監獄へようこそって素敵やん
逃げるように自分達の房に戻った俺とマードック。
「ふぅ、汗かいたぜ」
「これで、もう大丈夫なのか?」
「いや、まだ全員に挨拶が済んでないだろ?」
ニヤニヤしながら金勘定をするマードック。
「ああ、三大勢力の残りふたつか」
「そうそう」
「今日の勝ち金でなんとかならんか?」
俺は鼻の下を伸ばして金を数えるマードックに言う。
「いや、そんな事をしなくても考えがあるんだ。俺に任せとけって、にっしっしっしっし」
「クルース、面会だ」
マードックの意味ありげな笑いに被せるように看守がやって来て言う。
「お?やっとか。タバコか甘いもの頼んどけよ?ここじゃそれが金代わりだからよ」
マードックが俺の肩を叩く。
「お、おう」
「早く来い」
看守が強い口調で言う。
「忘れるなよ?タバコか甘いものだぞ」
房を出る俺の後ろにマードックが声をかける。
俺は了承したと手を上げる。
看守の案内でやってきた面会室、分厚いガラスの仕切りの向こうにいたのはキーケちゃんだった
「元気そうではないか、ん?」
ガラス越しに笑うキーケちゃん。
「まあ、なんとかね。そっちはどう?」
「シエンの奴がごねて大変だったがアルスがなだめとる」
キーケちゃんが笑う。
「うわっ、迷惑かけるね」
「まったくだ。おぬし、直前までスプレーンと一緒におったそうだな。ちと、油断が過ぎたのう」
「ごもっともです。面目ない」
俺は頭を下げた。
「まあ、過ぎた事は良い。こっちはこっちで色々と動いておるが、ちいとばかり面倒な事になっておるようだな。ぬしに面会に来てスプレーンがぞんざいに追い返した者の中に地域執政官がおったようでな。そやつが今回の件を大事にしておるようだ」
「地域執政官?」
「知らなんだか。感心がないのはわかるが、も少し興味を持った方が良いぞ?今回のような事にならんためにもな」
「すんませんす」
「まあ、良い。地域執政官というのは複数の領をまたいだ地域においての行政の最高指導者だ。見ておった者から聞いたが、スプレーンの奴めは特に侮辱的な態度をとっておったそうな」
「マジっすか」
思い当たるフシはある。ちょっと失礼だなと感じてはいたが、任せちゃってる手前もあってフォローを入れるような事はしなかったが、よくよく考えてみれば俺がちょっと失礼かと思うレベルって権力者にとってはかなり侮辱的に感じるレベルなんだろうな。
そこに思いが至らなかった俺の落ち度だ。
「まあ、そう落ち込むな。こっちだってある程度の人脈はある、少し時間はかかりそうだが必ず外に出してやる」
「俺に出来る事ってある?」
「中で問題を起こさず過ごす事だな。なんにせよぬしはいらぬ心配はせんで良い、ここのところ働き過ぎだったから丁度良い骨休めと思って養生せい」
「うう、わかったよ」
牢屋で養生とはなあ、とほほでやんす。
「なにか入用なものはあるか?」
「あ、そうだ。この中じゃタバコと甘いものが通貨代わりだって言うからそれをお願い」
「ふむ、わかった。また来るから、心配せずに大人しく過ごしておれ」
「面倒掛けるね」
席を立つキーケちゃんに俺は頭を下げた。
「かっかっか、そんなぬしもカワイイぞ」
笑って退出するキーケちゃんを俺は頭を下げたまま見送るのだった。
「どうだったよ?」
房に戻った俺に二段ベッドの上から声をかけるマードック。
「ああ、差し入れの件は伝えておいたよ」
「おう、そりゃ良かった。んで、冤罪の件は?」
マードックがこちらに降りながら問う。
「あんまり良くないね。どうも、随分偉い人の機嫌を損ねちゃったみたいでさ。今日、面会に来てくれた人も人脈広い人なんだけど、それでもちょいと時間がかかりそうだって言ってたよ」
「そうか、良かったじゃないか」
「どこがよ?」
俺は口を尖らせる。
「だって、時間はかかるけど勝算はあるって事だろ?だったら良かったじゃないか、な?」
マードックは俺の肩を慰めるようにポンポンと叩く。
「まあ、そうだけども」
「そう不貞腐れるなよ。まずは出られるようになるまで生き抜く事を目的に頑張れよ、な?」
「作業の時間だ!」
マードックの言葉に続くように外で看守が大きな声を出した。
「ほれ、早速きたぞ」
「何がだよ?」
「サバイバルの時間さ」
マードックがいたずらっ子のような目で俺に言う。
「サバイバル、か」
房の外に出るマードックに続きながら俺はすっかり気が重くなる。
人生ってのはどこに落とし穴があるかわからない、と言ってたのは誰だったか。今はその意味が身に染みて理解できるよ。
まさか自分が。
ここに来て何度も何度も脳裏によぎった言葉だ。
「まあ、そんなに不安そうな顔をすんなって。このマードック様に任せときなって」
「ああ、頼むよマジで」
同房がこいつで助かったよ。
頼りにしてるぞマードック。
俺はマードックについて歩き作業場に向かった。
「奥で看守と笑っているのがロンド・バザだ」
圧倒的な筋肉で周囲を威圧するような大男が作業場の奥で看守と談笑している。
短く刈った頭のサイドには民族紋様のようなタトゥーがビッシリ入っている。
バザの周囲にはこれまたイカツイ連中が立っている。
彼らがジャガーンギャングか。
バザと話していた看守が入って来た俺を見て指差した。
嫌な予感がする。
バザは部下に顎で指示を出す。
「クルースだな?ちょっと顔貸せ」
こちらにやって来たジャガーンギャングの男は怖い顔でそう言った。
「へいへい、今行きますです、はい」
「どうもどうも、すぐ行きますです」
マードックがもみ手をして言うので俺も従って低姿勢で行く。
「お前が新入りか。ラヒコーをぶちのめしたって?見たかったぜー!ガッハハハハ!」
バザはそう言って豪快に笑った。腕相撲の相手、ラヒコーって言うのか。今度会ったら謝らんといかんな。
「同じ房なもんで自分が面倒見てるんすけどね、こいつ、ちょっとここでのルールについて疎くてですね」
「おう。何も持たずに来たってんだろ?知ってるよ」
「さすが親分さんだ、耳が早いや」
マードックは派手に驚いて言う。
「まあな、それで、お前がついて来たって事は何か考えがあるって事だろ?言ってみな」
バザはぶっとい腕を組みながらそう言った。
「へへへ、こいつにスラップをやらせようかと思いまして」
「スラップか…勝てるんだろうな?」
「それはもう。今回やれば次からはオッズが渋くなるでしょうから今回がラストチャンスですよ」
「…よし、わかった。その話、乗った」
「絶対損はさせませんです、はい」
マードックはそう言ってズルそうな笑みを浮かべた。
「損をさせたらお前とそいつの頭の皮を貰うからな、しっかりやれよ」
「わかってまさぁ」
怖い顔でニヤリと笑うバザにそう返すマードック。
おいおい、大丈夫なのか?
んでもってスラップってなに?
なんかもう流れに身を任せっぱなしなんですけど?




