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トイレ販売員、異世界で水洗便器を売る ~ウォシュレットを設置したら王妃と魔王から指名されました~  作者: たむ
第2章 町に、便器を広げます

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第37話 小さな浮きが止まっても、便器まで止めるのですか

仕立屋《金糸の針》では、貯水槽を満杯にしても、水位表示が黄色のまま動かなくなりました。


便器本体に異常はありません。


それでも設備担当のマイラは、便所全体を使用停止にします。


小さな表示器一つの不具合で、便器まで止める必要があるのでしょうか。

 《金糸の針》の便所には、赤い使用停止札が掛けられていた。


 使用開始から二日目。


 月白色の標準型第二号便器は、まだ新しい輝きを保っている。


 便器内の水位も正常。


 床に水漏れは見えない。


 異常が起きたのは、壁の上部へ設置された木製貯水槽だった。


「水は入っています」


 設備主担当のマイラが言った。


「ルークが、満水になるまで補充しました」


 貯水槽の外には、細い棒が突き出している。


 水位が十分なら白。


 残りが少なくなれば黄。


 一回分の水を保証できなければ赤。


 今は、黄色の印が窓に残っていた。


「補充した時、棒は一度も動きませんでしたか」


 陶山直人が尋ねる。


「少し揺れました。でも、上がりませんでした」


「手で引き上げましたか」


「触っていません」


「押し込んだ人は?」


「いません」


 マイラは作業場の職人たちを見た。


 給水担当のルークが手を挙げる。


「棒の横を、指で軽く叩きました」


「どのくらいの力ですか」


「糸くずを払う程度です」


「その後は?」


「変わりませんでした」


「赤札を掛けたのは誰ですか」


「私です」


 マイラが答えた。


「水はあるように見えました。でも、表示が正しいか分からなかったので」


「正しい対応です」


 直人は最初にそう伝えた。


 異常の原因を調べる前に、止めた判断を否定してはいけない。


「便器自体は使えたのではないか」


 店主オルドが言った。


「槽を開ければ、水が入っていることは見える」


「実際の水量を確認しましたか」


「蓋を開けて見た。満杯だった」


「では、一回は流せた可能性があります」


「一回どころか、何度も使えたはずだ」


「表示器が壊れた原因が分かっていません」


「浮きが止まっただけだろう」


「そうとは限りません」


 浮きが何かへ引っかかった。


 棒が膨らんだ。


 槽が変形した。


 内部の部品が外れた。


 水漏れによって、水位そのものが下がっていた。


 原因を確認する前に使用を続ければ、小さな異常が別の故障へつながる可能性がある。


「止めたことで、便器が壊れたわけではありません」


 直人が言った。


「屋外便所も残っています」


「雨が降っている」


「不便ではあります」


「職人たちは、新しい便所があるのに外へ行っている」


「だから、早く原因を確認します」


          ◇


 直人は最初に、貯水槽へ直接触れず、周囲を確認した。


 床。


 壁。


 給水管。


 槽の下。


 乾燥紙。


「漏れ跡はありません」


 テオが記録する。


「槽の外形は?」


 木製の測定枠を当てる。


 設置時には、左右へわずかな余裕があった。


 今は、右側の板が測定枠へ触れている。


「少し膨らんでいます」


「水を入れた木は膨らむ」


 オルドが言った。


「それが原因かもしれません」


「木の槽が水で膨らむことは、最初から分かっていただろう」


「槽本体は、膨らむ前提で接合しています」


「なら問題ないのでは?」


「浮き棒の案内部分が、同じように膨らむことを十分に見込んでいなかった可能性があります」


 貯水槽の蓋を開ける前に、現在の水位を固定棒で測る。


 満水線まで、指一本分。


「水量は十分です」


「では、便器は使えるな」


 オルドが言う。


「表示器の原因を確認してから、暫定運用を判断します」


「まだ止めるのか」


「蓋を開けます」


