☽第1話 天才錬金術師による華麗なる講義①
ドルジーを味方に引き入れても問題ないのだろうか?
そのような不安を、皆、多かれ少なかれ心の内で抱えていたわけだが。
いざ彼の講義を聞いてみると、やはり仲間にして正解だったのだと、誰もが納得する結果となった。
何より感心したのが、〝街側のリオとティアが、塔側の二人に会いに行こうとした時に起こった現象について〟の彼の仮説だった。
「ふんふん。なるほどなるほどぉ~。以前、あなた方はもうひとつの己の魂に会うために、地下道へ足を踏み入れようとしたことがあるのですな? しかし、何らかの理由でリオフリードの足に痺れが走り、おまけに強力な力で体を後方へと弾かれ、地下道へ入ることができなかったと。……フフン。これは愉快ですなぁ」
お気に入りの玩具を前にした時の子どものように、ドルジーはニンマリと笑ってみせた。
両手を胸の前でこすり合わせ、上機嫌で自説を語り出す。
「では、〝何らかの理由〟とは何か? これは仮説の段階ではありますが、〝同じ者の魂は同時に同じ場所には存在できない〟というような決まり――この世の摂理のようなものがある。そう考えればよいのではないでしょうかぁ?」
「『この世の摂理』……ですか?」
思わずティアが訊ねると、ドルジーは満足げにうなずいた。
「えーえ。『この世の摂理』です。この世を支配している約束ごとのようなものですな。リオフリード……っと、失礼。今は王女殿下なのでしたっけ」
ドルジーはチラリとティアを見やり、彼女がうなずいたのを確認すると、自らも数回うなずく。
「〝同じ者の魂は同時に同じ場所には存在できない〟。この摂理により、リオフリードの体は弾き飛ばされた。それが私の考え得る仮説です。もうひとつは、『鉄の心臓』に関するものと考えるのが自然でしょうなぁ。つ、ま、り! 王女殿下の虹色の御髪と虹の瞳を銀脈に映す以外にも、鉄の心臓を起動させる――いーえ。〝起動させる準備段階に入る〟といった方が良いでしょうかぁ? 王女殿下の魂がある程度の距離まで近づくことによって、その段階に入ってしまうという仮説です」
「起動させる準備段階、だと? つまるところ、セルランティアの髪と瞳を銀脈に映す以前に、彼女の魂を感知することで、鉄の心臓は起動準備段階に入ってしまうということか?」
「ええ、そのとおりでぇーす! さすがは大国の第一王子。優秀でいらっしゃいますなぁ~」
「余計な世辞などは必要ない。今おまえが言ったことを、確認のためにもう一度言ってみたに過ぎないのだからな。構わず先を続けてくれ」
「ええ、ええ、そういたしましょーう」
ドルジーはあごひげを片手でしごくように撫でつけながら、再びニンマリと笑った。
「陛下やヴィソル殿下、その他の者たちも、普段は銀脈の大回廊を問題なく歩けていたはずですよねぇ。――ということは、あの回廊は常に人を弾いているわけではない。では、何故リオフリードだけが弾かれたのか? 答えはひとつしかありませーん! 『鍵となる波長』、王女殿下が近づいたことで装置が目覚め、同時に『鍵以外の不純物』であるリオフリードの魂を検知し、誤作動を起こしたからです! 王女殿下の魂が近づいてきたことにより、鉄の心臓は起動の一歩手前、起動準備段階に入るはずだったのでしょう。しかーし! そこにリオフリードの魂という余計なものまで感知してしまった。そのため、拒否反応のようなものが出たのでしょうなぁ。それによる強力な力が、リオフリードの体に電流のようなものを走らせ、且つ、弾き飛ばしたというわけでーす」
「……なるほど。セルランティアのみの魂を感知したのであれば、自然と鉄の心臓は起動準備段階に入るはずだった。そこにリオフリードの魂までも感知してしまったため、装置の何らかの部分が『これは違う』と拒絶してきたわけか。その拒否反応が、リオの体に走った電流。そして強力な波動というわけだな」
「そうでーす。ご確認による私の話の繰り返し、ご苦労様なことでございますなぁ~」
小馬鹿にされたように感じたのか、ヴィソルの顔は一瞬歪んだ。
だが、すぐに口をキツく引き結ぶと、何ごともなかったかのように次の言葉を待っている。
「いわば鉄の心臓――恐らく銀脈の部分は、『超高精度な波長測定器』の役割も担っているわけでーす! リオフリードが弾かれたのは、彼の魂が不純物と認識されてしまったからに違いありません! あの装置は『正しく整えられた条件』でなければ、不純物を排除しようと拒否反応を起こしてしまうのでしょうなぁ。吟遊詩人の歌にもありましたねぇ? 『歯車狂った鉄のからくり、王も后も賢き者も、遥か彼方へ吹き飛ばし』と。むかーし昔に引き起こされた〝拒否反応〟。それが悲劇の正体なのでーす」
「昔起こった悲劇の正体が、古代魔導装置『鉄の心臓』の拒否反応、だと?……では、今回のセルランティアとリオフリードの件はどう考える? 二人の話をすり合わせたところ、今回は爆音と振動は起こったが、強烈な光が放たれた様子はなかったそうだが……」
「そう! 重要な相違点はそこなのでーす! 銀脈に起動条件以外の者――別の人間が映ってしまったにも関わらず、今回は昔と違って光が放たれなかった。その代わり、魂の入れ替わりという奇妙な現象が起こった。この差はいったい何なのでしょう? この差が生まれた理由は、私の考えたところによりますと……まあ、装置の《経年劣化》ですな」
古代魔導装置の問題点をあっさり告げると、ドルジーはヒョイッと肩をすくめた。




