その場所のしきたりって素敵やん
「それじゃあ、どこの組織に属してんだ?デカイとこか?」
同房の男は腕を組みベッドに腰を掛けると俺をねめつける。この男、一見人懐っこそうな顔をしてるが、やはりどこか目に隠し切れない険がある。なんだかんだ言っても、こいつも囚人なんだ。
俺は少し警戒する。
「いや、どこにも」
「じゃあ、外に頼れる金持ちの仲間は?」
「いないけど」
「まったく、どうかしてるぜ。お前、このままじゃ今日中に殺されるぜ?」
同房の男は肩をすくめた。
「なあ、俺は今の状況が良く理解できないんだよ…」
俺は男にここに入った経緯をザックリ説明した。
自分はファルブリング学生で今回の罪状はまったくの濡れ衣である事、ハメられたことは確実で外にいる友人はきっと心配して真相を究明すべく動いてくれるであろう事、そんな事を俺は男に説明した。
「……まったく身に覚えのない事で、ここに来るのもなんの説明もされなかったんだよ。腰が低くて感じの良い衛兵さんから、書類にサインすれば詰め所を出られると聞いてサインしたらここに
連れてこられたんだよ、もう何がなんだか」
「ああ、そいつは詰め所の衛兵が良く使う手だな。本当の事を伝えて暴れられると面倒な相手に使う手さ。って事はあんた腕に覚えはあるって事かい?」
男はアゴの下に手をやり何かを考えるような顔をして俺に尋ねた。
「まあ、冒険者もやってたから多少は」
「ふうむ」
男はそう言うと俺の身体をなにかを確かめるようにポンポンと叩いた。
「なるほどなるほど。確かにいい身体してるなあ、うんうん、ちょっくら力比べしてみるか」
男はそう言うと机に肘をついて腕相撲の姿勢をとった。
「ほら、早く早く」
「あ、ああ」
俺は男の対面について腕相撲の態勢に入る。
「じゃ、いくぞ」
男は言うが早いか力を込める。男の二の腕がグッと膨らむがまったく手ごたえがない。どうなってんだ?
「おい、本気を出してくれよ」
男が赤い顔で言う。
「ああ」
俺は返事をし少しだけ力を込める。男の腕がバタンと倒れる。
「おお~、ちょっともう一度いいか?」
男は額の汗をぬぐいそう言うと構えた俺の手を両手で握った。
「ちょっと力を込めてくれ」
「ああ」
俺は返事をし力を込める。大した抵抗も感じず男の両手は机についた。
「うおっ!お前、もしかして術式具埋め込んでんのか?」
「いや、そんなものはないけど」
「いいよ、お前いいよ。こりゃ、ひと稼ぎできるぜ」
男は俺の答えに満足したよでニンマリと笑ってそう言った。
「もう一度聞くけど、術式具の埋め込みはやってないんだな?嘘をついても調べりゃすぐわかっちまうんだぞ?」
「ああ、やってないよ」
俺はきっぱり答える。
「良し、わかった。自己紹介がまだだったな、マードックだよろしくな」
「クルースだ、こちらこそよろしく」
俺は答えてマードックと握手をした。
「それじゃあ、説明してやる。まずはここラウフェンネッツ刑務所の力関係を教えてやる。ここには三人の王がいる。まずひとり目は…」
マードックが説明をしだす。
刑務所内にいる三人の顔役、そのひとりはヒューゴ・キャッスル。
身体的特徴は小柄だが筋肉質、顎の下に傷あり。
ワッツファミリーと呼ばれるギャング団の幹部で刑務所内の最大勢力である。
次がバンゲル・ロッタ。
身体的特徴は長身痩躯でスキンヘッド、全身にタトゥー有り。特に目立つのは頭を覆うような鱗のタトゥーと舌の先端を蛇のように二股に裂いているスプリットタン。
ブルータルハンマーと言う名のホースギャングの幹部である。ちなみにホースギャングとは馬を主な移動手段にする犯罪組織の事で前世で言えばモーターサイクルギャングみたいなものだ。
最後がロンド・バザ。
巨漢のマッチョで暴れると手が付けられないのでビーストと呼ばれている。
アーマーユニオンカルテルと言うジャガーンギャングの幹部。
ジャガーンと言うのはジャーグル王国にルーツを持ちバッグゼッド帝国に暮らす人々の事で、つまりジャーグル系バッグゼッド人で構成されたギャングという訳だ。
「…そんな三つの男達とそのとりまきによってここは支配されてるんだ。こいつらに睨まれたら終わりって訳だ。おわかり?」
「ああ、わかったよ」
目を細めて楽しそうに語るマードックに俺はしっかりと答える。
「それじゃあ、次にお前さんの置かれている状況についてお話ししましょうかね。まずはここに来たらやるべき事、なんだけど。さっき言ったここの顔役の誰か、もしくはその皆に貢物をする事だ」
「貢物?」
「ああ。最初に言ったろ?タバコ持ってないかって」
「ああ」
「あれもそうさ。ここで無事に生きるコツは然るべき相手には貢物をする事。これに限る。ああ、いずれかの組織に属してるのなら話は別だよ?でも、そうじゃないのなら貢物、これ大事ね。まあ、外だって国に税を払うだろ?それと同じよ。外だと木っ端役人が袖の下を要求する事もあるけど、こっちじゃそう言う事はないからこっちのがややマシかね」
マードックは肩をすくめて言う。
「然るべきってのはマードックの事も含まれてる訳だ」
俺が真正面から目を見て言うとマードックはニッコリと笑う。
「良くできました。本来なら最初の貢ぎ物は同房の先輩にすべきなのさ。そこら辺を何も用意せずにここに来たって事は、クルースちゃんの言ってるように本当に冤罪なのかもねえ」
「だから本当に冤罪なんだって。まあ、それは今のところいいよ、どうせすぐにはどもこもならんのだからさ」
「おおー、立派立派。大したものだよ。自分は無実の罪だって言い張る奴は多く見て来たけどさ、初日からそうやって開き直れる奴はあまり見た事ないなあ。うん、クルースちゃん、ここでのし上がれる才能があるかもよ?」
マードックは良い商材を見つけたやり手商人みたいな目で俺を見る。
「それがマードックへの貢ぎ物になればいいんだけどな」
「なるなる」
「フワァァァァァァン」
舌なめずりするようにマードックが言った直後、サイレンが響き渡る。
「何々?何事?」
「運動の時間の合図だよ。さあ、稼がせてくれよ相棒」
マードックはニヤリと笑うと俺の肩をポンポンと叩いた。
今の俺はこいつに任せるしかないんだけど……本当に大丈夫か?