 水がこぼれないよう、周囲へ布を敷く。


 固定具を外し、蓋を持ち上げる。


 槽内には、木製の浮きがあった。


 浮きから伸びる細い棒が、蓋の案内穴を通り、外の表示窓へつながっている。


「浮きは水面にあります」


 テオが灯りを向けた。


「沈んではいません」


「棒が斜めになっています」


 浮きは、本来なら貯水槽の中央付近で上下する。


 今は右壁へ寄り、棒が案内穴の縁へ押し付けられていた。


「糸が絡まったのか?」


 オルドが槽内を覗く。


「糸は見えません」


「浮きを少し動かします」


 直人が清潔な木鉤を使い、浮きを中央へ寄せる。


 棒が上がった。


 表示窓が黄色から白へ変わる。


「直ったではないか」


「一時的に動いただけです」


 浮きを右側へ寄せる。


 棒が再び止まる。


 中央へ戻せば上がる。


「案内穴の中で、棒が挟まっています」


 テオが言った。


「棒が曲がった?」


「外して確認します」


          ◇


 浮きと表示棒を取り外す。


 棒を平らな板へ置く。


 転がす。


 途中でわずかに止まる。


「木の棒も曲がっています」


「水を吸ったからか」


 ロッカが棒を手に取った。


「片側だけ湿っている」


「槽の右側へ寄った状態で、長く水へ触れていた?」


「それだけではない」


 ロッカは蓋の案内穴へ指を入れた。


「穴も狭くなっている」


 設置前に棒を通した時は、周囲へ十分な隙間があった。


 しかし、木製の蓋が貯水槽の湿気を吸い、穴の内側まで膨らんでいる。


 曲がった棒。


 狭くなった案内穴。


 浮きが壁へ寄る構造。


 三つが重なり、表示器が黄色の位置で止まった。


「誰かの使い方が原因ではありません」


 直人が言った。


「商会側の設計不足です」


「ルークが叩いたからでは?」


 オルドが尋ねる。


「軽く叩いたことで壊れた跡はありません」


 ルークが安堵したように息を吐く。


「無償修理ですね」


 マイラが確認する。


「はい。部品代、作業費とも商会負担です」


 オルドが腕を組む。


「便器を止めた時間の補償は?」


 リリアがすぐに答えた。


「予備便所が使用可能で、店の営業自体は止まっていません。契約上、金銭補償の対象ではありません」


「職人が雨の中を歩いている」


「初期試験期間中の不具合として、改善部品と一回分の給水費を無償にします」


「ぬくもり便座を――」


「関係のない追加設備は有料よ」


「言ってみただけだ」


          ◇


「棒を細くすればよいのか」


 オルドが尋ねた。


「一時的には動きやすくなります」


 直人は曲がった棒を見た。


「でも、細くしすぎると折れます」


「案内穴を広げる?」


「それも必要です」


「なら、すぐできるだろう」


「それだけでは、同じ故障が起きる可能性があります」


 浮きが槽の壁へ寄れば、棒は斜めになる。


 案内穴を広げても、強く傾けば縁へ触れる。


「浮きが横へ動きすぎない仕組みが必要です」


「槽の中に枠を作る?」


 ロッカが提案した。


「水の流れを邪魔しませんか」


 ミーナが尋ねる。


「細い木枠なら」


「木枠も水を吸って膨らみます」


「では、陶器の筒を入れる」


 テオが言った。


「陶器?」


「親方の工房で、細い案内筒を焼けます」


 木と違い、水を吸って膨らみにくい。


 表面へ釉薬を施せば、棒との摩擦も減らせる。


「小さな筒なら、便器の空き場所で一緒に焼けるかもしれません」


「割れた時に槽内へ破片が落ちます」


 直人が言う。


「厚みを確保し、固定具で囲う必要があります」


「今日中には作れない」


 リリアが言った。


「仮修理と恒久修理を分けましょう」


 今日。


 木製案内穴を広げる。


 曲がった棒を交換。


 浮きの横移動を抑える簡易枠を追加。


 次回。


 釉薬を施した陶器製案内筒へ交換。


「仮修理中も、使用できますか」


 マイラが尋ねる。


「機能試験に合格すれば」


「また試験か」


 オルドが言う。


「動くことを確かめず、使い始める方がよいですか」


「もう何も言わん」


          ◇


 ロッカが案内穴を広げる。


