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トイレ販売員、異世界で水洗便器を売る ~ウォシュレットを設置したら王妃と魔王から指名されました~  作者: たむ
第2章 町に、便器を広げます

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第63話 使っていない石管でも、水が流れていれば廃止ではありません

回収槽の基礎予定地から見つかった、古い石管。


古い図面では、とうに使われなくなった便所設備の一部に見えます。


しかし。


第三便所の利用が増えた夜。


現在の処理槽水位が上がり。


ほぼ同じ時間に。


古い石管にも、新しい湿りが現れました。


古い。


図面に載っていない。


誰も使っていないと思っている。


それだけでは。


廃止された設備とは言えません。

 翌朝。


 陶山直人が最初に確認したのは。


 石管そのものではなかった。


「昨夜の記録を並べてください」


 水務局書記官フィルが三枚の紙を机へ置く。


 第三便所利用回数。


 現在処理槽水位。


 石管湿潤記録。


 夕食前。


 利用。


 少。


 処理槽水位。


 低。


 石管。


 変化なし。


 夕食後。


 利用。


 増加。


 処理槽水位。


 上昇。


 石管。


 新しい湿り。


 夜遅く。


 利用。


 減少。


 処理槽水位。


 低下。


 石管。


 湿り拡大なし。


「かなり揃っていますね」


 フィルが言った。


「揃っています」


 地方監査官エルンも頷く。


「でも、まだ接続しているとは決めない?」


「はい」


 直人は記録紙へ線を引いた。


 利用。


 水位。


 湿り。


 三つ。


「同じ時間に変化しただけです」


「十分じゃないのか?」


 酒場主人モルドが言った。


「もし同じ時間に厨房でも大量の水を使っていたら?」


「昨日、厨房旧枝は切っただろ」


「だから今回は候補から外せます」


「じゃあ、ほぼ第三便所だ」


「ほぼ、です」


 モルドが顔をしかめる。


「その『ほぼ』が長いんだよな」


「便所を止めるなら、その『ほぼ』を減らしてからです」


          ◇


 現在の第三便所。


 処理槽。


 直人。


 エルン。


 石工ベッザ。


 管理担当オグ。


 五人だけで確認する。


 蓋をすべて開けない。


 換気。


 火気なし。


 周囲立入制限。


 まず。


 現在使われている入口。


 便所側から。


 処理槽へ。


 問題なし。


 次。


 汲み取り口。


 問題なし。


 通気口。


 問題なし。


「図面だと、これだけです」


 フィルが現在図を見せる。


「入口、汲み取り、通気」


「出口は?」


 モルドが尋ねる。


「ありません」


 直人が答えた。


「密閉回収式だからです」


「じゃあ水位が上がったら?」


「汲み取る」


「それだけ?」


「本来は」


 ベッザが処理槽の外壁へ。


 長い棒を沿わせる。


「こっちの石だけ違うな」


 裏庭側。


 上部。


 地面から少し下。


 処理槽の壁面に。


 新しい石積みとは色の違う部分がある。


「補修跡?」


 フィルが尋ねる。


「いや」


 ベッザは首を振った。


「塞いだ跡に見える」


          ◇


 土を。


 外側から必要な範囲だけ除く。


 石。


 石灰材。


 その奥。


 円形の縁。


 直人が手を止めた。


「穴です」


 フィルが言った。


 完全には塞がれていない。


 石片を詰め。


 周囲を石灰材で固めている。


 だが。


 下側に。


 指一本ほどの隙間。


 ベッザが位置を測る。


「高さは?」


「処理槽の通常水位より上」


「昨夜の最高水位は?」


 フィルが記録を見る。


「この穴の下端と、ほぼ同じです」


 誰も言葉を続けなかった。


 直人は。


 処理槽側。


 石管側。


 両方の高さを記録した。


「石管の高さは?」


 ベッザが答える。


「合う」


「方向も?」


「合う」


 モルドが低い声で言った。


「これか」


「可能性は高いです」


          ◇


 フィルが古い図を広げる。


「昔の便所横の短い線」


 処理槽上部。


 今回見つかった穴。


 裏庭の古い石管。


 三つを重ねる。


「昔の便所設備を」


 エルンが言った。


「現在の処理槽を作った時に、一部だけ使った?」


「あるいは」


 ベッザが補修跡を見る。


「昔の管を完全には外さず、非常用に残した」


「非常用?」


 モルドが聞く。


「槽が満杯になった時に、逆流させないためだ」


 直人はすぐに。


