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第三十七話 冒険都市サヴァラン

 石畳に反響する足音、人の話し声、金属が触れ合う音。

 森の静けさとはまるで違う、たくさんの人が生活している世界が、そこにはあった。


「マイコー。さすがにお腹が減った」

「何をするにしても、まずは腹ごしらえからだなっ」


 冒険者ギルドに顔を出そうと思いきや、リアノンのお腹がきゅるる……と悲しげに鳴った。

 出発前に軽食は口に入れたが、それ以降でまともな食事はしていない。


 石畳がまっすぐと先へ伸びている。

 その両脇には様々な店が並んでいた。

 武器屋、酒場、服屋、魔道具を売ってる店、宿屋。

 どの店も賑わっていた。


「アニキ、どうする? 俺の行きつけの店でよけりゃ、すぐに案内するぜ」


 バルカンが声をかけてくる。


「うーん、それでもいいけどなあ」


 マイコールは空を見上げた。

 雲がいくつか浮かんでいるが、気持ちがいいほどの快晴である。


「バルバル、天気が良い。建物の中だと、もったいない」

「なるほどな。だとすると……、確か今日の広場は、店が出てるはずだな。うっし、案内するぜ」


 リアノンの言葉で、何かを察したバルカンが先導してくれる。


 雰囲気のある店で、行儀よく昼飯という気分ではない。

 鼻をひくひくさせれば、油で何かを揚げている、そんな力強い匂いがした。


 バルカンの案内もありつつ、匂いに誘われながら、通りを抜ける。


 視界が開けた先には、円形の大広場がある。

 中央を陣取る大きな噴水。

 弧を描いた水が、陽光を受けてきらきらと輝いている。


 そんな大広場には屋台がずらりと並んでいた。


「……すごい。こういう形もあるのね」


 エルーナが小さく呟いた。


 大通りとはまた違う賑やかさ。

 笑い声や、呼び込みの声。

 一つ一つの屋台は小さいけれど、集まれば雰囲気は大きく変わる。

 大広場そのものが、食べる場所として出来上がっていた。


「これだけありゃ、食べ歩きに困らねーな!」


 マイコールのわくわくが止まらない。


 串に刺した肉を焼く音、砂糖をまぶした揚げ菓子を頬張る子供、香辛料の入ったであろうスープの香り。


「食べ……歩き……?」


 エルーナがピンこない様子で、尋ねてくる。


「たしかに、ここにいる皆さんは……、歩きながら食べてるけど……。そんなことをしてもいいのかしら?」

「にゃんだ、エルーナは食べ歩きが初めてなのか?」

「その……、行儀が悪いと叱られてしまったりは……」


 周りの人達の様子を見て、エルーナは戸惑いが隠せないようだった。


 いつもはお姉さん感を纏っているエルーナが、少しだけ混乱している様子は新鮮だ。

 マイコールは、にゃふっと笑みをこぼした。


「お店では座って食べるのが作法だけどよう、こーいう屋台のものは、歩きながら食べていいんだぞ。それで良かったら、素直に言ってやるんだ」

「なんて言うのかしら?」

「ウマイっ! って言えばいいんだ。それだけで屋台も、周りもちょっとだけいい感じになる」


 マイコールの説明を聞きながら、エルーナは上品にうなずき、「うまい……」という言葉をぽつりと零していた。


「ルナ、初めての食べ歩き、だね」


 リアノンがエルーナを眺めながら、少し口角をあげた。


「バルカンっ! まずは腹に溜まるやつだ」

「そりゃ当然――」

「「肉だなっ!」」


 二人の意見が見事に重なった。


 マイコールが高々と跳躍し、バルカンの肩へと合体。

 マイコールが右手で進めと合図するや、バルカンが猛牛のごとく駆け出す。

 もちろん周囲の人への配慮は忘れない。


 そんなこんなでバトルボアの串焼き肉を手に入れ、そのうちの一本をエルーナへと手渡した。


「これを食べるのに……、串から外すのかしら?」

「そーいう食べ方もあるけど、おすすめは、かぷっといくんだぞ」


 マイコールが串焼きに肉にかぶりついた。肉汁が溢れ出して、口の中へ旨みを広げていく。

 もぐもぐもぐ……、ごっくん。


「うみゃいぞ!」


 マイコールの子供っぽい喜びに、周囲から視線が集まった。

 食べている串焼きに目が向き、どの屋台の食べ物か気にする様子がある。


「これを……かぷっと……」


 エルーナが真剣な眼差しで、串焼き肉を見つめている。

 なぜか、ただならぬ緊張感が漂っている。

 フードを深く被っていては、食べにくいと判断したのか。

 エルーナがフードだけを外した。


