頼りベタって素敵やん
スプレーンが言っていたように、その後も次々と身なりの良い人物が俺に話しかけてきた。
最初の男のようにすぐに退散するものもいたが、ほとんどの相手はそう簡単には引き下がらなかった。
それでもスプレーンはのらりくらりと躱したり、時に見ていてハラハラするようなキツイいなし方をしたりで追い払った。
ケイト達は俺がスプレーンと一緒にいる事に気付き不審がったが、事情を説明し実際に明かりに群がる蛾のように俺のもとに貴族がやって来るのを見てなんとか納得してくれた。
「ふぅ、しかしマジでひっきりなしに来るなあ」
やって来た貴族をあしらったスプレーンに俺は言う。
「今一度確認するけど、本当にみんな追い返す方向で良いのね?」
「ああ。今日来た人の中で特定の人だけに協力を表明しちゃうと不公平になっちゃうだろ?今日は、お見知りおきっつー事で勘弁して貰ってちょうだいよ。それよか、たまに言い方きつい事あるけど、あれどうにかなんないの?なんか、怒ってた人もいたんだけど?」
俺は気になった事をスプレーンに言う。
中には明らかに憤慨してパーティー会場から出て行った人もいたんだよな。
そこまでするのはちょっとどうかと思ったのだ。
「何言ってんのよ。そんな温い(ぬるい)事言ってたらつけ込まれるわよ?貴族連中の面の皮の厚さを甘く見ちゃダメ。あら、リメルデン爵お久しぶりですね~。随分、ご無沙汰ではなくって?」
「スプレーン君か」
俺に答えている最中にもまた次の貴族が襲来。スプレーンはバーのママみたいな応対をする。
相手の貴族はスプレーンの顔を見て一瞬、嫌な顔をした。
どうやらご無沙汰と言っているのはスプレーンが経営している何かのお店に対しての言葉らしい。
そして、その店に顔を出している事はこの貴族にとってあまり公共の場で触れて欲しくない事のようだ。それをスプレーンは良く心得た上でチラチラ匂わせて相手貴族にプレッシャーをかけている。
どうやらスプレーンには人をイラつかせる才能があるようだ。
怒って帰った人への対応を見ていると、やはりなんらかの触れられたくないネタをチラつかせていたようだった。
それも、言葉には出さないが目線や言葉の区切り方なんかで暗にそのネタを俺がつかんでいるみたいな雰囲気を出して追い払っていたりもするから恐れ入る。
確かに効率的に追い払ってくれてはいるけど、このままじゃ俺もどこかで恨みを買っちまいそうではあるな。
しかし、脂っこい貴族達の権力争いに巻き込まれるよりはマシか。
俺はスプレーンに体よく追い払われた貴族の脂ぎった顔を見てそう思った。
今の貴族が顔を出してたスプレーン経営の店ってのも下種な類の店なんだろうな。
「どきなさい!道を開けなさい!」
突然、武装した複数の男達が入って来て会場が物々しい雰囲気になった。
なんだ?何事だ?
「君がトモ・クルースか?」
入って来た武装集団のひとりが俺に向かって強い口調で言った。
「ええ、そうですけど」
なんだってんだ?怒って帰った貴族の手勢か?
「違法薬物の所持容疑で逮捕する」
「はい?」
意味の分からない事を言われてポカンとする俺に手際よく手錠をかける武装した男。
「フルードポアリエ文化祭実行委員のヤスミーナ・プフェルデフースです。いったい何事ですか?」
ヤスミーナさんが俺に手錠をした男に聞いてくれた。
「私は帝国衛兵隊特殊捜査課のナイゼ・ドクスマンです。彼の部屋から大量の違法薬物が発見されましたので、拘留させて頂きます。これ以上詳しい事はお話しできかねますので、ご容赦ください」
男はそう言ってヤスミーナさんに一礼すると、俺を拘束した手錠を荒々しく引っ張って歩き出した。
「いてっ!いてえってば!俺の手はそっちには回らねーんだよ!」
荒っぽく引っ張られ俺は思わず某漫画の健康有料不良少年ばりに毒づく。
会場の空気が凍り付き、皆が連行される俺を見ていた。
俺はスプレーンを振り返る。
「だから言ったでしょ、あなたは人に頼るのが下手なのよ」
スプレーンは笑ってそう言った。
「この野郎!ハメやがったな!」
「抵抗するな!」
叫ぶ俺に怒鳴り荒々しく頭を押さえつける衛兵の男。
クソっ!やられちまった!
油断しすぎたぜ!
怒りが腹の中で渦巻くが、ここで衛兵をなぎ倒しても事態は悪くなるばかりだ。
ここは大人しく連行されるほかない。
スプレーンの笑顔が脳裏に焼き付く。
あの野郎、この借りは絶対に返すからな!
俺は心に固く誓う。
しかし、今はなすすべなし。
とりあえず抵抗してもいい事なんか何もない、ここは素直に従うだけだ。
俺は素直に詰め所まで連行される。
所持していた物をすべて取られ、手錠をしたまま詰め所の小さな部屋に放り込まれる俺。
部屋の出入口には屈強な兵が立ち番をしており、その向こう側からはガヤガヤと兵たちが忙しそうにしている音が聞えてくる。
随分長い事そのまま放置されていたかと思うと俺を連行したのとは別の男がやって来て事情聴取をした。
俺は聞かれた事に答え細かく昨日今日の行動を説明する。
当然、違法薬物などは手にしていないのでその事もしっかりと説明する。
聴取をした男はメモを取り、その場を去って行った。
また放置される。
部屋には窓もなく、今がまだ夜なのか朝になったのかもわからない。
「黙ってるとためにならねーぞ!!」
となりの部屋から怒鳴り声が聞こえてくる。
不安な気持ちが膨らんでくる。
このまま、俺の言う事など何も聞かれずに俺の知らない所で刑が確定してしまうのではないか?
俺の事など、誰も助けてくれず忘れ去られてしまうのではないか?
ネガティブな思いが心の中を行ったり来たりする。
良くない傾向だ。
しばらくすると、先ほどの男とは別の男がやって来てまた事情聴取が始まった。
さっきも話した事をまた一から話すのかと思うと、強い虚脱感を覚えるがこれは取り調べでは良く使われるやり方なのだ。
供述に嘘や矛盾がないかのチェック、時間が経過する事で記憶が曖昧になっていないか細かい所に齟齬はないかの確認、そして信頼性の高い調書をつくるため、担当が変わる時にもしっかり引き継げるようにしつこいほど何度も何度も同じ事を聞くのだ。
「それで、昨晩はどういった行動をしていたのか説明して貰えるか?」
前に座った男がメモを取りながら俺に尋ねる。
わかってるのだが、それでもこう何度も同じ事を聞かれると徒労感が凄い。
いったい俺はこの後、どうなってしまうのか?
聞かれた事に答えながらどんどんと暗い気持ちになるのだった。




