は。
便器を待っている。
三個の接続輪も。
次の判定を待っている。
そして。
WC-RC-002は。
扉の向こう。
もう。
人の手が届かない。
明日。
窯を開けた時。
今まで積み上げた寸法が。
そのまま残っているか。
答えは。
火の中にしかなかった。
WC-RC-002は、素焼き段階では接続規格に合格。
第三便所側も、最終接続直前まで準備が進みました。
残るのは本焼き後の最終判定です。
次回。
窯を開けたWC-RC-002に、三個の標準接続輪――特に最もきつい「上限確認輪」は入るのか。
第三便所へ運べる一台になるかを確認します。




