表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/64

第六十二話 相棒

 王都にある建物はそれなりの雰囲気を求められるのだろうか。

 目の前にあるのは冒険者ギルドのはず。


 すっかり日も落ちて、入り口を照らすのは高価そうな魔導具。

 華美ではないが、清潔感とわずかな装飾がなされた扉。

 わざわざ開けてくれる扉番みたいな男が、マイコールたちを招き入れてくれる。


 夜でも賑やかな冒険者ギルド。

 どうやら軽食などが取れるように食事処が併設されていたり、魔物の素材の査定などが活発なようだった。


 リアノンと手を繋いだまま、受付へと進む。


 ちらちらと向けられる視線。

 興味がそこそこ、訝しげなものがまずまず、ここまでついてきた奴らの嫌な臭いが、ちょっとだけ混じってる。そんな感じだった。


「いるぞ」


 マイコールの一言に、


「うん」


 リアノンの返事はそれだけ。


 ぱっと見でも、強そうなのが何人もいる。

 視線を向けてこない余裕や、筋肉のバランスなど。そりゃあ国一番の冒険者ギルドなんだから、当然ではある。


「おーい、受付のねえちゃん。ちょっといいかあ?」

「どのようなご用件でしょうか」


 リアノンの両腕に抱えられ視線を高くしてもらったマイコールが、カウンターの向こう側へと話しかける。

 眼鏡を掛けた受付嬢は、淡々と尋ねてくる。

 虎猫族だからと、侮る気配はなかった。


「明日、ギルド長と面会する予定のマイコールってもんだけど。ついさっき王都に到着したから、いちおーの報告に来たぞ」

「少々お待ちください」


 受付嬢は裏へ一度姿を消して、紙をめくりながら戻ってくる。


「申し訳ありませんが、もう一度名前をお願いしてもよろしいですか」

「マイコール・ニャルコフだぞ。ギルドカードも出すか?」

「はい、お願いいたします」


 ぺら……ぺら……。

 丁寧にめくる紙の音。マイコールはリアノンの腕の中で、そんな様子をじーっと見上げていた。


 やがて、受付嬢は近くの職員話し始める。

 一通り終えると一度短く息を吐いて、マイコールへ視線を落とした。


「お約束は見当たりません」


 受付嬢の丁寧な返答。マイコールを抱えるリアノンが、わずかに力を込めた。


「時間帯のお間違えはありませんか? もしくはこちらの不備の可能性もあるので、もう少々お時間をいただければ、詳しくお調べいたしますが……」

「にゃるほど、にゃるほど。いや……、とりあえず、オイラたちの間違いがねーか、ちょっと確認してみるぞ。受付のねえちゃん、ありがとなっ!」


 手をフリフリするマイコールに、受付嬢は身体の前で手を合わせてから、深いお辞儀をしてくれた。

 マイコールはリアノンの手を引いて、ギルドの壁際に移動した。


「あの槍持ち……、そっちの斧使い……。一緒にいる数人もそうだな」


 マイコールは見逃さない。

 冒険者の一部が、ゆっくりと目立たないように、移動していた。入り口の脇に立った槍使い。身体の一部みたいに馴染んだ槍に、小さな殺気を載せている。

 そこらの冒険者に紛れて囲う配置の奴ら。豪快な斧を担ぎ、視線もそらさず向かってくる男。


 ギルド内の冒険者の流れ。淀みがなかったそれが、石でも置いていくように、少しずつ乱れていく。


「ギルドを狩り場にしやがったのか」

「王都の入り口も閉まってる」

「そうだな。城壁もなんか面倒だったし、王都に閉じ込めるってのもあるな。よっぽどオイラたちを、出したくないんだな」


 リアノンとそんな会話をしていると、


「おい、マイコールさんよ」


 ニヤニヤした斧使いが、不躾に話しかけてくる。


「おう、斧のあんちゃん。オイラになんか用かあ?」


 久しぶり、とでも言う気安さでマイコールは片手をあげた。

 まあ実際のところ、ずっと追いかけてきた一人なのだから、久しぶりでもある。


 斧使いは眉根を寄せた。マイコールの態度が、気に食わなかったのかもしれない。


「はんっ、ずいぶんとお気楽だな。ここまでおびき寄せられたのに、気付いてもないのか? 虎猫族は頭が悪いんだな」

「なに言ってるの? マイコールの頭は、まん丸で可愛い。これが悪いなんて、目がおかしい」

「なんだと? このガキ……。生意気な口をききやがって」


 斧使いの視線を真っ向から受けるも、怯まないリアノン。ぼーっと見返したままだ。


「まあいい。どうせ、この後すぐに、泣きわめくことになるんだからな」

「なあなあ、用件があんのはオイラの方だろ?」


 マイコールが一歩前に進むと、斧使いはようやくこっちを見てくれた。


「覚えてるか? 冒険都市でも、あんたが悪い奴って、散々広まってたろ?」

「そんなことも、あったなあ」

「同じことをやってやる。色んな奴があんたの悪評を、一気に広める手筈は整ってんだ。王都の兵士や騎士団、金目当ての腕利き、A級の冒険者グループが、一斉にあんたを狙うようになるぜ」

「ふーん、そーなのか」


 自信に満ち溢れてる斧使いを前に、耳の付け根をかくマイコール。


「余裕のつもりか? S級だろうが、所詮、虎猫族だろ? 足手まといがいりゃあ、イチコロよ」

「んにゃ? 足手まとい? 誰のことだ?」

「はんっ! そのガキのことだ。今さら他人だってのは、通用しねえからなっ!」


 ごつい指で、リアノンを指差す斧使い。

 マイコールとリアノンが顔を見合わせて、キョトンとしてしまう。


「リアが……?」

「わたし、足手まとい?」

「うんにゃ、そりゃありえねーよ」


 マイコールは首をふるふると横に振った。


「……けっ、死ぬまですっとぼけてな」


 斧使いが持っていた武器を構えた。


「リア、いつでもいいぞ」

「えいっ」


 マイコールの背中に、リアノンがもふんと乗ってきた。

 背負った感覚を確かめるように、マイコールは何度か軽く跳びはねる。


「……は?」


 斧使いが一瞬、間の抜けた声を出した。

 マイコールは感覚に身を預ける。周囲の声が少しずつ遠のいていく。


 背中の重み。足手まといなんかではない。いつまでも一緒にいると誓った、頼れる半身。

 共に歩き、共に笑い、共に眠る。これからも、ずっと。


 感覚が鋭くなっていく。

 背中にあるものが溶けていき、呼吸と鼓動が一つになるような錯覚。

 目に映る世界が、徐々に遅くなっていく。

 マイコールの肉球が着地しかけた瞬間。斧使いの表情が、バカにしようと変わりかけた――その刹那。


 雷が鋭く跳ねた。


 肉球が、音もなく床を弾く。

 身体を反転させ、天井が足場へ。

 そして壁は、続けて踏むためにある。


 わずか三つの跳躍。それを一瞬ですませる。


 斧使いは、未だ目の前から姿が消えたと、認識が追いつかない。

 マイコールはギルドの入り口で振り返る。わずかに遅れて、突風が入口に向かって吹き荒れた。


 入り口の脇に立っていた槍使いや、その仲間たち。逃げ道を塞ぐつもりだったその配置が、今は意味を失っている。

 その誰もが突如生まれた風で、ようやく目標の姿が消えていたことを知る。


「よしっ、壁も天井も壊れてねーな」


 自分の肉球が触れたところを確認して、マイコールは夜の王都へ飛び出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