 かぷっ! もぐもぐもぐ……。


 口元を手で覆い隠しているエルーナ。

 そこでふとマイコールは気づく。

 噴水の音だけが、やけに大きく聞こえた。

 周囲の人たちが足を止め、エルーナを見守っている。


 少し遅れて、エルーナの喉が動いた。


「美味しい……、じゃなかったわね……。うまい……わね」


 次の一口も、エルーナは大事そうに食べている。


 周囲がざわめき始めた。「あれはどこの店の食べ物だ?」そんな声が、あちこちから聞こえてくる。


 ざわつく観衆には、いまだにエルーナへと視線を向ける人たちがいた。そのうちの一人が歩み寄ってきた。


「お姉さん、美味しいもの好きなの? 良かったら、俺がおすすめの場所を案内してあげようか」


 妙に自信を漂わせる男が、エルーナへと話しかけている。

 エルーナがふわりと微笑んだ。


「ありがとう。でも、大丈夫よ」


 それは、やんわりとした壁。


「大切な人達と、まわっているの」


 エルーナの袖を、無言でつまんでいたリアノン。

 エルーナはリアノンの頭に、優しく手を添えた。

 串を咥えたままのマイコールとも、視線を交わしてくれる。


 エルーナと男の間に入ることも考えたが、バルカンの様子からするに、任せてもよさそうだ。


「いや、でもさ。俺の方が、絶対お姉さんを楽しませることが――」

「必死こいて口説いてるところ、悪いんだけどな」


 バルカンのゴツゴツした手が、男の肩に置かれる。


「引き際ってやつも肝心だと思うぜ」


 いつもより重めの声で、バルカンは告げていた。

 男は口角を引きつらせ、


「はは……、悪かったな」


 そう言い残して、エルーナから距離をとった。


 男が去ると、人の流れは元通りになりつつあった。広場の賑やかさと、噴水の音が戻ってくる。


 だけども、視線が消えきってない。


 先ほどの男とはまた別の、引っかかるような気配が残っていた。


「なあ、みんな。場所を変えるのも、ありじゃねえか?」


 リアノンもバルカンも感じるものがあったのだろう。反対はなかった。


「気遣ってくれたのね。ありがとう」


 エルーナは穏やかに言った。


「けれど、これで大丈夫になるわ。――風の精霊さん、お願いね」


 エルーナを中心として、やわらかな風が波紋のように広がっていく。

 絡みついてきた視線が、静かにほどけていく感覚。


 エルーナを見つめていた男の一人が、首をかしげ、雑踏の中へと戻っていく。

 同じような反応をするのが、何人か見受けられた。


「少しだけ認識を阻害させてもらったわ。これくらいなら、きっと許してもらえるわよね」


 気配が薄くなるようなものだろうか。はたまた、視界に映るものを、少しだけ歪めているのだろうか。

 いずれにせよ、効果は抜群のようだ。


「だけどよう、オイラにはエルーナが変わったように思えねーんだけど」

「あなたたち三人は、阻害から外してもらってるの」


 なんてことがないように、エルーナは言う。

 だけど、対象を一人に絞るわけでもなし。

 さらに効果の有無をわけるなんて、簡単ではないはずだ。


 これを涼しい顔で扱えるあたり、やはりエルーナと精霊の相性は凄い。


 しかし、思い返せば、今更ではあるかとマイコールは思った。


 それよりも今は、別の美味しいものをエルーナに教えてやるほうが大切だろう。


 マイコールは周囲を見回した。本当に様々な屋台が並んでいる。


「この広場……、良い感じだなあ。いつも、こんな感じなのか?」


 マイコールはバルカンに尋ねた。


「いや、いつもじゃねえな。ほら、あそこに教会が見えんだろ」


 バルカンが指差した噴水の向こう側。

 大広場を見下ろすようにそびえ立つ、建物があった。


「冒険都市で一番の教会だ。ここの大広場の管理もしてんだよ。屋台をだせる日を決めてんのはあそこだ」


 教会。

 石造りのそれは、空を突くように高く伸びている。

 頂上近くには鐘があって、周囲の建物と比べても一際大きく、よく目立つ。


「中も綺麗でさ、暇があれば覗いてみても、いいんじゃねえかな」

「なるほどなあ。面白そうな場所だな」


 マイコールは再び教会を見上げる。

 鐘が鳴った。


「おー、すげえ綺麗な音だな」

「太陽が真上に来ると、鳴るように出来てるらしいぜ」


 またあとで来てみるのも一つか。そんなことを思うマイコールであった。


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