↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虹の瞳のセルランティア~殺した者と殺された者の魂は過去に飛び、互いの体に入って悲劇の芽を摘む~  作者: 咲来青
第5章 謎究明と忍び寄る影

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
71/84

☽第10話 複雑な三角関係と古の寓話

 吟遊詩人の歌を聴きにいった日から、しばらくの時が流れた。

 リオとティアは、ヴィソルが現れるのをじりじりしながら待っていた。


 あの日、吟遊詩人の口から明かされた「一族を代々支援してきた貴族」の存在。

 ヴィソルはエルイグニスを通じてその貴族との面会を取り付け、単身で屋敷へと乗り込んでくれたのだが――。


 今日は彼から報告を受けることになっているのだ。


〈おっせーなぁ、ヴィソルの奴。昼前には来るって話だったのに、もう昼になっちまうぞ?〉


 リオの声からイラ立ちが伝わってくる。

 ティアはおっとりと構えながらテーブル前の椅子に腰かけ、木彫りのカップに入ったホエーをちびりちびりと飲んでいた。


 ホエーとは、チーズを作った後に残る乳清のことだ。

 酪農が盛んなこの国ではタダ同然で手に入るため、喉が渇いた時に口にするのは、リオの家ではだいたいがこれだった。


 最初は独特の酸味が口に合わなかったティアだったが、今ではすっかり慣れてしまっている。

 飲み込むのさえ苦労していた麦粥も同様で、慣れというのはありがたくも恐ろしいものだと、ティアはしみじみと感じていた。


 すると、扉を数回叩く音がし、ヴィソルの声が続けて聞こえてきた。


「遅くなってすまない。ヴィソルだ」


 ティアはパアッと顔を輝かせて立ち上がると、いそいそと歩いていって扉を開けた。


「やあ、おはよう。……今日はリオかい? それともセル――」


「セルランティアですわ。おはようございます、ヴィソル様。あなた様がいらっしゃるのを、今か今かと待ちわびておりましたのよ」


「え……っ?」


 ヴィソルの頬がほんのりと赤く色づく。「待ちわびた」などと言われ、照れてしまったのかもしれない。

 ティアはハッと我に返り、両手で頬を挟んだ。


「も、申し訳ございません。わたくしったら、つい本音を……」


「本音?」


「あ……。い、いいえ! 本音というのは、あの……その……」


 ティアは顔を真っ赤にして両手で顔を覆い、いやいやをするように体を左右に揺すっている。


「嫌ですわっ。わたくしったら、わたくしったら……っ」


「セルランティア……」


 思わずヴィソルは手を伸ばし、ティア(体はリオだが)の肩に触れようとする。

 だが、肩先に触れる寸前、


〈やめろヴィソルッ!! 俺の体だぞ!? 正気に戻れっ!!〉


 リオの大声にビクッとなったティアが顔を上げ、ヴィソルもハッとしたように手を引っ込めた。


 真正面からティアの顔を見、姿はリオであることを改めて認識したらしい。気まずそうに目をそらす。


「も……申し訳ありません。一瞬、あなたがリオフリードの姿であることを忘れてしまっていました」


「い、いいえ。わたくしこそ、はしたないことを申しましたわ。あの……つい、はしゃいでしまって……。お恥ずかしい限りですわ」


 二人は顔を赤くして、扉付近で落ち着きなく視線をさまよわせていた。

 だが、ふいにヴィソルはフッと笑みをこぼし、


「ですが……不思議なものですね。あなたがリオフリードの中にいらっしゃると知る前までは、〝女言葉を口にするどことなく不気味な少年〟としか思えなかったというのに。あなたがいらっしゃると理解したとたん、どのような姿であれ……少年の声であってすら、可愛らしく思えてしまうのですから」


「ヴィ、ヴィソル様……。そんな、可愛らしいだなんてお戯れを……」


「いや、戯れなどではないから困っているのですよ。姿がリオフリードであることも、彼が中にいることも忘れ、あなたを抱き寄せてしまいそうになるのですから。これからは、よほど気を引き締めていないといけませんね」


「ヴィソル様……」


 二人はしばし見つめ合い、何とも言えない甘い雰囲気が漂う。

 リオはいよいよ耐えられなくなり、思い切り叫んだ。


〈いー加減にしろッ!! いつまで見つめ合ってんだ、気色悪ぃッ!! 王女さんも、俺の体だってこと忘れてもらっちゃ困るぜ!!〉


 大声に驚いたティアは短い悲鳴を上げ、両手で耳を押さえる。

 ヴィソルは「セルランティアっ?」と心配そうに肩に手を置いた。


 はにかむように微笑むと、


「と、とりあえず、そちらにお座りください、ヴィソル様。ゆっくりお話をお聞かせください」


 ティアはテーブル前の椅子を指し示し、やんわりとヴィソルを促した。




〈で? 吟遊詩人のおっさんの話に出てきた貴族ってのには会えたのかよ? 会えたんだったら、さっさと話を聞かせろ〉


 椅子に腰かけて早々、リオは不機嫌な声で切り出した。

 これ以上機嫌を損ねてはいけないと、ティアはリオの言葉を柔らかく修正しながらヴィソルに伝える。

 彼は小さくうなずいて、予定どおり貴族に会えたことを示した。


「エルイグニス陛下のお力添えのお陰で、貴族にはすんなり会えましたよ。会えたばかりか、陛下直々の仰せとあって屋敷総出で出迎えられましてね。少々引いてしまったくらいでした」


「まあ……。屋敷の方全員にですの? 賑やかでいらっしゃること」


 くすくす笑うティアを見て、ヴィソルは気を良くしたように大きくうなずく。


「ええ、そうなのですよ。主人以下、執事や従者、侍女や下働きの者たちまでが敷かれた絨毯の左右に並び、それはそれは大げさな出迎えでした」


〈――って、んなこたぁどーでもいーんだよ! 早く貴族の話をしろって!〉


 リオのイラ立ちはかなり積み重なっているようだ。ティアは慌てて先を促した。


「まあ、そう急かすなリオフリード。収穫はかなりあったから心配するな」


「収穫? 鉄の心臓について、わかったことがありましたの?」


 ティアの問いに、ヴィソルは真剣な顔になってうなずいた。


「ええ、もちろん。吟遊詩人の一族を長年庇護していた貴族の先祖は、鉄の心臓を開発した科学者のことをよく知る者。そして、吟遊詩人の歌の詞と、古文書の一節を書き記した本人であることが判明しました」


「ええっ? 鉄の心臓の発明者をよく知る者?」


〈おまけにあの歌の詞と古文書の一節を書き記した者ぉ!?〉


 思いがけないヴィソルの言葉に、ティアとリオは仰天した。

 ヴィソルは再びうなずくと、さらに驚くべきことを告げた。


「それだけではありません。屋敷の書庫で、やはり貴族の祖である科学者による作とされる、一冊の寓話を見つけたのです。そこには『鉄の心臓』誕生の背景と、それを起動させたことによって起こった、ある王家の悲劇的な結末が記されていました」



 ある王家の悲劇的な結末――?



 その言葉を聞いたティアとリオは、一瞬、息をするのすら忘れて沈黙した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。