長い一日って素敵やん
「鳥のささ身と卵白のジュースだ。さあ、遠慮なく飲みたまえ」
伝説の筋肉男に案内されたマッチョ垂涎のトレーニングルームにて、俺は気持ちの悪い飲み物を出されていた。
部屋の中にはダンベルやバーベル以外にも筋肉を鍛えるトレーニング機器のような物が並び、前世のスポーツジムと遜色なかった。
「これは凄いですねえ」
「わかるかい?これはねボンパドゥ商会の特注品なんだよ。ひとつひとつがまさにお宝、レアアイテムってわけだ。元冒険者の君なら私の言っている事はわかるだろ?」
いい顔で笑うパワフルマン。
「え、ええ」
俺は頂いた飲み物をテーブルに置いて笑顔で返す。
「私はね、この業界ではちょっとした顔なのだが本当は冒険者になりたかったんだ…」
そう言って怪しげなドリンクを飲み干すパワフルマン。
「…だからね、ここまで上り詰めたこの私だが君の仕事にはあこがれすら感じているんだよ。是非、君の事を教えてくれたまえよ、遠慮する事はないんだ」
満面の笑みで言うパワフルマン。
しかし、いったい何の業界なのか?どこを上り詰めたのか?頭の中をそうした疑問がくるくる回るが、なぜだかそこはツッコんではいけない予感がした。
これこそ冒険者の勘なのか?
俺はその勘に素直に従う事にしてとりあえずバッグゼッドに来てからの事を話せる範囲で話した。
「ほうほうほうほう……エクセレントッ!!」
興味深げに聞いていたパワフルマンは急に大きな声を上げた。
「おうふっ」
俺はびっくりして声が出てしまう。
「素晴しい!素晴らしいよクルース君!噂に聞くようなあの事件、この事件に君が絡んでいたとは!やっぱり君は私が見込んだ通り、リトルヒーローマンだ!」
俺の肩をガシッとつかみ嬉しそうに言うパワフルマン。
俺はゆすられて頭がガクンガクンする。
「いやあ、良い話しを聞かせて貰えた!久しぶりにワクワクしたよ!ここもそうだが、トレーニングルームはいつでも遠慮なく利用したまえ。私から話しをつけておくよ」
「ありがとうございます」
俺はガクンガクンしながら返事をした。
このままじゃ首がとれちゃうよ。
「おーーい!!」
パワフルマンが声を上げパチンパチンと手を叩く。
「はっ!」
気合の入った返事をしながら部屋の中にふたりのマッチョが入って来る。
「これから彼を見たらどの部屋もフリーパスで使わせる事。わかったな?」
「「はっ!」」
「それでは、失礼します」
俺は今一度パワフルマンに礼を言い頭を下げた。
「いずれ君に力を借りねばならない日が来る。その時は頼むよ」
パワフルマンはそう言うとトレーニングに戻って行くのであった。
う~む、俺の力なんてなくてもあの人ならなんでも筋肉で解決できそうな気がするけどな。
そうしてパワフルマンとの面会は終了した。
その後は作業時間も休憩時間も食事の時間も余計なちょっかいをかけてくる奴はいなかった。
無事に過ごす事は出来たのだがそれはそれで逆になんだか不安な気持ちになってしまう。
なぜ誰もちょっかいをかけてこないのかとマードックに問えば、初日にこれだけ暴れればしばらくは安泰だよ、と気楽な調子で言う。
まあそんなものかと思いはするが、そうなると現在自分が置かれている状況をひしひしと感じてしまう。
いずれにしても不安は残り、同じ考えが頭をぐるぐる回る。
初日の夜はそうしてまんじりともせず過ぎて行くのだった。
「起床!!起床!!」
看守のけたたましい声が朝を告げる。
やっと、うとうととしたと思ったらこれかよ。
俺はぼんやりとした頭を抱えて起床する。
「どうやらその調子じゃ寝れなかったようだな」
俺の顔を覗き込んで言うマードック。
「ああ、参ったよ」
「自由時間に少し寝ると良いさ。作業でケガしないように気を付けろよ?」
「ああ、ありがとさん」
マードックの言う通りだ、ケガだけしないように気をつけよう。
前世じゃ若い頃は夜通し遊んで徹夜で仕事に行くなんて事もあったもんだ。
まあ、その日の仕事はたいていズタボロだったけど。
そんな時も良く昼休みに寝てたなあ。
朝食は少なめにしてコーヒーを多く飲む。
カフェインパワーで午前の作業時間は何とか乗り切り、昼食も早々に済ませると俺は中庭の隅で昼寝に入った。
運動をしている囚人たちの声が丁度良い子守唄になる。
陽気も良いしこりゃあ丁度良い昼寝日和だ。
「……よう、ようなあ?頼むよ?助けてくれよ?なあ?起きてくれよ?よう?なあ?」
体をゆすられた俺は睡眠から覚醒する。
「なんだよ、寝かしてくれよ」
「頼むよ!命がかかってんだよ!マジで、お願いだよ!」
男の悲痛な声が俺の頭を更に覚醒させる。
マジで頼みたいのはこっちだってーの。




