教えて先輩って素敵やん
マードックの言う通り、作業は簡単なものであった。アイスの棒みたいな金属片を四角いスポンジの切れ込みに差し込むだけの作業だった。
いったい何を作らされるのか疑問に思い、マードックに小声で聞いたが答えは俺もわからねえだった。
作業はつつがなく終わり房に戻る。
「よしよしよしよし、クルース選手ぅ~。君は最高だよ~」
房に戻ったマードックはポケットから出した札束に口づけをしながらそう言った。
腕相撲の時よりも札の領が多いな、つーか選手ってなに?
「ん?なんだよ?分け前が欲しいのか?」
「いや、そうじゃなくてさ。お前、なんで俺の事を信じたんだ?」
札を隠すようにして言うマードックに俺は尋ねた。
「冤罪の事か?まあ、こんなとこに来るタイプには見えねえからなあ」
マードックは銭の話にならなくてホッとしたのか表情を緩める。
「いや、それもあるけど賭けの事だよ俺が聞きたいのは」
「ああ、そっちね」
マードックはそう言うと札の束を幾つかに分けて丸め靴下に挟んだ。
「俺の出身はさメイヤー王国なのさ。知ってるかメイヤー王国」
「ああ、聞いた事はある」
授業で習った程度の知識だがバッグゼッドの北に隣接した小国で、湖と森の国とも呼ばれる自然豊かな国だ。
「だったらわかるだろ?」
マードックは意味ありげな笑みを浮かべ俺を見た。
「いや、わからないが」
俺は答える。本当にわからないぞ?メイヤー王国の特徴ってなんだったっけ?主要な産業は木材関係でメイヤー産の家具は有名。後は、風光明媚で比較的治安が良い事から観光産業が発展していることくらいか。
なんにしても、俺が持ってる知識ではわからないよ。
「こう言っちゃなんだがさ、お前さんはバッグゼッド人じゃあないだろ?」
「まあ、そうだが」
「やっぱりね、なんとなくわかるんだよ。俺もそうだからさ、臭いってのかね?まあ、なんにしてもお前さんはバッグゼッド人じゃあない。って事はもしかしてメイヤー王国と同じく、バッグゼッド程に魔導学が進んでない国の出身じゃあないのかと睨んだわけよ。メイヤーもそうだけど、魔導学が進んでない国じゃあ術式とか術式具に頼らない生活をしてるだろ?そんな国だとたまにいるんだよな、体内魔力の貯蔵量が半端ない奴って。この場所は魔力疎外がかかってるから新たに魔力を吸収する事は出来ない。入って来る時に所長室に行かされるだろ?あそこの床が体内魔力を散らす素材でできてるんだよ。この素材は高価だからやたらには使えないんだが、臆病な所長は自分の部屋だけに使ってやがんのよ。まあ、それはいいんだが、とにかくだ。それだけやればほとんどの奴は魔術なんか使えなくなる。ところがさっきも言ったように術式文化の無い国の奴の中にゃあ体内魔力の貯蔵量が半端ない奴ってのはいてさ。更に熟練冒険者の中には身体強化時の魔力消費量を抑えて常時発動させてる奴もいる。そう、お前さんがまさにそれってわけさ」
ズバリ!と俺を指差すマードック。
なんか犯人はお前だと言われてるみたいでケツの座りが悪い。
「ふふふ。だが、どんなに魔力貯蔵量が多くても、どんなに身体強化に使う魔力量が少なくても限界はある。なんせ新たに吸収できないんだからな。だから、そいつが切れないうちに勝負に出るのが肝なわけだ。で、いつ出るのか?今日だろ!ってわけよー」
マードックはパチンと手を打ちドヤ顔でそう言った。
「お、おう。凄いなお前」
「だろー?まあ、こんなもんよ」
「でもよ、そんなのいずれバレんじゃないの?ジャーグル系もいる訳だし」
「ジャーグル王国はバッグゼッドとの付き合いが古いからな、ああ見えて結構進んでんのよ。こないだの戦争でも術式具投入してきただろ?まあ、今後はどうなるかわからないけどな。メイヤーは隣接しててもそこまで国交が盛んじゃなかったんだよ、保守的な国だしな。だが、まあ、バレる事はあるかもな」
「おいおい、それじゃあヤベーだろーが」
「だから、そのために顔役に話を通したんじゃないか。偉いさんが得するならインチキも許される、外と同じさ」
ううむ、なるほどな。
確かにそう言われれば、その通りだ。
これは納得せざるを得ない。
「ふう、わかった。理解したよ、とにかく俺はマードックに助けられたって訳だな」
「おっと、安心するにはまだ早い。顔役はもうひとりいるからな」
「ああ、そうだよ。どうすんだよ?」
「それも考えがある。お前さん、差し入れの件はどうなった?」
「一応頼んどいたけど」
「だったら、看守に聞いた方が良いな。到着しても教えてくれない事もあるからな。着いてるのに取りいかないと看守が持って帰っちまう事があるから早いとこ聞いた方がいいな。おーーい!」
マードックはそう言うと看守を呼んでくれる。