 ただし、単に大きく削るのではない。


 穴の上下を少し丸くする。


 棒がわずかに傾いても、角へ食い込みにくい形だ。


「直角の穴より、丸い入口の方が動きやすい」


 テオが記録する。


「便器の排水口と同じですね」


「何が?」


「急な曲がりより、緩やかな曲がり」


「水と木の棒を同じにするな」


 ロッカが言った。


「でも、引っかかりを減らす考え方は似ています」


 新しい表示棒は、乾燥させた硬木で作る。


 表面へ薄く弾樹材を塗り、水を吸いにくくする。


 浮きの両側には、壁へ直接当たらないよう短い横棒を付ける。


「横棒が槽壁へ触れます」


 ミーナが言う。


「本体が壁へ張り付くより、点で触れる方が動きやすい」


 ロッカが答える。


「でも、横棒が引っかかる可能性は?」


「先端を丸くする」


「水面が下がった時に、槽の金具へ当たりませんか」


「実際に動かします」


 空の槽で、浮きを上下させる。


 満水位置。


 黄色位置。


 赤位置。


 左右へ揺らす。


 横棒は槽壁へ軽く触れるが、止まらない。


「次は水を入れます」


 ミーナが少しずつ給水した。


 赤。


 水位が上がる。


 表示棒も上がる。


 黄。


 さらに給水。


 白。


「満水まで動きました」


「水を減らします」


 槽の下部から、試験用容器へ排水する。


 白から黄。


 黄から赤。


 表示棒が下がる。


「一回だけでは足りません」


 直人が言った。


「十回?」


 テオが尋ねる。


「まず十回」


 給水。


 排水。


 給水。


 排水。


 三回目。


 五回目。


 八回目。


 十回目。


 表示はすべて動いた。


「合格か?」


 オルドが尋ねる。


「仮修理としては」


「仮が多いな」


「陶器製案内筒へ交換するまでです」


          ◇


 表示器が動いても、直人は便所をすぐに再開しなかった。


「まだ何がある」


 オルドが尋ねる。


「表示が止まった時の運用を決めます」


「止まったら、また赤札だろう」


「原則はそうです」


「なら決まっている」


「でも、表示器は水量を伝える部品です。便器本体の機能とは別です」


「今回は槽に水があった」


「はい」


「便器まで一日中止める必要はなかったのでは?」


 直人も、その点を考えていた。


 マイラが止めた判断は正しい。


 しかし、表示器が壊れただけで、予備便所しか使えなくなる。


 水量を別の方法で安全に確認できれば、限定的に使用できた可能性がある。


「予備の確認方法を作ります」


「棒が二本になるのか」


「固定式の水位測定棒です」


 貯水槽の内側へ、白、黄、赤の線を刻んだ測定板を取り付ける。


 蓋を開ければ、実際の水位を直接確認できる。


「表示器が動かない場合、設備担当者が蓋を開けて確認する?」


 マイラが尋ねた。


「はい。ただし、一般利用者は開けません」


「白まで水があれば使える?」


「一回ごとに水位を確認する条件で、限定運用できます」


「一回ごと?」


「表示器が修理されるまでです」


「面倒ですね」


「屋外便所へ行くか、担当者確認のうえで水洗便所を使うか選べます」


「完全停止だけではなくなる」


「はい」


 異常時の手順を三段階にする。


 一。


 表示器に異常なし。


 通常運用。


 二。


 表示器だけ故障。漏水なし。設備担当者が実水位を確認可能。


 限定運用。


 三。


 実水位不明、漏水、槽の破損、原因不明。


 全面使用停止。


「小さな部品一つで全部止まらないようにする」


 リリアが言った。


「ただし、安全確認の代わりを用意します」


「これを、何と言うの?」


「予備確認手順です」


「もっと商売向けの名前は?」


「異常時水位確認」


「そのままね」


「分かりやすいです」


          ◇


「もう一つ必要です」


 直人は表示棒を軽く押し下げた。


 白から黄へ動く。


 指を離す。


 浮きの力で白へ戻る。


「使う前に、これを行います」


「毎回?」


「始業前です」


「何のため?」


「表示棒が動くことを確認するためです」


