☽第5話 共闘を誓う握手
結局、リオたちは地下道には入っていけなかった。
……いや。正確に言えばリオ(とティア)だけが。
ヴィソルは問題なく入れたのだが、リオが入ろうとするとビリリと全身に刺激が走り、後方へと弾き飛ばされてしまうのだ。
まるで、《《目に見えない何か》》に行く手を阻まれているかのようだった。
何度挑もうと結果は変わらなかったので、リオたちは諦めて街へ引き返すことにした。
道中、リオは悔しそうに「くっそー! どーして俺は入れねーんだよ!?」と何度も口にしていた。
そのたびにティアにはなだめられ、ヴィソルには呆れられつつ歩き続け、昼前には街に着いてしまった。
「さて、どうしたものか。今日一日の予定が全てなくなってしまった。塔にいるセルランティアと、先の世から魂だけ飛ばされてきたというリオフリードに、君たちを会わせたかったんだが……。仕方あるまい。私が両側の橋渡し役を引き受けることにしよう」
街の中心である広場まで来ると、ヴィソルはそう言って腕を組んだ。
リオは「はあ?」と思い切り嫌な顔をしてみせる。
「やなこった! 俺はまだ、あんたを完全に信じたわけじゃねーんだからな! 隣国の王子だか何だか知んねーが、あんたに協力するなんてまっぴらごめんだ!」
〈リ、リオフリード様!〉
困ったようなティアの声が響く。
だが、純粋過ぎるこの王女に舵取りを任せておいては、どこまでもこの男についていってしまいそうで怖い。
彼女が人を疑えない分、自分がしっかり状況を見極めて判断しなければと、リオは使命感のようなものすら感じていた。
リオの言葉を少しの動揺も見せずに聞いていたヴィソルは、小さくため息を漏らす。
「あなたも同じ意見なのですか、セルランティア? 婚約者である私が信じられないと?」
〈そ、そのようなことは――〉
「婚約者かどーかなんてカンケーねーだろ! けど……あー、そーだ! 王女さんもあんたのことなんて信じらんねーってよ!」
〈な――っ! 何をおっしゃいますの、リオフリード様っ?〉
思ってもいないことを代弁され、ティアは傷ついているようだった。そこには少し胸が痛んだ。
しかし、リオはもはや、ティアの保護者のような気すらしていた。
だからこそ、「彼女の婚約者だから」という単純な理由で、この隣国王子とやらを信用する気にはなれなかった。
(だいたいこいつ、いくら婚約者がいるからってしょっちゅうこの街に変装してやってきて、いったい何してやがんだよ? 自分の国でやることねーのか? そんなに王子って奴は暇持て余してんのかよ?)
落ち着いて考えてみれば、引っかかるようなことばかりに思える。絶対油断してはならないと、リオはいっそう警戒を強くした。
「本当に、セルランティアご自身が私を信用できないとおっしゃっているのか? おまえが勝手に言っているだけなのだとしたら、私もいろいろ考えねばならんが……わかっているのだろうな?」
言い終わったほんの一瞬。冷酷な視線を向けられ、リオは思わずヒヤリとした。
だが、言ってしまったことは今さら取り消せない。ティアを守らねばならないという強い意思もあり、リオは虚勢を張って言い返した。
「おう! あったりめーだ! 王女さんはあんたみてーなうさんくせー奴は信じらんねーってよ! 悔しかったら信じてもらえるよーに努力すんだな!」
〈リ……リオフリード様ぁ~……〉
今にも泣き出しそうなティアの声が響く。
リオは流されまいとあえて聞こえないふりをし、睨みつけるようにヴィソルを見返していた。
しばし無言で対峙していたヴィソルだったが、つと視線をそらせると、悲しげな表情でうつむいた。
「そうか……。そうだな、そう簡単に信じられるものでもないのだろうな」
すっかり気落ちしてしまっている様子のヴィソルに、リオは妙に落ち着かない気持ちになった。
これでは、まるで自分が意地悪をしているようではないか。急に弱気になられても困る。
居心地の悪さを感じてリオがソワソワしていると、ヴィソルは気を取り直したかのようにまっすぐ見つめてきた。
「わかった。セルランティアに――そしておまえにも、信用してもらえるよう努力しよう。言われて初めて気がついたが、婚約者という立場に甘えているところも、確かにあったのかもしれない。それに……私がセルランティアの立場だとしても、おまえと同じように警戒していたに違いないしな」
そう言って、ヴィソルはリオの前に手を差し出した。
「……なんだ、これ?」
訝しむリオに、ヴィソルはフッと笑って。
「改めて、これからよろしく頼むという意味だ。平民には握手の習慣はないのか?」
「な――っ! バ、バカにすんな! 握手くらい知ってるっつーの!」
リオは乱暴にヴィソルの手を握ると、力任せに握り締めた。僅かにヴィソルの顔が歪んだが、彼は不敵に微笑み、さらに強い力で握り返す。
(イデデデデッ!……こ、い、つぅう~~~っ!)
両者は必死にやせ我慢しつつ、しばらく笑みをたたえながら手を握り続けていた。
体を交替していない間は痛みまでは感じないティアは、
(ああ、ようございましたわ。お二人とも、仲直りしてくださったのですね)
などとノンキに捉え、心でニコニコと微笑みながら、二人の「まるで力比べかのような握手」を見守っていた。