聞いて見ると既に差し入れは到着していると言う。
「ほらな?早いとこ取り行きな。看守さんよろしく頼むよ」
マードックに言われた看守は頷くと房の鍵を開けてくれる。
「あ、看守さんに忘れんなよ?」
房を出ようとする俺にマードックは言う。
俺は何の事かわからずキョトンとしてしまう。
「にぶいなあ、差し入れの一部をそちらの親切な看守さんに差し上げるのを忘れるなと言ってんだよ」
「あ、ああ。なるほど理解しました。鈍くてスマン」
「まあ、いいや。看守さんよろしくお願いしまーす」
なにからなにまでマードックに頼ってばっかりだな俺は。ま、こういう所の流儀なんてまったくわからないからな。今回はスプレーンの時と違ってマードックにも利益になってるから、裏切られる心配はないと思うけども、あくまでも利益による繋がりだからそこは気をつけないとな。
つまり、俺を害する方が利益になればそっちに行っても不思議じゃないって事だ。
だが逆に考えれば、こちらの味方になった方が利益になると思わせておけば裏切らないとも言える訳だ。
そこらへんの匙加減を間違えないようにせねばならないな。
「これが差し入れだ」
案内してくれた看守さんが俺に示したのは木の箱だった。
「え?これ全部ですか?」
「ああ、そうだ」
看守はそっけなく言いながらも目線は木箱の中身に釘付けであった。
俺は木箱の中身を見る。
そこには箱に入った菓子とタバコのカートンがぎっしり詰まっていた。
いくらなんでもこれはやり過ぎでしょキーケちゃん。
「あ、えーと。どれでもお好きなものをどうぞ」
「すまんな、それじゃひとつずついいか?」
「あ、はい。ではどうぞ」
俺はタバコのカートンと菓子の箱をひとつずつ看守に手渡した。
「あのなあ、気持ちはありがたいがこれじゃあ持って歩けないだろ?」
看守は頬を緩ませてポケットをパンパンと叩いた。
「あ、すいません鈍くって。それじゃ、入るだけどうぞ」
俺はそう言ってカートンの包みと菓子箱を開けた。
「すまんな。お?こいつはケイトモの新作ウーピーパイじゃないか。お前、金持ちのオジサンでもいるのか?」
看守は個包装された菓子をポケットに詰めてホクホク顔で言った。
俺はいやまあ、とかなんとか誤魔化す。
看守は余程嬉しかったのか、房に帰る間何度も何度も何かあったら俺に言えよと念を押した。
俺ははい、よろしくお願いしますとハッキリ返したのだった。
「ただいまっと」
「お!なんだよそれ?」
帰って来た俺の持つ箱を見てマードックは嬉しそうに声を上げた。
「いやいや、結構沢山差し入れてくれてさあ。どうしよ?これ?」
俺は箱を置いてマードックに尋ねる。
「どうしようってお前、お?おおお?お前、これ、ケイトモの新作ウーピーパイじゃねーか!こりゃあ、ひと財産だぞ?」
「ひと財産って大袈裟な。好きなだけ持ってきなよ。タバコも俺吸わないし、良ければどーぞ」
「バカ!お前はまったくここでの生活をわかってないな!そんな調子じゃケツの毛までむしられちまうぞ!」
マードックは眉をしかめて怒った。
「あ、ああ。ごめん、気を付けるよ。じゃあ、こっちに来てからずいぶん助けられたし、これからも助けて貰いたいからその対価として受け取ってくれ」
俺はそう言ってタバコのカートンひとつと菓子箱二つを手渡した。
「うっ、飲み込み速いねどうも。そう言う事ならありがたく貰うけどもさ。くれぐれも言っとくけど、ただで人に物をやろうとするなよ?そんな奴はここじゃあ何か企んでる野郎か、モノホンのバカかどっちかだ。モノホンのバカはここじゃあ喰い尽くされるだけだし、何かを企んでるのが丸わかりなのもここじゃあ結局良いカモだからな」
マードックは菓子箱を自分のベッドへ投げると、タバコのカートンを破り二箱だけポッケに突っ込み残りをまたベッドに上げた。
「さてと、クルースちゃんもタバコを幾らかポッケに入れて、残りは机の下に入れときな。基本、鍵かけられてるから盗まれる事はないんだけどよ、あからさまに見えるところに大金置いてると無茶する奴もいるからよ」
「無茶って?」
「懲罰覚悟で強引な手段に出るって事さ」
「なるほど、ね」
前世でも車を停めておく時、見える所に貴重品は置くなと言われていたもんだ。それと同じような事か。
ここ特有のルールもあるけど外と共通の事もある。
面白がってる場合じゃないのはわかってるけど、聞けば聞くほど興味深いな。
「早く飯の時間になんないかなーっと」
マードックは能天気な顔をして二段ベッドの上に行き何やらごそごそとやっている。
今日の儲けを数えて保管してるんだろう。
俺は言われた通りにタバコを幾らかポッケに入れて残りを机の下に入れる。
房の中にはマードックの調子っぱずれな鼻歌が響くのであった。




