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虹の瞳のセルランティア~殺した者と殺された者の魂は過去に飛び、互いの体に入って悲劇の芽を摘む~  作者: 咲来青
第2章 相互理解の日々

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☽第2話 陽気な双子兄妹

 朝から夕方までたっぷりと働き、大工小屋から親方の妻が営む酒場へと移動する道中、


「よっ、リオ! 今日もしっかり働いたかー?」


 足取り軽く駆け寄ってきた少年が親しげに片手を上げた。

 同い年ほどに見える。リオの知り合いだろうが、ティアとしては初対面だ。どう返すのが正解なのかわからず、両手を握り締めながら恐る恐る相手を見返した。


〈王女さん、心配いらねーよ。こいつはガキの頃からずっと一緒の俺の相棒。……ま、仲間っつーか、そんな感じでさ。『アラサブ』ってんだ〉


「アラサブ……様」


 思わず口に出したとたん、アラサブは「はあーッ!?」と声を裏返らせ、穴のあくほどティアを見つめてきた。


「どーしたんだよ、リオ? いきなり『様』とか付けてきやがって」


 互いの鼻先が触れるのではないかと心配になるほど顔を近づけられ、ティアは緊張して固まった。

 今まで、他人にここまでの至近距離で見つめられたことなどなかったのだ。


〈うわーっ! 悪い、王女さん! こいつ、悪い奴じゃねーんだけどさ。とにかく人懐こいっつーか、遠慮がねーんだよ。馴れ馴れしく感じちまうだろーけど、こいつにはこれっぽっちも悪意はねーんだ。だからさ、その……勘弁してやってくれよな〉


 仲間を悪く思われたくないのだろう。リオは必死に言い募ってくる。

 だが、ティアはアラサブに悪印象を持ったわけではない。どう反応していいかがわからず、困惑しているだけだ。


(どうすればよいのでしょう。リオフリード様の口調を真似ることができなければ、また驚かれてしまいますし……。ああ、お願いいたしますリオフリード様! わたくしに、どう返答すればよいかのご教授を!)


 ティアは必死に心で呼びかけるが、体は共有していても心の声までは聞こえないらしい。

 リオはひたすら〝相棒〟を擁護するばかりで、ティアの想いに気づく気配はなかった。


「おいおい、マジでどーしちまったんだよ? 腹空き過ぎて頭がボーッとしてんのか?……ったく、情けねーなぁ。いくら仕事終わったばっかっつっても、そこまでへばっちまうなんておまえらしくねーぞ? オレなんか――ほらっ、見ろよ。こーしてピンピンしてるぜ!」


 アラサブはティアの肩をバシバシ叩きながら、自分の体力がどれだけ無尽蔵かを自慢し始めた。

 ティアはいよいよ困り果てたものの、声を出してリオに助けを求めるわけにもいかない。おどおどと視線をさまよわせていると、


「リオーッ! アラサブーッ!」


 後方から、街中に響き渡りそうなほどの声が響いた。

 ティアはビクッと肩を揺らし、反射的に振り向く。


「ごめんごめーん! 今日はいつもより客がやたらと多くてさ、大釜がスッカラカンになっちゃったんだよ。二人ともお腹空いてるだろうけど、どっかで時間潰してきてくれるー? 今、大慌てで追加分作ってるとこだからさ!」


 快活そうな短めの髪の少女が駆けてきて、ティアとアラサブの前で立ち止まった。


「えーッ!? もうなくなっちまったのかよ! こっちは仕事帰りでクタクタだってのに、ツイてねーなぁ……」


 アラサブがガックリと肩を落とせば、


「まーまー、そこまで遅くはならないと思うからさ。とにかく二人とも、どっかで時間潰してきてよ。……ま、親父どもが文句たれながら飲んだくれてるとこを側で見ていたいってんなら、酒場で待っててもいいけどー?」


 からかうようなことを言い、快活そうな少女がケラケラと笑い飛ばしている。


 この少女は? とティアがポカンとしていると、すかさずリオの説明が入った。


〈王女さん。こいつは『アデリン』っていって、アラサブの双子の妹なんだ。こいつも明るくて良い奴だぜ。……ま、たまに『ウルセー!』って叫びたくなる時もあるけどな〉


「まあ……。そうなのですか」


 ティアは二人に気づかれぬよう小声で返事すると、二人の間で視線を行ったり来たりさせた。


(アデリン様。アラサブ様とは双子のご兄妹なのですね。お顔はそれほど似ていらっしゃらないようにも思えますけれど、男女の双子はそういうものなのかもしれませんね)


 納得したようにうなずいた瞬間、アラサブはクルッとティアに顔を向けた。


「――ってことみてーだから、飯ができるまで川で汗でも流してよーぜ! なっ、リオ?」


 ニカッと歯を見せて笑うアラサブに、ティアは思わずつられてうなずいてしまうところだった。

 しかし、


(……え? 川で……汗を、流す……?)


 その意味に思い至ると、ティアの顔から一気に血の気が引いた。


「そ……そんな……そのようなこと……!」


〈そーだぞ、アラサブ! 王女さんに何させよーってんだ!〉


 リオの焦り声が響いた直後、アラサブはキョトンとした顔で首を傾げる。


「ん? どーしたんだよ、リオ? いつもなら『やったー!』って真っ先に川まで駆け出してくのに。おまえ、泳ぎ得意だもんな」


「えっ?」


〈うるっせーぞ、アラサブ! 今は泳げる泳げねーは関係ねーんだよッ!〉


 さらに焦ったかのように早口でツッコむリオ。


(泳ぎが得意? リオフリード様が……?)


 ならば、そこまで恐れることもないのだろうか?

 川に入ったことなどないティアは思わずホッとしそうになった。

 しかし、脳裏にもうひとつの問題がよぎったとたん、


(い……いけませんわ! やはりいけませんわ! 川で汗を流すということは、は……は、は……っ、裸になるということではありませんか! そのようなはしたないこと……その上、殿方となんて……!)


 ティアはギュッと目を閉じ、イヤイヤをするように首を左右に振った。

 すると、 


〈じょじょっ、ジョーダンじゃねーぞっ! 王女さんに俺のはっ、ははは裸っ、見られた上に洗わせっとか、ぜぜっ、ぜってー無理だっつーのーーーーーッ!!〉


 ティアの拒否反応に負けず劣らずと言った感じで、リオが頭で絶叫した。

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