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第二十話 ジェルダンの闇

少々、暴力描写があります。

やや胸糞なシーンがあります。

苦手な方はご注意ください。

 冒険都市サヴァランで最上級の宿。その一室にて。


 豪華な絨毯、金細工で装飾された家具、天蓋付きのベッド。一泊金貨十枚を支払う価値のあるその部屋は、成功者だけが入ることを許される部屋だ。


 絹のカーテンを抜けてバルコニーに出れば、瞬く星々が迎えてくれる。

 見下ろせば、美しさの欠片もない冒険者たちが、くだらない話で盛り上がりながら歩く様子が伺える。


 喧騒は遥か遠く、下界とは隔絶された空間に不協和音が響いた。


「君はっ、本当にっ、使えないっ、女だなっ」


 ジェルダンは一言ごとに、ドスッという鈍い音を添えて、シェリルの腹部につま先をめり込ませていた。

 床に横たわるシェリルは、小さく呻き声をあげていた。


「昨日は使いすら満足に出来ず、今日はS級という栄誉を猫ごときに邪魔をされ、愚かな冒険者どもに理解させられない始末……。なんのためにそのよく回る口で、喋ることを許していると思ってるんだい?」

「も、もうしわけ、うっ!」

「七人目を見つけたら、本格的に意思を削ぎ落としてもいいんだよ? 他の五人と同じようにねっ」

「そ、それだけは、お許しを……、うぐっ!?」


 最後に力強く蹴り飛ばし、シェリルの身体は床を転がっていく。


 残る五人の妻は唇を固く閉じ、どこか虚空を眺めていた。

 シェリルへの仕打ちをみても、心はわずかも動かない。まるで物言わぬ人形のようであった。


 ジェルダンは天蓋付きのベッドへ腰を掛け、ゆったりと足を組んだ。


「僕は一体、何者だ?」

「強く、美しく、権力や財力も持ち合わせた、最高の男性です」

「ならば尽くすのは幸福以外のなにものでもないだろう? 舐めろ。役立たずな君でも、それくらいは出来るはずだね?」


 ジェルダンの言葉に逆らえないシェリルは、よろよろと立ち上がり、乾いた笑みを浮かべた。


「……喜んで」


 跪いてから、足趾を口に含む。足の汚れを舌で転がし、舐めとっていく。


 ぺろ……、んちゅ……、あむ……。


 昼間は偉そうに振舞う女が、自分にだけは従わざるを得ない。

 それも表面上ではなく、心の底からわびている。


 ジェルダンにはわかる。どんなに取り繕ろうとも、妻が反抗心をわずかでも秘めていれば、手に取るようにわかる。

 もっともこの女以外は、感情など感じないように、作り上げてしまったが。


 今回のシェリルへのしつけも、十分効いているようだ。高揚感に浸り、ジェルダンがわずかに溜飲を下げた。


「そうだ。やれば出来るじゃないか。いい子だ、シェリル……」


 ジェルダンは口元を歪め、優しく語りかける。


「僕が君に辛く当たるのも、全ては君のためなんだ……。わかってくれるよね……」


 ジェルダンがシェリルの身体を抱き寄せ、甘く粘つくような声で囁いた。


「……もちろんです。すべて、私が悪かったのです」

「この僕の腕の中で幸せを、感じているかい?」

「はい……。ジェルダン様に、こうして強く抱きしめていただけるなら……」

「ああっシェリルっ! その完璧な忠誠心があれば、すべてを許そうっ!」


 言葉とは裏腹に、ジェルダンの瞳には冷たいものが宿っていた。

 シェリルの髪を弄びながらも、興味はすでに眼前の女にはない。


 ジェルダンの脳裏に浮かぶのは闘技場での一幕だった。


 S級冒険者といえば羨望の眼差しを向けるべき存在であることは、疑いようもない事実だ。

 本来ならばS級と告げるだけで、誰しもが言うことを聞いてくれる。

 それは当然のことでなければならない。


 だというのに。

 たった一匹の猫ごときが踏みにじったのだ。


 あんな猫が同じS級扱いされていることすら屈辱だ。

 模擬試合でも不愉快な動きで、小馬鹿にしてきた。

 そしてなによりも、選び抜いたはずの妻たちに見向きもせず、美しい女がいると盛り上がっていた姿が癇に障る。


 許せない……。絶対に許すことなどできない。

 どうにかして、格の違いを思い知らせる必要がある。


 ジェルダンの視線は、左手の薬指にある指輪へと向いた。

 王の指輪――臣下の指輪と対になる禁忌の魔道具だ。

 王が受けた傷は臣下が引き受ける。王を守るために臣下は全てを差し出すかのように。

 そして禁忌たる所以は王の命が失われれば、臣下がその代償を引き受けるからである。


 臣下の指輪からは逃れられない。

 王を害そうとすれば臣下の指輪をつけた誰かが傷つく。どのような感情を抱いているかわかってしまう。

 臣下の指輪から解放されるのは命を失うか、王が自らの指輪を外した時。


 ジェルダンは指輪を手に入れてから、今日この時まで外したことなどない。つまり死を持ってしか、臣下の指輪からの解放はありえない。


 自分は選ばれた王である。


 この指輪を手に入れたのは、天がそう定めた結果に違いない。そうでなければ、ここまで上手くいくはずがない。


 だから、あの猫がしていることは、天を汚している行為そのものだ。


「必ずわからせてやる。この僕に害をなすとどうなるのか……」


 猫を這い蹲らせる未来を想像して、ジェルダンは唇を小さく舐めた。


*´꒳`ฅにゃはっ!

   読んでくれてありがとな。

   

   次はほんわかになるから、安心してくれな。


   気に入ってくれたら、

   次も一緒に旅してくれたら嬉しいぞ。


   ブックマークしてもらえたら、もっと嬉しいな。

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