 表示窓の横へ、小さな試験つまみを付ける。


 つまみを押す。


 棒が下がる。


 離す。


 現在の水位位置へ戻る。


「白のまま固まっていた場合も見つけられます」


 マイラが気づいた。


 今回の故障は黄色で止まった。


 だから、水量不足と判断して使用を止められた。


 しかし、白の位置で固まっていた場合。


 実際には水が減っているのに、表示は満水のままになる。


 その方が危険である。


「表示は、危険側で壊れるとは限りません」


 直人が言った。


「白のまま止まる可能性もある」


「始業前に押して、動かなければ故障」


「はい」


「戻らなければ?」


「蓋を開け、実水位を確認。異常手順へ移ります」


 マイラは設備点検表へ項目を追加した。


 水位表示作動確認。


 押す。


 戻る。


 白。


「一秒で終わります」


 直人が言った。


「記録も?」


「始業点検欄へ印だけで構いません」


「少しだけ、紙が減りましたね」


 マイラが笑った。


「情報が足りれば、文章は不要です」


「ナオトさんも成長したのね」


 リリアが言う。


「最初から必要な記録を選んでいます」


「六枚の見積書を作った人が?」


「必要でした」


          ◇


 便器の使用停止札が外された。


 ただし、表示器の横には黄色い仮修理札が付いている。


 陶器製案内筒への交換予定。


「仮修理と書かれると、不安になる」


 オルドが言った。


「安全に使える状態ですが、恒久部品への交換予定があります」


「客が見る場所ではない」


「職人の皆さんは見ます」


「忘れないため?」


「はい」


 ルークが専用桶で水を追加する。


 白表示。


 マイラが試験つまみを押す。


 黄へ下がる。


 離す。


 白へ戻る。


「作動確認、正常です」


「使用再開します」


 赤札を外す。


 空室札へ切り替える。


 最初に利用したのは、給水担当のルークだった。


 ごぼん。


 洗浄音。


 手洗い。


 扉が開く。


「水位表示は?」


 マイラが確認する。


「白の下側です」


「試験つまみは?」


 押す。


 戻る。


「正常です」


 床下。


 漏れなし。


 貯水槽下。


 濡れなし。


 便器内。


 汚れ残りなし。


「再開後初回、異常なし」


 テオが記録した。


          ◇


 今回の修理記録は、商会へ持ち帰る前に全員で確認された。


 発生。


 給水後も黄色表示から変化なし。


 現場判断。


 設備担当者が使用停止。


 原因。


 木製案内穴の吸湿膨張。


 表示棒の片側吸水による変形。


 浮きの横移動。


 利用者操作。


 故障原因とは認められず。


 仮修理。


 案内穴拡張。


 防水処理済み硬木棒。


 横移動抑制部品。


 恒久対策。


 陶器製案内筒。


 運用改善。


 実水位確認板。


 異常時限定運用。


 始業前作動試験。


「商会側の失敗と書くのですか」


 テオが尋ねた。


「設計時の吸湿変形見込み不足です」


「水務局にも出す?」


「試験設備の不具合なので報告します」


「粗悪品だと思われない?」


 オルドが言った。


「隠した方が信用を失います」


 リリアが答える。


「同じ表示器を、ほかへ売る前に直せる」


「金鹿亭の貯水槽にも使う予定でした」


 直人が言う。


「十室分を作る前でよかった」


「一台目の故障で、十台分の故障を防げる?」


「はい」


「なら、《金糸の針》の試験協力として何か付けてくれ」


「陶器製案内筒は無償交換です」


「それだけ?」


「改良型の最初の設置先として、記録へ店名を残します」


「宣伝に使える?」


 リリアが考える。


「《金糸の針》での実地試験から生まれた改良、と説明できる」


 オルドの表情が変わった。


「それなら、店の看板へ書く」


「便器の看板を仕立屋へ出すのですか」


「新しい設備の改善へ協力した店だぞ」


「お客様へ便所を見せる必要はありません」


「見せん。商会への技術協力店と書く」


「それなら構いません」


 オルドは満足そうにうなずいた。