 石管を塞ぐとは言わなかった。


「オグさん」


「はい」


「処理槽が満杯近くになった時、昔はどうしていましたか」


「汲み取り屋を呼ぶ」


「間に合わなかった時は?」


 オグが黙る。


 モルドを見る。


「俺に聞くな」


「先代から何か聞いていませんか」


 しばらくして。


 モルドが思い出した。


「……『裏へ逃げるから、便所の中には戻らん』とは聞いたことがある」


 フィルが顔を上げる。


「裏へ逃げる?」


「親父が言ってた。意味までは知らなかった」


 直人は。


 処理槽上部の塞ぎ跡を見る。


「昔の非常排水かもしれません」


          ◇


「じゃあ」


 モルドが言った。


「詰めればいいんだな」


「まだ塞ぎません」


「またか」


「これが本当に非常排水なら」


 直人は処理槽を指した。


「先に塞ぐと、満水時の逃げ場がなくなります」


「密閉槽なら、それが普通だろ?」


「管理が普通なら、です」


 汲み取りが遅れた。


 利用者が急増した。


 水位確認を忘れた。


 その時。


 今までは。


 古い石管へ逃げていた可能性がある。


 汚水を地中へ流す。


 安全な仕組みではない。


 だが。


 それをいきなり塞げば。


 次に起きるのは。


 便器側への逆流かもしれない。


「先に代わりを作ります」


          ◇


 第三便所の入口に。


 新しい札が出た。


 本日、設備試験あり。


 完全閉鎖ではない。


 試験時間だけ。


 利用者を。


 仮設交換壺便所二基へ案内する。


「祭り用の試作品を、もう使うのか?」


 モルドが尋ねる。


「便器じゃありません。既存型の交換壺です」


 合格済みの旧設備。


 手すり付き一基。


 通常型一基。


 清掃担当。


 交換担当。


 配置。


「第三便所を一時的に空にします」


 オグが尋ねた。


「試験は何をするんです?」


「汚物は増やしません」


 直人が答える。


「清水だけで、水位を上げます」


          ◇


 まず。


 現在処理槽。


 通常水位。


 記録。


 次。


 古い石管。


 内側へ乾いた確認布。


 設置。


 地下へ人は入れない。


 石管出口側。


 受け皿。


 準備。


 さらに。


 処理槽水位が上がりすぎた場合に備え。


 汲み取り用手押しポンプ。


 密閉回収樽。


 二本。


「これで」


 フィルが言った。


「穴まで水位を上げる?」


「直前までです」


「流れなかったら?」


「そこで止めます」


「流れたら?」


「すぐ水位を下げます」


 やることは。


 一回。


 それだけ。


          ◇


 清水。


 少量ずつ。


 処理槽へ。


 水位。


 上がる。


 上部の塞ぎ跡。


 まだ変化なし。


 さらに。


 水位。


 穴の下端まで。


「止めます」


 給水停止。


 数呼吸。


 処理槽外壁。


 変化なし。


「もう少し?」


 フィルが尋ねる。


 直人は頷く。


「指一本分だけ」


 清水。


 追加。


 水面が。


 穴の下端を越えた。


 その直後。


 塞ぎ跡の下側。


 小さな隙間。


 水が吸い込まれた。


「入った」


 ベッザが言った。


 直人は。


 すぐ給水を止める。


「石管側」


 フィルが走る。


 裏庭の試掘穴。


 古い石管。


 確認布。


 白かった布へ。


 新しい水跡。


「来ています!」


「時間」


「ほぼ同時です」


「十分です。水位を下げます」


          ◇


 手押しポンプ。


 密閉回収樽。


 処理槽から清水を抜く。


 穴より下へ。


 さらに。


 通常水位まで。


 流出。


 停止。


「つながっていました」


 フィルが言う。


「はい」


「旧石管は、現役だった?」


 直人は少し考えた。


「通常使用では流れません」


「でも水位が上がると流れる」


「はい」


「じゃあ」


 フィルが記録へ書いた。


「高水位時だけ使われる排水」


「そうです」


 古い。


 普段は乾いている。


 図面にもない。


 だが。


 水位が上がった時だけ。


 汚水を逃がしていた。


 それは。


 廃止設備ではなかった。


 非常時だけ動く、未記録の現役設備だった。


          ◇


「誰が作ったんだ」


 モルドが聞いた。


「分かりません」


 エルンが古い台帳をめくる。


「現在処理槽の改修記録はありますが、この穴は記載されていません」


「違法工事?」


 フィルが聞く。


「今は決めないでください」


 直人が止める。


