チュートリアル終了って素敵やん
ロッタの姿が見えなくなると入って来たトビラが開き男がふたり現れると、元居た場所まで案内してくれた。
「ふぅ~、しっかしさすがは冒険者だな。魔法なしであれだけ戦えるとは」
マードックが額の汗をぬぐいながら言う。
「まあ、な」
本当は魔法を使ったんだけど、それは言わないでおく。
言うとまたこいつはろくでもない事に俺を巻き込むに決まってるからな。
「いやあ~、そんなに強いんじゃここで頭張れんじゃないか?その気があるんなら協力するぞ?」
「興味ないよ。つーか、もうこれですべて済んだんだよな?」
強欲そうな顔で見るマードックに俺は強めに念を押す。
「正確には全てが済んだわけじゃあないが、一番の難所は通過したって感じかな?」
マードックは頭の後ろで手を組んで気楽な調子で答えた。
「え?おい。ちょっと待ってくれよ。全てじゃないってどういう事だよ?」
あまりの緊迫感の無さに俺はちょっとムカついて強めの口調でマードックに尋ねた。
「だから言ってるだろ、一番ヤバいとこは無事通過できたんだって」
「だから、まだヤバい事が残ってるって事かよ?」
「何言ってんだよ?ここがどこだか忘れたのか?」
マードックは立ち止まると周囲を見渡してそう言った。
周囲ではあちこちで囚人たちがたむろしているが、よく見ると囲まれてボコられてる奴も見受けられる。
ここは刑務所だったんだ、俺は改めて実感した。
「そうか、確かにそうだ。俺の認識がぬるかった。ここまでやってもらった事に感謝するぜ」
ここは普通の場所じゃないんだ。右も左もわからない俺にここまでつき合ってくれたマードックに感謝こそすれ、責める筋合いはないんだ。
まったく俺としたことが、みっともない事をしちまったぜ。
「わかってくれりゃあいいんだよ。お前さんにはたっぷり稼がせて貰ったからな、こっちだってそう簡単には見捨てやしないよ」
「簡単には、ね」
「またそうやって揚げ足取りする~」
俺の肩をポンポンと叩き歩き出すマードック。
「ところで今は何の時間なんだ?みんな自由にしてるけど?」
「食後の自由時間、昼休みってやつだな。食休みに庭で寝るも良し、暇つぶしに図書館行くも良し、娯楽室に行くも良しなんだが、新人が舐められないようにするにはトレーニングルームだな」
マードックが言う。
前世でも聞いた事があるな。海外の刑務所なんかだと自分が殺されないためにも肉体の強化は欠かせないんだとかなんとか。
ううむ、思ってる以上にここはタフな場所のようだ。
「じゃあ、そこに行くかな。マードックはどうするんだ?」
「俺はあそこにいる連中とはちょいと馬が合わなくてな、読書と洒落込むよ。まあ説明しなくてもわかるとは思うが一応言っておくと、昼休みの終わりはサイレンが鳴るからな、そうしたら飯前に行った作業場に行くんだ。看守が指示をするから、それに従ってれば大丈夫さ。じゃあな」
軽く手を振り去って行くマードック。
頼りになるんだかなんなんだか判断が難しい男だぜ。
チュートリアルは終ったって訳か。
とりあえず、トレーニングルームに行くか。
俺は掲示されている案内板に従って向かう。
「おう、お前、新入りだな?」
角を曲がった所で急に三人組に声をかけられる。
「ええ、そうですけど」
「随分派手に稼いだみたいだな?だいぶ懐がだぶついてるんじゃないのか?ん?」
男が言い他のふたりがニヤニヤと笑う。
カツアゲかよ。
ここは素直に渡した方が良いのか?
だけど、特に理由もなく渡すと舐められてたかられ癖がついちまうか。
判断が難しいところだな。
躊躇しているとポケットの違和感に改めて気づいた。
ああ、そうだ、マードックに言われてタバコを仕込んで来たんだった。
食堂や地下でのドタバタでかなりクシャクシャになっちまったろうな。
あ!そうだ!このクシャクシャタバコをやるくらいがちょうど良いんじゃないか?
そうだ!そうしよう!
俺はポケットからタバコをひと箱出す。
案の定、クシャクシャになっちまってる。
俺はそこから曲がったタバコを六本出して二本ずつ男達に配った。
「これっぽちかよ?儲けてる割にはセコイんじゃないか?」
男は冷たい口調で言う。
はぁ、足りないってか。
ったく、マードックの野郎が派手にやり過ぎたんじゃないのか?
ここでぼやいても仕方ないか。
これ以上下手に出るのは得策ではあるまい。
「しっかり受け取っておいて何言ってんだよ。だったらどうすんだよ?揉めるのかタバコ持って帰るか、どっちがいいんだ?ん?」
俺は男を睨む。
「おいおい、別に俺たちゃあ事を荒立てるつもりはねーんだよ。これで十分だ、さあ、行っていいぞ」
少し凄んだら怯んだのか男は素直に道を譲った。
そりゃそうだろ、こっちは押し相撲とミャンマーラウェイモドキで強者を下してんだ。そんな奴にたかりをかけようって度胸は認めるけど、よく考えてみろってんだよな。
「んじゃ、ども」
俺は短く答えて先に進む。
まったく、どこにもアホは居るもんだな。
なんて思ってたが、これがアホが多い事多い事。
トレーニングルームに到着するまでに同じような奴らが三組も現れたよ。
三組とも、同じようにあしらったら大人しく立ち去ったけど、持って来たタバコは使い果たしてしまった。
ひとりひとりには少ししか渡してないが、一組の人数がそこそこ多かったのだ。
トレーニングルームはすぐ先だし、もうタバコはいらないだろう。
たかられそうになったら素直にもうないと答えれば良いだろう。
俺はそう思いながらトレーニングルームのトビラを開ける。
「うっ!うっ!うっ!」
「おうっ!おうっ!」
「フッフッフッフッ!」
筋骨隆々の男達が汗だくになり気合の入った声を上げトレーニング励んでいた。
ううむ、場違いにも程があるな俺。




