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虹の瞳のセルランティア~殺した者と殺された者の魂は過去に飛び、互いの体に入って悲劇の芽を摘む~  作者: 咲来青
第4章 理解者と協力者

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☽第8話 新人の正体

 店の入口に突っ立って周囲を見回していた美青年――アウェルは、リオと目が合うとギョッとした様子で一歩足を引いた。

 数日前にあのようなことがあったのだから、無理のないことではあるが。露骨に身構えられると、さすがにムッとしてしまう。


 リオは「こっちだって会いたくなかったっつーの」と思いながら、軽くアウェルを睨みつけた。

 アラサブはリオの視線を追うように入口の方へ目を向け、「あっ」と言って立ち上がった。


 いきなり何を思ったか、


「おーい! こっちこっち!」


 大きく手を振って自分に注目させた後、両手でアウェルを手招きする。


「えっ、ちょ……っ! なんで手招きなんかしてんだよ!? アラサブ、あいつと知り合いだったのか!?」


 焦ってリオが訊ねると、アラサブはコクリとうなずいて、


「ああ。あいつがさっき話した奴だよ。やたら器用な新人」


「ええっ!?」

〈まあ……!〉


 リオとティアの驚きの声が重なる。

 二人がそうしている間にも、アウェルは当然のようにこちらへやってきて、アラサブの横の椅子を引いてストンと腰かけてしまった。


(こいつ……! まだ座れとも何とも言ってねーのに!)


 なんて図々しい奴だと今度は思い切り睨んでやる。

 アウェルはリオの視線から逃れるように横を向いた。


「悪いな、アラサブ。呼ばれたから何の疑問もなく座ってしまったが、あんたの連れの気分を害してしまったらしい」


「いや。気にしなくていーって、俺が呼んだんだし。こいつはリオってんだけど、もともと愛想悪い奴だからさ。気にしねーでダイジョーブだって。べつに怒ってるわけじゃねーと思うぜ?」


「そう……なのか? 思い切り睨まれているような気がするが……」


 リオをチラ見した後アウェルがそう告げると、アラサブは「平気平気」などと言いながらうなずいている。


(何が『平気』だってんだ! 俺は全ッ然へーきじゃねーぞっ!)


 勝手に代弁されたリオは、当然面白くない。アラサブも思い切り睨んでやる。

 当の本人はケロッとした顔でリオを無視し、アウェルに話しかけた。


「ところで何を注文する? ここの飯はどれも美味いから、何食っても問題ねーけどな!」


 アラサブの人懐っこい笑顔にホッとしたのか、アウェルは微かに笑みを浮かべた。


「じゃあ、まずはエールを」


「よしきた!」


 早速アデリンを呼んで注文を済ますと、アラサブは満足げにうなずいた。

 いくらも経たないうちにアデリンが現れ、右手に持っていた大皿をリオとアラサブの前に、左手の小皿をそれぞれの前に置いた。


「はい! まずはこっちね。ご注文の『いつもの』でーっす」


「……『いつもの』?」


「ああ! オレとリオはだいたい同じもん頼むんだよ。『塩漬け肉の煮込み』。ここの女将さんの自慢料理なんだ!」


「へえ……。では、オレも同じものを」


「はーい、『いつもの』ね!……でも、大皿二枚も大丈夫? 一枚でか~るく二人分以上の量はあるよ?」


「ああ……そうか。確かに、これを一人でってのはキツいな」


 アウェルは隣の大皿を見つめ、残念そうにため息をついた。


「仕方ない。今日は諦めて別のものにするか。一人で食える量のものを頼む」


「一人なら、黒パンと野菜煮込み辺りかな。ポロネギやカブをくったくたになるまで煮込んでドロッドロにしたスープ。それじゃ足りないなら、燻製肉とかヤギのチーズ。魚なら、今日はマスの塩焼きとかオススメだよ!」


 アデリンの明るい笑顔に釣られたのか、アウェルはフッと笑みをこぼす。


「じゃあ黒パンと野菜煮込み、それからオススメのマスをもらおうか」


「黒パンと野菜煮込み、それとマスの塩焼きね! 毎度あり~っ」


 朝から働いてクタクタのはずなのに、アデリンは踊るような足取りで厨房へと引っ込んだ。

 感心しつつ見送ったリオは、いつの間にか自分の皿に取り分けられていた塩漬け肉に目を落とし、スプーンを手に取る。


「先に食ってていいか、アウェル?」


 慌てたようにアラサブが訊ねると、アウェルは構わないといった様子でうなずいた。


(わざわざそんなこと訊かなくたっていーだろ! こいつが勝手に俺たちの席に座ってきただけだし!)


 やたらアウェルに気を使っているアラサブに、リオはムカムカしながらスープをスプーンですくって口に運ぶ。

 すると、ティアが遠慮がちに声をかけてきた。


〈あ……あの……リオフリード様? アウェル様にお訊ねしたいことがあるのですけれど……わたくしの代わりに、お訊きしてくださいませんか?〉


「はあッ!?」


 スプーンを握り締め、リオは思わず大声を上げてしまった。

 アラサブもアウェルも、ギョッとしたようにリオを見つめる。


(ヤベっ!)


 リオは慌てて立ち上がり、「すぐ戻る!」と告げてから席を離れた。

 店の外に出ると、入口の端の方へ行って声をひそめる。


「あいつに訊きてーことって、どーゆーことだよ王女さん? なんで俺が――っ」


〈も、申し訳ございません。あのお方のお名前しか存じ上げませんので、もう少々、あの……いろいろお訊きしたいと思いまして……〉


「『もう少々』? 『いろいろ』? どっちだよ!――ってか、訊きてーなら自分で訊ーてくれよ! 今すぐ入れ替わってやっからさ!」


〈ええっ?……そ、そんな……わたくしから直接お訊きするなんて……。む、無理ですわ。アウェル様がお傍にいらっしゃると思うだけで、胸が張り裂けそうなのですもの……!〉


「……胸が張り裂ける、ねぇ……」


 リオは「これは俺の体だけどな」と思いつつ口には出さず、聞えよがしにため息をついた。


「わかったよ、訊ーてやるよ。……で、何を訊きてーんだ?」


〈リオフリード様……! ありがとうございます!〉


 ティアは嬉しそうに礼を言い、〝訊きたいこと〟とやらを告げた。

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