新入り歓迎会って素敵やん
サイレンの後には看守兵が順番に房を回りロックを解除していく。
俺たちの房もロックが解除され外に出ろと促される。
チラリとマードックを見ると行け行けと顎を動かしているので外に出る。
「みんなの後について行けばいいから」
マードックに言われて俺は囚人たちの後に続き運動場に出る。
運動場は高い壁と金網に囲まれ、二か所の見張り台には石弓を持った兵がふたりずついる。
ここから脱走なんてまず不可能だな。
囚人たちはボールを使ったゲームに興じていたり、何かチェスのようなボードゲームをしたり、筋トレをしたり、たむろって話をしたり、タバコを吸ってるやつもいるなど、かなり自由度が高そうだった。
「お、キャッスルがいるぞ。初っ端から最大勢力の大将がいるなんて、あんた、ついてるな」
後ろから小さな声で言うマードック。
「んじゃ、行くぞ」
「頼むわ」
俺の肩をポンと叩いて歩くマードックに俺は言う。
マードックが歩くその先に見えるのはベンチに腰掛けた小柄な男だ。
小柄な男は取り巻きに囲まれ腕組みをしてこちらを見ている。
「へへへ、どーもっす。新入り連れてきました」
マードックがもみ手をする勢いでヘコヘコしながら小柄な男に言う。
「クルースです。よろしくお願いします」
俺は小柄な男に頭を下げた。
「おう、俺はキャッスル。俺がどういう男は知ってるな?」
キャッスルは腕組みをしたままゆっくりとそう言った。
「はい、存じ上げております」
俺はあくまで下手に出る。
「良い心がけだ。それじゃあ、わかってるな?」
キャッスルがじろりと俺を見る。
なんだ?何がわかってるな、なんだ?
「ああ、すいません。こいつ、何も持たずに落とされちまったみたいなんですよ。でも、その代わりと言っちゃなんですけど、キャッスルさんに一儲けしてもらう算段は出来てますんで、はい」
マードックが今度は本当にもみ手をして言う。
「どういう事なのかな?」
「ええ、こいつこう見えて元冒険者でしてね。腕っぷしにゃあかなりの自信があるという事でして、私もそれを聞いて両手で挑んでみたんですけど軽くいなされまして、はい」
「ふうん、おい」
マードックの話を聞いたキャッスルは目を細め後ろに立っていたガチムチ男に顎をしゃくった。
ガチムチ男はう頷くと傍にやって来て俺の腕や身体を所持品検査でもするように丹念に調べた。
俺は黙ってされるがままにする。
ガチムチ男の気配が急に張り詰めので、俺は咄嗟に腹に力を込めた。
ガチムチ男がいきなり俺の腹を殴った。
「お、おい」
マードックが慌ててガチムチ男を制止しようとするので俺は大丈夫だと手を出す。
「かなり使えます」
ガチムチ男はキャッスルにそう言うと元の位置に戻った。
「ほう、ヒーリングがそこまで言うとはな。ふふ、わかった」
「ありがとうございます!」
鷹揚に言うキャッスルに一礼をして下がるマードック。
「何?もういいのか?」
「ああ。後はお前が頑張る番だぞ」
マードックは俺の肩をポンと叩き運動場の真ん中に連れて行く。
運動場の真ん中には大きな樽が立てられており、二の腕が俺の胴くらいありそうなマッチョ男が大勢の男に囲まれて身体をパチパチと触られていた。
「ぐおーー!俺は最強!俺は魔獣だ!うおーー!今日の得物は誰だ!食い足りねえ!食い足りねえぞー!」
マッチョ男は両手を突き上げ獣のように吠えていた。
「新入りを連れて来たぜ」
マードックはそう言って俺を樽の横に立たせた。
「うおーー!殺してやる!殺してやる!」
マッチョ男が俺に喰いつかん勢いで吠える。おいおい、こいつと腕相撲しろってのか?喰いつかないか?