          ◇


 銀月亭へ戻ると、ガルドが小さな粘土の筒を作っていた。


「話は聞いた」


「早いですね」


「テオが先に使いを出した」


「陶器製案内筒を作れますか」


「この程度なら、第三号の試験片と一緒に焼ける」


「釉薬は内側だけ?」


「外側にも薄く付ける。木枠へ固定する部分は残す」


「割れた時に破片が槽へ落ちない固定を――」


「分かっておる!」


 作業台には、太さの違う筒が三つ並んでいる。


「なぜ三種類?」


「棒との隙間を比べる」


「水垢や汚れが付いた時も考えますか」


「一番細いものは動かなくなるかもしれん」


「では、なぜ作るのです?」


「比べるためだ!」


 ガルドも、標準部品の試験方法を自分で考え始めている。


「第三号便器は?」


「テオが縁の水路を付けている」


「見ても?」


「邪魔をするな」


「記録だけです」


「もっと邪魔だ!」


          ◇


 その時、銀月亭の入口へ水務局の使者が駆け込んできた。


「エルン監査官から、緊急連絡です」


 リリアが受付台から立ち上がる。


「革工房の井戸ですか」


「近隣三井戸のうち、一つから同じ反応が出ました」


 職人宿舎の共同井戸。


 《黒樹皮》から地面の下り側にある井戸だ。


「使用停止にしましたか」


 直人が尋ねる。


「はい。宿舎には四十六人が暮らしています」


「代替給水は?」


「今夜分は町の備蓄で対応します」


「明日以降は?」


 使者は封書を差し出した。


「水務局、工房主、宿舎管理人、住民代表、銀月衛生商会で、費用負担と給水方法を協議したいとのことです」


 リリアが封書を開く。


「会議は明朝」


「四十六人分の飲み水と手洗い水……」


 ミーナが呟く。


「革工房の十二人とは規模が違います」


「水運び人も足りなくなるわ」


 リリアが言った。


「誰が費用を払うかでも揉める」


「原因が確定していません」


「だから揉めるのよ」


 革工房は、自分たちだけが原因とは限らないと主張する。


 水路沿いには、ほかの工房もある。


 宿舎側は、汚していない水の代金を負担したくない。


 町の備蓄は、いつまでも無償では使えない。


「便器の浮き一つを直したら、今度は四十六人の水か」


 ガルドが言った。


「別の問題です」


「お前の周りでは、全部つながる」


 直人は否定できなかった。


 小さな浮き棒が止まれば、一台の便器が止まる。


 一つの溜め槽から漏れれば、複数の井戸が止まる。


 設備は、見えている部品だけで動いているのではない。


 水源。


 利用者。


 運ぶ人。


 費用を払う人。


 異常を見つける人。


 すべてがつながっている。


「明日の会議へ行きます」


 直人が言った。


「私は費用表を作る」


 リリアが答える。


「私は必要水量を計算します」


 ミーナも帳簿を開く。


「俺は行かんぞ」


 ガルドが言う。


「誰も頼んでいません」


「ならよい」


「陶器製案内筒をお願いします」


「結局、仕事は増えるではないか!」


 工房に怒声が響いた。


 月白の第二号便器は、小さな部品の不具合を乗り越えて、再び動き始めた。


 しかし、革工房地区では、四十六人の暮らしを支える井戸が止まった。


 次に決めなければならないのは、修理方法だけではない。


 安全な水を、誰が運び。


 誰が管理し。


 誰がその費用を負担するのか。


 水は必要だから、誰かが無償で用意すればよい。


 その考えでは、長く続く仕組みにはならなかった。

仕立屋の水位表示は、木製案内穴の吸湿膨張、表示棒の変形、浮きの横移動が重なって停止していました。


利用者の操作ミスではなく、商会側の設計不足として無償修理を行います。


また、表示器だけが故障した場合に便器全体を長期間止めずに済むよう、実水位確認板、限定運用手順、始業前の作動試験を追加しました。


一方、革工房近くの職人宿舎でも井戸の異常が確認され、四十六人分の代替給水が必要になります。


次回は、汚染原因が確定していない中で、緊急給水費を誰が負担するのかを協議します。

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