「昔の基準では、溢れ防止として普通だった可能性もあります」


 ベッザも頷いた。


「昔は密閉槽を完全密閉にしない現場もあった」


「臭いが戻るだろ」


「便所へ戻るより外へ逃がす方を選んだ時代もある」


 良かった設備ではない。


 だが。


 作った人間が。


 最初から汚水を地下へ捨てたかったとも限らない。


 槽から便所へ逆流させないため。


 その時代なりの逃げ道だった可能性がある。


「問題は」


 直人が言った。


「今もそれを使っていたことです」


          ◇


 直人は。


 処理槽側の穴をまだ塞がない。


 先に。


 運用を変えた。


 処理槽内壁。


 穴より下。


 黄色線。


 さらに低い位置。


 白線。


「白線?」


 オグが尋ねる。


「通常管理上限です」


「黄色は?」


「汲み取り依頼を出す限界」


「穴は?」


「黄色線より上です」


 フィルが確認する。


「黄色まで来たら」


「その日のうちに汲み取り手配」


「さらに増えたら?」


「第三便所の新規利用を止めます」


「代替は?」


「交換壺便所へ」


 処理槽を満杯まで使わない。


 古い非常排水が動く高さまで。


 そもそも水位を上げない。


          ◇


「でも」


 モルドが言った。


「夜中に黄色を越えたら?」


「だから担当を二人にします」


 主担当。


 オグ。


 副担当。


 夜番一名。


 朝。


 夕方。


 夜の混雑後。


 三回。


 水位確認。


 利用者急増時は追加。


 記録板。


 日付。


 時刻。


 水位。


 汲み取り連絡。


「毎日三回?」


「今まで未記録の非常排水へ頼っていました」


 直人が言った。


「なくすなら、人の管理を増やす必要があります」


 設備を安全にした分。


 管理まで勝手に楽になるわけではない。


          ◇


 次に。


 古い石管をどうするか。


「今すぐ埋める?」


 フィルが聞いた。


「まず代替が動くことを確認します」


「何日?」


「三日」


 モルドが顔をしかめる。


「また三日か」


「今回は営業を止めません」


 黄色線。


 水位管理。


 汲み取り。


 仮設便所。


 この四つで。


 古い非常排水を使わずに運用できるかを見る。


          ◇


 一日目。


 夕食後。


 水位。


 黄色線より下。


 石管。


 新しい湿りなし。


 二日目。


 昼。


 利用増。


 黄色線に近づく。


 オグが汲み取り屋へ連絡。


 夕方前。


 水位低下。


 石管。


 乾燥。


 三日目。


 夜。


 利用者増加。


 副担当が早めに仮設便所へ案内。


 処理槽。


 黄色線を越えず。


 石管。


 乾燥。


「非常排水なしで回せています」


 フィルが言った。


「これなら切れます」


          ◇


 本切離し。


 処理槽側。


 旧穴。


 内部側から。


 耐水材。


 石栓。


 外側。


 確認可能な点検蓋。


 完全に埋め込まず。


 将来。


 必要なら開けて状態を確認できる。


 古い石管側。


 入口を閉鎖。


 ただし。


 管そのものは掘り返さない。


「全部撤去しないのか」


 モルドが聞く。


「撤去すると、裏庭を広く掘る必要があります」


「その方がきれいじゃないか」


「安全とは限りません」


 近くには。


 現在処理槽。


 建物基礎。


 地下穴。


 古い石積み。


 使わない管を撤去するために。


 別の支持地盤を崩す必要はない。


「使用停止」


「記録」


「両端切離し」


「点検可能」


 直人が順に言った。


「それで廃止設備にします」


          ◇


 フィルが台帳へ。


 新しい一行を追加した。


 第三便所旧高水位逃がし管。


 用途。


 処理槽高水位時の非常排水。


 状態。


 廃止。


 処理槽側。


 封止。


 裏庭側。


 封止。


 確認日。


 担当。


 記録。


「名前まで付くんですね」


「名前がない設備は」


 直人が答えた。


「次に忘れられます」


          ◇


 残る問題。


 地上回収槽。


 当初予定地の下には。


 古い石管がある。


「塞いだなら、上へ載せてもいいんじゃないか」


 モルドが言った。


「載せません」


 直人は即答した。


「もう流れないぞ」


「管の中が空洞です」


 古い石管。


 周囲の埋め戻し。


 施工年代。


 不明。


 満水回収槽を。


 その真上へ載せる理由はない。


「位置をずらします」


          ◇


 候補。


 東側。


 浅く試掘。


