お客さんを楽しませるって素敵やん
バンボロと呼ばれた男は興奮するゴリラのように落ち着きなく動き、歯を剥き、筋肉を見せつけた。
あんまりにもヒートするのでこのままひっくり返っちまわないか心配して見ていたが、結局、倒れる事もなく元気いっぱいのままであった。
「両者、中央に!」
顔の大きな男が俺とバンボロを近くに呼びよせた。
やだな、こいつに近寄るの。
「ガルルルルルルゥゥゥゥゥ」
喰いつかんばかりの勢いで唸るバンボロ。
もう野人ですやん。
噛みつきは反則だよ?
俺はバンボロを見る。
「お前の喉笛を噛みちぎってやる!食い殺す!食い殺す!」
そう言いながら歯をガチガチと噛み鳴らすバンボロ。
「ちょっと、噛みつきは反則っしょ?」
俺は審判の顔の大きな男に言う。
「闘争心をむき出しにするのは反則じゃあない。君もアピールしたまえ、ほら、みんなが見ているぞ」
顔の大きな男に言われて周囲を見ると囚人と看守が入り混じり手を上げ興奮して叫んでいた。
ううむ、昔見た競輪場のおっさん達みたいだ。
これは審判の言う通り何らかのアピールをせねばエライ事になりそうだ。
「元気ですかーー!!」
興奮していた人達の声がピタッと止む。
マズイ、マズいぞ。これじゃあ思い切り滑ったみたいになるぞ。
「元気があれば何でもできる!!」
俺はたたみかける。
「あいつ何言ってんだ?」
「ふざけてんのか?」
「余裕って事か?」
「ビビり過ぎてんじゃないのか?」
「意味がわかんねー」
囚人たちがざわつく。
ヤバい、滑り過ぎてイカツイ空気になってるぞ。
ここは、観客も巻き込んで盛り上げるっきゃない!
「皆さん、ご一緒に!!いーち!にーい!さーん!ダァァァァァァァァァ!!」
ざわつきも止み場の空気が凍り付く。
「もう、いいか?」
審判の男が冷ややかな目で言う。
「ゴリっと滑ってご苦労さん」
俺は審判の男になんとかそれだけ返した。
もう、消えてなくなりたい。
恥ずかしすぎる。
「それでは気を取り直して…」
審判の男が言う。
ううう、気を取り直さなきゃいけないような状況にしちまったのか俺は。
俺って、つまらない男なのか?
割と面白い寄りの人間だと思っていたのだが、とんだ過大評価だったのだろうか?
なんてこった。
頭の中が白くなり顔が熱くなる。
「…ファイッ!!」
「うおおおおお!!」
目を見開いたバンボロが俺に突進してくる。
「うおおおじゃねーーーっつーーの!!」
バンボロの何の迷いもなさそうなノー天気な顔を見て俺は心底イラっとした。
イラつきを晴らすが如く俺は突進してくるバンボロに胸から体当たりをする。
「うおっ!」
バンボロはよろめき声を上げるが、すぐに態勢を戻し再びこちらに向かって突進してくる。
「うおちゃうわい!」
こちらに走って来るバンボロの股下手を差し込み肩に担ぎ上げ身体をひねりながら地面に叩きつける。
いわゆるパワースラムだ。
「おおおおお!」
「あのバンボロを投げやがった!」
「やるじゃねーかあの新入り!」
「わけわかんねー事、言ってたけどな」
「あれはわけわかんなかった」
クソー!やっぱあのだだ滑りが響いてやがる。
「うおおおお!!!」
立ち上がったバンボロは距離を取った俺に向かって走って来る。
タフな野郎だぜ。
観客共が沸いている。
ここは一発、大技で行くか。
「うおらっ!!」
俺は雄たけびを上げてジャンプすると走って向かってくるバンボロに飛びつき頭部を両足で挟み、自分の身体の回転する勢いに乗せて巻き込むようにぶん投げた。
いわゆるヘッドシザーズホイップだ。
「だっしゃぁーーー!!」
即座に立ち上がった俺は観客に向けて右手を高々と上げる。
「うおーー!!」
「なんじゃありゃーー!」
「見たか!今の!」
「すげーーぜっ!凄すぎるぜ!」
いいねえ~!観客のノリが気持ち良すぎる。
「ブルルルッル!ガオォォォォ!!」
頭を振って立ち上がったバンボロはまたもや俺に向かって突進してくる。
こいつはバケモノか。
「よっしゃぁぁぁ!!」
俺は叫びながらドロップキックをかます。
バンボロは勢いを殺され立ち止まるが倒れずに自分の胸を叩き、効いてねえ!とアピールする。
俺は立ち上がり更にドロップキック。
ふらつくバンボロ。
さらに追い打ちドロップキック。
まだ倒れないバンボロ。
俺は即座に起きて更にドロップキックを喰らわす。
ドロップキックの四連発にさすがのバンボロもひっくり返る。
「シャイ!シャイ!シャイ!シャイ!」
俺は手を打ちならしアピールする。
皆も手を打ち鳴らし始め観客が一体化する。
き、気持ちいいぃ~!
俺は手拍子の中、重ねて積んであるテーブルの上に登る。
「何をする気だ!」
「うおーー!なんか知らんが見せてくれーー!!」
熱い歓声が飛ぶ。
よーーし、見せてやるぜ。
「ダッシャァァァァ!!」
俺は積まれたテーブルの上で観客に手を上げる。
「見せてくれ――!!」
「やれーー!」
「飛ぶのか!」
「飛べ飛べ!!」
大いに沸く観客。
俺はクルリと後ろを向くとバク転の要領で飛び立ち上がりかけたバンボロにアタックする。
いわゆるラ・ケブラーダである。
「シャァァァァ!」
俺は立ち上がり右手を高々と掲げる。
「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」
食堂改め会場が歓声に包まれる。
「おーーっとぉーー!!バンボロ立てるか、立てるか、立て……ない!!バンボロ立てない!!勝者クルース!!」
審判の男が俺に駆け寄り右手を高々と上げる。
「いやあ~、こう言っちゃなんですが大番狂わせでしたねえ~。一言、お願いします」
審判の男が俺に尋ねる。
「え?あ、時は来た、それだけだ」
会場内がシンと静まり返る。
審判の男もキョトンとしている。
まずい、まずいぞ。このままじゃマジでゴリっと滑ってご苦労さんになっちまう。
「あ!バンボロが立つぞ!!」
観客が声を上げる。
バンボロが頭を振りながら立ち上がり、よろよろとこちらに近付いて来る。
審判の男がもう一度、今度はもっとちゃんとした事を、と目で訴えかける。
う、クソ。
「みんな聞いてくれ!本当に強い男ってのはな!勝ち続ける男じゃねーんだ!本当に強い男ってのはなっ!何度倒されても立ち上がる男の事を言うんだっ!!男バンボロに拍手!!!」
俺はそう言って拍手をする。
「おおおおーーー!!」
「バンボロ!男だぜ!!」
「熱い!熱いぜ!!」
「初めてまともな事を言ったぞーー!!」
「うおーー!!」
「「「「バンボロ!バンボロ!」」」」
場内がバンボロコールで沸き返る。
あーー、良かった。
これでなんとかなったっしょ。




