3.望まぬ報せ
翌日、狩諳は"執行"の後の姿のまま特別室で目を覚ます。
床の冷たい感触、体に残る痛みや震え、全てが重なって昨日の凄惨さを思い出させる。
狩諳は荒い呼吸と震える手を力ずくに鎮め、軽く身なりを整えて執務室へと戻る。
昨日片付けきれなかった書類や、東雲から上がってきた尋問記録と睨めっこしながら、ブロック状の栄養食を淡々と咀嚼する。
その瞳には、深い虚無と底なしの闇が刻まれているようだった。
(どうせ俺は…どこまで行っても誰かの道具…心なんて…必要ない…)
そこに、朝礼会議の資料を持った桐生がやってくる。
「おはよー総帥…って、顔色悪くね?大丈夫か?」
「そう?全然大丈夫だよ。心配ありがとう。」
狩諳は精一杯の作り笑顔で返事をする。
(知られちゃいけない、知られたくない。この醜く穢れた本当の姿だけは、絶対に…。)
知られたら、その時こそ自分が壊れてしまう。本能でそう感じた。
数日後の昼過ぎに、上層部から狩諳の携帯に着信が入る。
いつもなら夜に来るはずの"執行"の連絡が昼間に来たのかと疑問を抱きながら恐る恐る応答する。
「…デルタ西日本総帥、荒瀬狩諳です。」
「伝えなければならないことがある。今すぐ特別室に来い。」
「…承知しました。」
妙な胸騒ぎを感じた狩諳は、足早に特別室へと向かう。
ノックを4回。「入れ」という合図の後、「失礼します」と入室する。
待っていたのは、上層部の中でも一番位の高いデルタ本部統括理事長だった。
「理事長ともあろう御方が、俺に伝えたいこととは…?」
狩諳は胸のざわめきを鎮めるように、真っ直ぐに尋ねた。
「良い報せと悪い報せ、どちらから聞きたい。」
狩諳は目を見開く。嫌な予感しかしない。
息を呑んだ後、ゆっくりと答える。
「良い報せから…お願いします…。」
統括理事長は狩諳の目を見て発した。
「お前の父、荒瀬 猟弥が生きていた。」
狩諳は信じられないものを見たかのように固まる。
「では…悪い報せというのは…。」
「お前の父は、シグマの一等兵だった。」
胸騒ぎの原因はこれだったのかという妙な冷静さと、嘘だ、信じたくないという激しい動揺が混ざりあって、狩諳は事実を飲み込めずにいた。
しばらくして、ようやく狩諳が口を開く。
「つまり…俺を呼び出した理由は…。」
必死に冷静さを保ち、問うた。
「ああ。責任を取ってもらうためだ。一等兵は問答無用で即処刑。…できるな?西日本総帥。不可能と抜かすなら、一族郎党処刑だ。」
統括理事長の冷淡で非情な命令を前に、狩諳は「御意」と答える以外の選択肢は残されていなかった。




