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虹の瞳のセルランティア~殺した者と殺された者の魂は過去に飛び、互いの体に入って悲劇の芽を摘む~  作者: 咲来青
第4章 理解者と協力者

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☀第14話 父王の苦悩

 リオの言葉から気づきを与えられたティアは、ヴィソルの目をまっすぐ見つめた。


「ヴィソル様。今おっしゃった『いにしえの呪い』とは、いったいどのようなものなのですか? わたくしは呪われているのですか? ですから、お父様はわたくしをこの塔に……?」


 ヴィソルはハッと目を見開き、大きく首を横に振った。


「いいえ、セルランティア。あなたは呪われてなどおりません。あなたには何の罪もないのです」


「では、どうしてお父様は、わたくしをこの塔に住まわせているのですか? どうして城に近づこうとすると、人が変わってしまったかのように激しくお怒りになるのです? わたくしに問題があるからではないとしたら、どうして――! どうしてなのですか?」


 ティアの目に涙が浮かんでいた。

 ヴィソルが謎についての全ての答えを知っているとは限らないとしても、訊かずにはいられなかった。


 ヴィソルは何か言おうと口を開いたが、ふと、不思議そうに見上げるネストの視線に気づいて口をつぐんだ。

 それを察したティアはネストの前に膝をつくと、肩に手を置いて優しく語りかけた。


「ネスト。わたくしたちは、これから大切なお話をしなければならないの。遊びにきてくれてとても嬉しいけれど、今日のところはお城に戻っていてくれないかしら? お城まではカティに送っていってもらいましょう。ね?」


「ええー……? 今すぐ戻らないとダメですか? 僕、もう少しお姉様とお話したいです」


「ええ、そうね。わたくしもその気持は変わらないわ。ほとんど会える機会がないのですものね」


「はい。僕はもっとお会いしたいのに、お母様がダメだっておっしゃって……」


「それは……。お義母様にもいろいろと事情がおありになるのよ。あなたのためを思ってのことでしょうから……。ね? お城に戻りましょう?」


「……はい。わかりました……」


 大いに不満そうではあったが、ネストはしょんぼりしてうなずいた。

 ティアがカティにネストを預けると、二人は一礼してから静かに部屋を出ていく。

 寂しそうなネストの後ろ姿を、ティアは身を切る思いで見送った。


 ネストは前王妃(ティアの母親)が亡くなってから数年後に迎えられた現王妃、エレシュリスの息子だ。

 母親違いの弟というわけだが、歳がかなり離れているということもあってか、ティアにもよく懐いてくれていた。


 年に数回、エルイグニスに連れられてこの塔に来ることがあるくらいで、滅多に会えることはない。ティアも名残惜しかったのだが……。


 今はヴィソルに訊かなければいけないことが山ほどある。切り替えなくてはと、ティアは気を引き締めた。


「ヴィソル様。これで幼い子に秘密を知られる恐れはございません。あなた様がご存知でいらっしゃることを、全てお話しいただけますか?」


 ヴィソルは軽くうなずいて、自分の知っている限りのことを語り始めた。


「先ほども少しお話しましたが、私は八つの歳に初めてこの国を訪れました。前王妃であらせられたあなたのお母君がお亡くなりになったとのことで、そのお悔やみにと、父と共に来城したのです」


「まあ……。あなた様がこの国にお出でになったのは、母の弔いのためでしたのね。幼い頃のことですから、そこまでは思い至りませんでしたわ」


 ヴィソルに初めて会った日。自分が泣いていたのは、母の死からまだそれほど経っていなかったからだったと、ティアは改めて思い起こしていた。


 ヴィソルはティアにうなずいてみせると、再び語り出す。


「その夜のことでした。私はお一人で庭を歩いておられたエルイグニス陛下をお見かけし、人目を気にしていらっしゃるようなご様子だったのが気にかかり、後を追っていきました。その先で、あなたの弟君と同じ経緯で地下道へと続く石のベンチを発見し、恐れ多いことではありましたが、幼い好奇心に抗うことができず、さらに陛下の後を追ったのです」


「その時は、お父様はお一人で?」


「はい。この国の王ともあろうお方が、夜分に供も連れずにお一人で――というのが、どうしても不自然に思えてしまいまして。こっそり後を追わせていただいたわけですが……。そこで先程も申しましたとおり、陛下の秘密の部屋と、その中で苦悩しておられる陛下のお姿を目にしてしまったのです」


「『苦悩して』……? お母様がお亡くなりになったばかりのことですもの。悲しみに暮れていらっしゃったのなら当然とも思えますけれど、『苦悩して』とは、いったい……?」


 ヴィソルは戸惑うティアの片手を取り、両手でしっかりと握る。

 とたん、リオは「こいつ、何かにつけて手を握りやがるな」とムッとした。

 だが、真剣な話をしている途中で水を差すのもマズいかと、必死にこらえた。


「セルランティア。陛下が苦悩していらっしゃったのは、母君のことではありません。あなたのことについてです」


「わたくしの……? わたくしがお父様を苦しめているのですか?」


「いいえ。あなたご自身のせいではありません。先ほども申しましたが、あなたには何の罪もないことなのです」


「それでは、何がお父様を悩ませ、苦しませているのですか? お父様の秘密の部屋とやらで、あなた様は何をご覧になったのです?」


「幼き頃、私があの部屋で目撃してしまったのは、陛下の苦悩するお姿。そして……『ああ! 虹の瞳、虹色の髪……! それらを持って生まれてさえいなければ、あの子はもっと自由でいられた! あのような場所に住まわせる必要などなかったのだ!……おのれ、忌々しき運命め! 禍々しき魔導装置め……!』という、陛下の嘆きのお言葉でした」


「……魔導……装置……?」

〈なんだそりゃ……?〉


 初めて耳にする言葉だった。

 ティアもリオもそれが何を意味するのかさえわからず、ただヴィソルの言葉を待っているしかなかった。

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