 土。


 砂利。


 旧構造物なし。


 地耐力。


 簡易確認。


 問題なし。


 ただし。


 そこへ移すと。


 通気管が。


 酒場二階の窓に近づく。


「臭いが戻るな」


 モルドが言った。


「通気管を高くします」


「屋根より?」


「窓上端より高く」


「支持は?」


 ロッカが図を見る。


「壁には持たせん。独立柱を立てる」


 回収槽位置。


 東へ移動。


 通気管。


 延長。


 点検路。


 確保。


 汲み取り車側。


 接続可能。


「また少し変わりましたね」


 フィルが言った。


「はい」


「最初に決めた場所から」


「地面の中身が分かったから変えます」


          ◇


 位置を変えたことで。


 外部回収槽の基礎。


 ようやく着工。


 砂利層。


 平坦化。


 支持石。


 水平確認。


 槽固定用枠。


 まだ。


 槽本体は置かない。


「ここまで?」


 モルドが聞く。


「基礎が落ち着いてからです」


「最近、待ってばかりだな」


「便所は」


 直人が言った。


「急いで埋めると、あとで掘ります」


 モルドが笑った。


「それ、店の壁に書いておくか?」


「やめてください」


          ◇


 その日の午後。


 窯から。


 使いが来た。


「ヴァルハ親方が呼んでる」


「一号ですか」


「開けた」


 直人。


 フィル。


 窯場へ向かう。


 窯の前。


 ヴァルハが。


 腕を組んでいた。


「割れた?」


 フィルが聞く。


「見ろ」


 台の上。


 WC-RC-001。


 素焼き。


 赤茶色。


 大きな割れ。


 なし。


 乾燥筋。


 焼成後も。


 内部へ進展した様子なし。


「通りました?」


 フィルが嬉しそうに言う。


「まだだ」


 直人とヴァルハの声が。


 同時に重なった。


「お前まで言うようになったな」


 ヴァルハがフィルを見る。


          ◇


 重量。


 記録。


 高さ。


 記録。


 便鉢幅。


 記録。


 固定穴間隔。


 記録。


 排出口。


 ヴァルハが測定棒を入れた。


 止まる。


「……狭い」


 直人も測る。


 焼く前。


 記録値。


 焼いた後。


 差。


 想定より。


 大きい。


「収縮率が出口だけ違う?」


 フィルが尋ねる。


「この部分が厚い」


 ヴァルハが答えた。


「内部水路と外壁が重なるからな」


 直人は。


 持ってきた標準接続輪を。


 排出口へ当てる。


 入らない。


 ほんの少し。


 だが。


 入らない。


「便器は割れなかった」


 フィルが言う。


「はい」


「水路も残った」


「はい」


「でも」


「管につながりません」


 ヴァルハが腕を組み直した。


「削るか?」


 直人は。


 すぐ首を横へ振った。


「試作一号を合わせるためだけに、接続規格を変えません」


「じゃあ便器を作り直す?」


「まず測ります」


 排出口だけ。


 なぜ。


 想定より縮んだのか。


 その原因を。


 次は追う。


 地面の下では。


 廃止されたと思われていた管が。


 実は現役だった。


 窯の中では。


 同じ縮み方をすると思っていた便器が。


 出口だけ違った。


 直人は。


 標準接続輪と。


 入らない排出口を見比べた。


「置けるところまで来ました」


 フィルが言った。


「はい」


「でも、つながらない」


「はい」


 第三便所へ置く。


 王都最初の試験水洗便器。


 今度の問題は。


 地下ではなく。


 便器そのものに戻ってきた。

第63話では、前話で見つかった古い石管の正体を追いました。


第三便所の利用増加・処理槽水位・石管の湿りが連動していたため、現在処理槽を確認。


その上部から、古い石管へつながる未記録の「高水位時の逃がし口」が見つかります。


これは通常時には使われませんが、処理槽水位が上がった時だけ汚水を古い石管へ逃がしていた設備でした。


ただ塞ぐだけでは便器側への逆流を招く可能性があるため、先に黄色水位線、早期汲み取り、利用停止基準、仮設便所への切替を整備。


三日間、古い逃がし管を使わず運用できることを確認してから正式に切り離しました。


回収槽は旧石管の真上を避けて位置変更。


そして最後に、WC-RC-001の素焼きが完了します。


大きな割れはありません。


しかし、排出口だけが想定以上に縮み、標準接続輪が入りません。


次回は、**「焼けた便器が一台できても、管につながらなければ流せません」**へ進みます。

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