「よし!新入りがやってきたぜ!それじゃあ恒例の行ってみよう!!」
樽の傍に立っていたひょろっとした男がそう言うと集まった囚人たちが一斉に指笛を慣らしたり、足を踏み鳴らしたりして盛り上がった。
「今日のオッズはどうだ!おっと!三十五対二だーー!!新入り絶望かーー!さーー!!張った張った!!」
ひょろっとした男は手渡された紙を見て叫ぶ。
なんだ?賭けてんのか?看守に見つかったらマズいんじゃないのか?
そう思って見てみれば看守もしっかりこの賭けに参加していた。
おいおいおいおい。
どうなってんだ、ここは。
「頼むぜ相棒。俺もブッコんだんだからな」
マードックが耳元で言う。
「やれるだけやってみるけども」
「勝たなきゃマズい事になる。俺もお前も。だから死ぬ気でやってくれよ」
マードックはそう言ってキャッスルの方を見た。
そうか、キャッスルも俺に賭けてるわけか。
こりゃ負けるわけにはいかねえぞ。
「ぷっ!ぷっ!さあ!来やがれ!!」
マッチョ男は両手の平に唾を吐きかけ威勢の良い声を上げる。
やだなあ、汚いなあ。
「さあ!セット!」
ひょろッとした男に手を持たれマッチョと手を組まされる。
ツバが気になるなあ、もう。
「レディ、ゴー!」
ひょろっとした男の掛け声で腕相撲が始まる。
俺は一気に力を込める。
「ぐああああ!!」
マッチョ男がキレイに横転して吹っ飛んだ。
「あれ?」
拍子抜けした俺は思わず声が出ちまう。
「おーーーーっと!!なんたる番狂わせえええ!!勝者ぁぁぁぁぁ!!しーーんいーーーりーーー!!」
ひょろっとした男は巻き舌で叫ぶと俺の手を取り高く掲げた。
「マジかよ!」
「いいぞ!あんちゃん!」
「やってくれたな!」
「クソっ!!
「嘘だろ!!」
「どうなってやがんだ!」
「この野郎!!」
集まった囚人たちがごうごうと沸く。
怒りに任せて大声を出す奴、喜んで飛び跳ねる奴、がっくりと項垂れる奴、色んな奴がいるがどうも損をしたやつが多いみたいで全体的に殺気立って来た。
おいおい、看守さんよう?なんとかしてくれよ?
そう思って助けを求めるように看守を見るが一部看守も妙に殺気立った目で俺を見ているのが目に入る。
「おい、さっさと戻るぞ」
肩をトントンと叩いて言うのはマードックだった。
そそくさと逃げるように去って行くマードックの後に俺は続く。
「いや、もうちょっとやり方考えないとまずいって」
速足で歩きながらマードックは言う。
「やり方って?」
「いや、同じ勝つにしたってもっと接戦に見せないと。フィックスだって言う奴が出たら大変だろ?」
「フィックス?」
「不正だよ不正」
八百長か。確かにあんなマッチョが派手にぶっ飛ぶなんて出来レースと思われても不思議はないよな。俺だってビックリしたもん。
「スマン、力の加減が上手く行かなくって」
「まあ、相手がフィックスじゃねえって証言するだろうからいいんだけど、ヤツが目を覚ます前に騒ぎになったら手に負えないからな。早いとこ退散した方が良いさ」
「悪いな色々と」
俺はマードックに謝った。俺のせいでこいつも危ない所だったんだもんな。
危ない橋を渡って俺の事を助けて、俺が勝つと信じてくれたんだもんな。
「この借りはいつか必ず返すから」
「ああ、それならもう返して貰ったから大丈夫さ」
そう言ってマードックはポケットから札の束を出して見せた。そういやこいつ、俺もブッコんだとか言ってたっけ。まったく、たいした男だぜ。




