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虹の瞳のセルランティア~殺した者と殺された者の魂は過去に飛び、互いの体に入って悲劇の芽を摘む~  作者: 咲来青
第1章 王女と暗殺者

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☀第9話 歩み寄り、のち、拒絶

〈この瞳が……お父様はお嫌いなのかもしれませんわ〉


 脳内にそっと響いたティアの寂しげな声。

 その切なさに、神秘的な瞳の色にすっかり魅入られていたリオの意識は、一瞬で現実に引き戻された。


「嫌いって……この瞳をか? なんでだよ、すっげーキレイなのに!」


 うっかり素直な気持ちを口に出してしまい、リオはハッとして片手で口を覆った。


〈え? リオフリード様、今……なんとおっしゃいまして?〉


「べっ、べつになにも言ってねーよ! 俺は『キレイ』なんてちっとも思ってねーからなッ!」


 ほとんど白状したようなものだが、リオは顔を赤らめながら腕を組んだ。

 ティアはしばしの沈黙の後、消え入りそうな声でつぶやく。


〈……ええ、存じておりますわ。わたくしがこのような瞳で生まれなければ、お父様は……陛下はきっと……〉


 また沈んだ声を出され、リオの胸はチクリと痛んだ。

 頭では「気にしてやる義理はない」と考えているつもりなのに、どうしても放っておけない気にさせられてしまう。

 リオは「メンドクセー」と思いながら、先ほどから引っかかっていたことを告げた。


「あんたがさっきから気にしてる、瞳の色が嫌いだから国王が……って話だが、それっておかしくねーか?」


〈え?……おかしい……ですか?〉


「ああ、おかしーと思うぜ。だって国王は『普段はお優しい』んだろ? そう感じるってことは、あんただって優しくしてもらってんだろ?」


〈あ……はい。とてもお優しいですわ。公務でお忙しいと思いますのに、こちらにも事あるごとにお出でくださいますの。『仔細ないか』『困ったことはないか』と、常にわたくしを気遣ってくださって……〉


「だったら、やっぱおかしーじゃねーか。あんたの瞳ってもんが嫌いなら、そう何度も様子見に来たりするかぁ? 『お忙しい』んだろ? そんな中せっせとここに来ちゃあ、様子だの何だの訊いてくなんて不自然じゃねーか。俺だったら、嫌いなもんにはぜってー近づかねーし、どーしても用があるってんなら他の奴に行かせるぜ?」


〈それは……。そう……なのかもしれません、けれど……〉


 そう言ったきり、ティアは口をつぐんでしまった。


 もしかして、国王が自分を塔に住まわせているのは、自分の瞳を嫌っているからだとずっと思ってきたのだろうか?

 それを否定され、「では、どうして」と考え込んでいる……?


「あんたさ、さっき言ってたよな? 閉じ込められてるわけじゃねーって。塔の周辺くれーなら、自由に見て回ることもできるって」


〈え?……はい。その通りですわ。城にさえ近づかなければ、他は自由に――〉


「それっ! やっぱそれだよ! ぜってーそっちの方だって!」


〈……は? あの……『それ』とは……?〉


「だっからぁ、〝城〟だよ! 国王はあんたを塔に閉じ込めておきてーんじゃなくて、城に近づいてほしくねーんだって!」


〈……はい。その通りですわ。先ほども申しました通り――〉


「じゃなくて! 逆だよ逆! あんたは国王が自分の瞳を嫌ってるから、国王の住む城に近づかせたくねーんだって考えてんだろーけど、たぶん逆だ! あんたが好きだから、大事だから、城に近づいてほしくねーんだよ」


〈好き……だから?〉


「ああ。――つまり、問題はあんたじゃなくて城にあるってことだよ。あんたに近づかせたくねーもんとか、見せたくねーもんがあるんじゃねーかな、城ん中に」


〈城に……わたくしに近づかせたくない、何かが?〉


「そう、城に! 国王はあんたを、その〝何か〟から守りてーんじゃねーか?」


〈……その〝何か〟とは……?〉


「えっ?……いや。そこまではわかんねー、けど……」


 「それは何か」と訊ねられることまでは考えていなかった。

 リオはバツが悪そうに視線をさまよわせ、尻すぼみに返事をした。


〈お父様……陛下は、わたくしをお嫌いなわけでは……ない……〉


 自分に言い聞かせるかのようにつぶやくと、ティアはクスリと笑みを漏らした。


〈やはりお優しいのですね、リオフリード様。わたくしを慰めようとしてくださったのでしょう?〉


「なっ、違――っ!……んなわけねーだろッ! どーして俺が、あんたを慰めなきゃなんねーんだ! あんたは俺の敵だぞッ!?」


〈……敵?〉


 理解していないような声を出され、リオはカッとなって大声を上げた。


「そーだ、敵だ! あんたは俺の敵なんだよ! あんたさえいなきゃエトナは……っ、俺の妹はッ!」


〈リオフリード様の……妹さん……?〉


 リオはハッと顔を上げると、先ほど開けようとして開かなかった扉を睨みつけた。


「クソ……ッ! こんなとこでのんびりあんたと話してる暇なんてねーのに! 一刻も早く家に戻ってエトナの様子を確かめなきゃなんねーのに、なんで外から鍵なんかかかってんだよ!」


 リオは忌々しげにギリリと奥歯を噛み合わせてから、今度は窓の方を振り返った。


「まさか、こっちの窓も開かねーよーになってんじゃねーだろーな!?」


〈い、いいえ? 窓は扉と違って、内側から開けることができますわ。……ただ、この塔の高さはかなりございますし、飛び降りることなどできません。落ちたら死んでしまいます〉


「縄は!? 縄みてーな長い紐がありゃあ、どーにか降りられんじゃねーか?」


〈縄、ですか……? そのようなもの、この部屋にはございませんわ。それに、縄で降りていくなんて無謀すぎます。腕がしびれて、縄から手が離れてしまったら……〉


「んなもん、やってみなきゃわかんねーだろ!……とにかく縄だ! 縄さえ用意できりゃあ、今すぐにでもこんなとこ出て――っ」


 その時。


 コン、コン、コン。


 規則正しく扉を叩く音が聞こえ、リオはギクリとして固まった。

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