☀第12話 阻まれた迂回路
カティの告白を聞いた後、ティアはしばらく声を上げることもできずにいた。
驚きや衝撃から――と言うより、困惑の方が大きかったように思う。
カティの話の内容がすぐさま理解できず、脳内で処理するのに多少の時間を要してしまった。
「どういうことなの、カティ? あなたがわたくしを死に至らしめた、って……」
緊張のためなのか、声が僅かにかすれていた。
ティアが訊ねると同時に、脳内にリオの声が響く。
〈んなわけねーだろ! 王女さんを殺しちまったのは俺だ! カティは関係ねー! なのになんで……っ〉
リオ自身も驚いているようだ。
ティアはカティの言葉の意味がわからず、問うように彼女をじっと見つめた。
リオから聞いた話によれば、自分を殺したのはリオのはず。
それなのに、カティは「先の世でセルランティア様を死に至らしめたのは私かもしれない」というようなことを言った。
かもしれないということは、彼女自身も確信は持てていないということだろうが、それも当然だろう。
今、自分はこうして生きている。
自分が殺されたというのは、あくまでこの先の世界で、ということなのだから。
先の世のことを知っているのは、この場にいる者の中ではリオだけなのだ。
だから彼の言うことの方が正しいはず。
それはわかっているのだが……。
ティアが気になっているのは、何故カティは「セルランティア様を死に至らしめたのは私」などと思っているのかだ。
「カティ。どうか、わたくしにもわかるように説明してちょうだい。どうしてあなたは、わたくしを『死に至らしめた』と思っているの? あなたはリオフリード様のように先の世から送られてきたわけではないのに、どうしてそう思えるの?」
「そ……それは……」
カティはつと目をそらした。
全て話す覚悟を決めてきたに違いないのに、いざこちら側から訊ねられると、ためらいが生じてしまうのかもしれない。
そう思ったティアは、根気よく彼女が話し始めるのを待った。
しばらくの沈黙の後。
カティは気持ちを整えるように深呼吸してから、まっすぐティアを見返した。
「先ほど、セルランティア様から『鉄の心臓』のことや、街にいるリオフリードという少年の中に暗殺されたセルランティア様の魂が入り込んでしまった――というお話をお聞きし、気になったことがございまして……。暗殺の場は銀脈の大回廊だったということですが、それに間違いございませんか?」
「え?……あ、ええ。リオフリード様がおっしゃるには、鏡のような装飾がたくさん貼り付けられているところだったのですって。わたくしとリオフリード様のお姿が、いくつもそこに映っていたそうよ。そのようなところ、銀脈の大回廊以外にもあるのかしら? カティ。城内のことなら、近づくことすら許されなかったわたくしより、あなたの方が遥かに多くのことを知っているでしょう? 他に思い当たるところはあるかしら?」
「いいえ。そのような装飾が施された場所は、銀脈の大回廊以外には思い当たりません。……あくまで私が〝知る限り〟は、という意味ではございますが」
「そう……。だったら、やはりわたくしが暗殺された場はその『銀脈の大回廊』なのでしょう。王家に伝わる古文書にも、銀脈にわたくしのような虹の瞳と虹色の髪を持つ者が姿を映した時のみ、鉄の心臓が動き出すというような記述があったというのだもの。鉄の心臓が起動したからこそ、先の世のリオフリード様とわたくしの魂が、過ぎし世に送られるという事象が起きた。そうとしか考えられないでしょう?」
「……はい。お話の筋は通っておりますね……」
カティは暗い顔でうつむき、胸の前で重ね合わせていた手をキツく握り締めた。
「ですが、そうなのだとしましたら、やはりおかしいのです。セルランティア様とヴィソル殿下の婚約話を陛下より拝聴しました折は、礼拝堂へは迂回してセルランティア様を向かわせるつもりだと、陛下はおっしゃっていたのですから」
「え? わざわざ迂回して?」
「はい。どうしてそのような面倒なことをと、正直なところを申しますと疑問に思いました。ですが、その時はまだ鉄の心臓のことは存じ上げませんでしたので、陛下なりのお考えがあってのことなのだろうと、特に気に留めないようにしていたのです。それなのに……先の世では何故か迂回はなさらず、直接銀脈の大回廊をお通りになったとのこと。しかも、たったお一人でなどと……。どう考えてもおかしいのです。陛下はセルランティア様を、銀脈の大回廊へは決して近づけさせないようになさっていたはずですのに……」
「それは……確かにおかしいわね。お父様は銀脈の大回廊ばかりか、城にすら近づくことを禁じていらっしゃったのに、婚姻式の日だけ銀脈の大回廊を通らせようとなさるなんて……」
「はい。私もそう思います。……ですから婚姻式の日、セルランティア様を銀脈の大回廊を通るように仕向けた人物は陛下ではございません。きっと他にいたのです」
「他に……? もしかして、カティはその仕向けたという人物に心当たりがあるの?」
カティはすぐには返答しなかった。
しばらくの間ためらうようにうつむいたり、両手をギュッと握り締めたり、思い切ったように顔を上げたり、また下げたりしていた。
だが、観念したようにひとつため息をつくと、ゆっくり顔を上げてティアを見つめた。
「セルランティア様に銀脈の大回廊を通らせるように命じたのは……たぶん、ドルジー・テメンダスだと思います」
「ドルジー? あの錬金術師の?」
「はい。そして、セルランティア様に銀脈の大回廊を通らせるよう、ドルジーより命じられたのは……きっと、この私です」
カティの告白に衝撃を受け、ティアは大きく目を見開いた。
リオも驚いたようで、脳内に「はあっ?」と間抜けた声が響く。
カティは辛そうにまつ毛を伏せ、一同の間に長い沈黙が横たわった。




