早飯は芸の内って素敵やん
「ふふふふ~~ん、ふふふふ~ん」
「昼食だ!速やかに行動しろ!昼食だ!」
マードックの鼻歌を遮るように看守の声が響き渡る。
「よっしゃーー!やっとだ!腹ペコだぜ!」
マードックが叫ぶように言い二段ベッドの上から飛び降りた。
「ブツは持ったかい?」
「ああ、持った」
「よーし、んじゃ行くか」
ポッケにタバコを詰め込んだ俺は喜び勇んで房を出るマードックに続いた。
飯の時間と言う事で歩いている囚人たちの足取りも軽く見える。
マードックの後にくっついて辿り着いたのはただっぴろい食堂であった。
広い空間に同じ服を着た人間が集められて飯を食う。これには嫌な既視感がある。
中学校時代の給食を思い出す。
俺が居た中学校は男子は坊主、女子は肩に髪がかからないくらいと規則が定められていた。学校内での生活はジャージ、靴下の色は白と言う具合に規則でぎゅうぎゅうに締め付けるやり方は俺が子供の頃にはよく見られたのだ。戦前、戦中生まれが力を持っていた時代であり軍隊式のやり方がまだ色濃く残っていたりしたのだ。そのせいなのかなんなのか、校内暴力ブームが巻き起こった時代でもある。まったく変なものが流行った時代である。
中学時代の給食の時間がまさにこんな感じだった。
「肉肉!肉多めで頼むぜ!」
「それなりのものを寄こせよ」
「うわっ、キャベツじゃねーか!俺、嫌いなんだよ!」
「子供かよ!」
いや、よく見りゃこっちの方が雰囲気明るいわ。
まったく、あの給食はなんだったんだ?
「ほれ!早く並ぶぞ!」
思わず昔を思い出していた俺をマードックがつつく。
「お、おう」
どうやらここは並んでいる料理を選んで給仕さんによそって貰うスタイルのようだ。
給仕も囚人がやっているようでエプロンの下は囚人服である。
「ほら、例の奴」
給仕さんの前に立つとマードックがそう言って俺をつついた。
「え?あ、そっか」
さすがにここまでくれば鈍い俺でも察しが付くぞ。つまり、持って来たタバコを給仕さんに渡せってんだな?
でも、箱ごとやればいいのか?それともバラなのか?
俺はポッケからタバコの箱を出してチラリとマードックを見る。
マードックは剥け剥けとジェスチャーで教えてくれる。
俺はタバコの箱を剥くとマードックは指を三本立てて見せた。
そうか、ひとり三本か。
俺は三人いる給仕にタバコを三本ずつ渡した。
マードックを見るとうんうんと満足そうに頷いている。
煙草を受け取った給仕は皆タバコのにおいをかいで満足そうな顔をすると両耳に一本ずつ挟み、残りの一本はエプロンのポッケに入れた。三人ともが同じ行動をするので思わず笑ってしまう。
「よーし、どれを入れるか指定してくれ」
「あ、じゃ、これとこれ、お願いします」
にっこり笑った給仕に言われて俺は適当に料理を指定する。
「ひひひ、しっかり食えよ」
たっぷりとよそってくれた給仕は意味ありげな笑みを浮かべた。
なんか不気味なんですけど?
「こっちこっち」
すでに料理を選び終え席に着いるマードックがこっちを向いて手を振る。
俺は囚人たちの間を抜けてマードックの隣りに座る。
「座る場所も決まってるからよ、やたらなとこに座るなよ?」
「ああ、わかった」
「すぐに始まるから早く食っちゃえよ」
マードックはそう言って飯をかっこむ。
「なにが始まるんだ?」
急いで飯をかきこみながら俺は聞く。
こいつはいい奴なんだけど、説明が足りないんだよなー。
「何ってお前、今までの流れで察しはつくだろーよ」
「またかよ。種目は?」
「なーに、たいしたことはねーさ」
だからお前は説明が足りないんだって。
とにかく俺は飯に集中する。
飯を食うのは昔から早いんだよ俺は。
飯を食い終えた俺とマードックは食器を下げる。
同じように食器を下げた囚人たちがテキパキとテーブルを移動させる。
なんだ?掃除でも始めるのか?
「ああ、デグンだ。クルースちゃんの得意な奴だ。良かったなあ」
テーブルを片付ける囚人たちを見てマードックが笑う。
「デグン?なんだそりゃ?」
「今日の試合内容さ。ほら、見てみ?地面を念入りに拭いてるだろ?んでもってバンテージが用意されてるとくりゃデグンしかねえ」
「だから、そのデグンってなんなんだよって」
俺は少しイライラしながら聞く。念入りに地面を拭く?バンテージ?これでいったいなにを予想しろと?
「ルールは単純、手にはバンテージを巻き片方が意識を失うか負けを認めるまで試合をする。金的、噛みつき、倒れた相手への攻撃、髪を引っ張る、首を絞める、唾を吐きかける以外は何をしても良い。これがデグンよ」
なぜかマードックが自慢げに言う。
「結局、殴り合いかよ」
俺はトホホな気分になる。
結局、今までで一番バイオレンスじゃねーかよ。
「得意だろ?クルースちゃん」
「得意じゃねーよ」
「何言ってんだよ冒険者。あ、先に行っとくけど魔法は使えても使うなよ?それやっちまうと今までのも疑われちまうからな」
「身体強化を外せってのかよ?」
「いや、それはいいけど他のはやめとけよ?ファイアボールとかさ」
「ああ、そういう事かよ。素手相手にそんな事はしないよ」
「あいつを見てもそんな事言えるかな?」
マードックが指さす。
「うおーっ!!うおっ!うおっ!うおっ!!うおーーっ!!」
二メートルはありそうな髭モジャマッチョが、雄たけびを上げながら食堂中央に作られた空間を行ったり来たりしているのが目に入る。
「あれとやるの?」
あの人、完全に目がいっちゃってるんですけど?
なんかオデコが傷だらけでブヨブヨしちゃってるし。
「大丈夫大丈夫、かるーくひねってきな」
俺の背中をグイグイ押すマードック。
あれよあれよという間に人に囲まれ手にバンテージが巻かれる。
「さあ、皆さん!お待たせいたしました!お待たせしすぎたかもしれません!」
テーブルをかたずけて作られたリング中央に出て来た顔の大きな油っこい男が調子の良い口上を述べる。
「入って早々二連勝を決める期待の新人、トモーーーー!!クルゥゥゥゥゥゥゥゥスゥゥゥゥゥゥ!!」
いきなり名前を呼ばれた俺は、何だかわからないがとりあえず手を上げて集まったみんなに手を上げる。
やはりと言うか何と言うか看守も一緒に賭けに興じているのが目に入る。
どうなってんだよ、この監獄は。
「対するは、現在二十七連勝中!無敵のデグンキング!ブルータルゥゥゥゥゥゥゥ!バンボーーーーロォォォォォォォ!!」
「ガァァァァァァァァ!!!!グオォォォォォオ!!ガルルルルルル!!」
ガンギマリの目で歯を剥くバンボロ。
大丈夫なの彼?
このまま頭の血管切れてぶっ倒れたりしない?




