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虹の瞳のセルランティア~殺した者と殺された者の魂は過去に飛び、互いの体に入って悲劇の芽を摘む~  作者: 咲来青
第5章 謎究明と忍び寄る影

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☽第19話 おしゃべり錬金術師の爆弾発言

 ドルジーを仲間に引き入れて問題を解決へと導かせるため、ティアたちは彼に渋々事情を打ち明けた。

 すると、ドルジーは両手を頭上に挙げて空中をかき混ぜるかのようにぐるぐるさせると、芝居がかった大声を上げた。


「なななっ、なぁーんですとぉおおおおーーーっ!? 王女殿下とここにいるリオフリードという大工見習いの少年の意識が、入れ替わってしまっている!? しかもお二人とも、先の世から送られてきたとおっしゃるのですかぁあああーーーっ!?」


 ドルジーはピタッと静止し、ティアたちの反応を窺うように視線を二人の間で行ったり来たりさせた。

 だが、ティアは彼の大げさな身振り手振りに驚いて固まってしまっていたし、ヴィソルは呆れた目つきで見返すのみだ。

 ドルジーはさも面白くないというような顔つきで二人から目をそらすと、ヒョイッと肩をすくめた。


「なーんて、ね。あなた方のお話を扉の外から聞いておりましたからねぇ。だーいたいのことは、改めてお話されるまでもなく察しておりましたとも。今さら驚くことなど何もございませんが――ねっ!」


 そう言って、ドルジーは大げさに胸を張った。


 要するに、扉の外でずっと聞き耳を立てていたということだろうか?

 錬金術師と言えど、城内に住み、王直々の仕事をこなしているのであれば貴族のはずだ。

 盗み聞きなど貴族のすることだろうかと呆れているらしいヴィソルは、不審顔で訊ねた。


「いったいどの辺りの話から……どのような状態で聞いていたと言うんだ?」


 ドルジーは待ってましたとばかりに、ニターリと口角を上げた。


「それはそう、あれですよ。こんな風に――」


 懐から使い古された小さな金属製のカップを取り出すと、ドルジーは部屋の壁にピタリと押し当てた。自分の耳を密着させ、再びニヤリと笑ってみせる。


「ほーぅら、ね? こうして壁にカップを当てますと、空気を伝う音の振動が集約され、中のヒソヒソ声まで実によーく聞こえるのですよぉ。……フッフン。これぞ私の編み出した究極の集音法! 微かな〝ヒソヒソ声〟すらも逃さない我が最高傑作、『壁越し聞き耳くん一号』なのでーっす! 」


 ドルジーは耳を壁にくっつけた間抜けな体勢のまま、自慢げに鼻を鳴らした。


 ティアがポカンとしている横で、ヴィソルが心底呆れたように深いため息をつく。

 

「『壁越し聞き耳くん一号』だと? 二号や三号があるわけでもなかろうに……。いや、そのようなことはどうでもいい。つまり貴様は、その情けない格好でずーっと扉の外にへばりついていたというわけだな?」


〈うげぇ……マジかよ。人んちの前で何してくれてんだ?〉


 脳内ではリオが心底引きまくった声を上げている。


 ……まあ、リオが引くのは当然だ。

 貴族らしい姿をした者があのような妙なものを持ち、しかもあのように目立つ格好で扉にへばりついてなどいたら、さぞや目立ったことだろうし。前を通りかかった人々は、気味悪がっていたに違いない。


 ドルジーの姿を想像すると、滑稽でついつい笑ってしまいそうになるティアだったが。

 リオにしたら迷惑以外の何物でもないはずだ。吹き出しそうになるのを必死にこらえていた。


「情けない格好ぅ~?……フン、それが何だと言うのです! 真実追求の前では、どのような見栄も外聞も気にする価値すらないものではありませんか! 私は知りたいのですよ! 鉄の心臓や銀脈の大回廊のからくりをっ! どこをどうしてどうやったら、人間の意識を過ぎし日に送るなどという奇跡のようなことを、やすやすとやってのけられるのかッ!! この天才錬金術師にしてみてもさーっぱり仕組みがわかりませんっ! これは由々しき問題ですよぉッ!? 王女殿下の髪色と瞳の色を変える研究など、ノンキにしている場合ではなくなってまいりましたーーーっ、ねっ!!」


 そうまくし立てると、ドルジーは興奮した様子で鼻息を荒くしている。

 今の彼の発言の中に、聞き捨てならない部分があったことに気づいたティアは、ハッとして顔を上げた。


「お待ちください、ドルジー様! 今、わたくしの『髪色と瞳の色を変える研究』をしている場合ではない――というようなことをおっしゃっておりましたよね? それはどういうことなのですか?」


 少年の口から「わたくし」などという言葉が出てくるのにまだ慣れていないからか、ドルジーはギョッとしたように目を見張った。

 だが、すぐにいつものおどけた顔に戻り、ヒョイと肩をすくめてみせる。


「はて? どういうこととはどういうことなのですかぁー? 私は王より命じられた『王女殿下の髪色と瞳の色を変える』ための研究を、もうかーるく十数年は続けてまいりましたのですよぉ? それはもーう、寸暇を惜しんで身を粉にして、日々研究に没頭してまいったのでーす。莫大な研究費は国の財政を傾かせるほどとお聞きしておりますがぁー、私はその方面には全く関与しておりませーん。……ということで、その辺りのことについては、そちらにいらっしゃるソルアーザード王国第一王子にお訊きしてはいかがですかぁー?」


「……えっ?」


 ティアが驚いてヴィソルを見ると、彼は苦々しい顔でドルジーを一瞥した。

 そして困ったようにまつ毛を伏せ、ため息をつきつつ額に片手を当てる。


「違うのです、セルランティア。これには深いわけが……」


 ――その時。

 事情を説明しようと口を開いたヴィソルを、ドルジーの言葉が遮った。


「あーあ、そうそう。王女殿下に関する研究資金のことについてですがぁー。この間、さるお方がわざわざ私の元まで訊きにいらしたのですよぉー。私は資金については関与していないのでわかりませーんと答えておいたのですけれどぉー。もしかしましたら、そのお方が嗅ぎつけ――いえいえ、資金の出どころを察知なさいましたらーぁ、ヴィソル殿下の元へもまいるやもしれませんねぇー」


「何? 『さるお方』だと……? いったい誰のことだ?」


「いーえいえーえ。私の口からはとてもとてもぉー。王に次いで尊いお方のことだなどとは、口が裂けても言えはしませ……っと。あー、しまったぁー。つい口が滑ってしまいましたーぁ。お許しください、王弟殿下ぁーーーっ」


 わざとらしく両手を挙げて天を仰ぐドルジーだったが、ティアもヴィソルもリオも、もう気にしてはいなかった。

 ヴィソルは口元を覆って「王弟殿下だと……?」と青い顔でつぶやき、ティアも思いがけない名が出たことで動揺していた。


 ただ一人、リオのみが事の重大さを理解しておらず、


〈おうてい? って、王の弟ってことか? えーっと、つまり……王女さんにとってのおじって奴?〉


 などと、間の抜けた声を脳内に響かせていた。

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