チャリティーパーティーって素敵やん
「ほらっ、急ぐわよ」
「ちょっと待ってくれ、飲み代払うよ。幾らだったのよ?」
「ケチ臭い事言わないの。ここは手付と思って素直に奢られときなさい」
「そんな事言われちゃ余計嫌だっつーの」
「いいからいいから!」
俺はスプレーンにグイグイと腕を引っ張られ街を歩く。
くぅ~、こういう強引さ見習いたい!俺にゃあちょっとできないやり方だよな~。タイミングとキャラクター次第で嫌な気はしないのはわかってるんだけど、自分がそういうキャラクターだとはどうしても思えないんだよなー。キーケちゃんにも良く言われるけど、自分を信じ切れないんだよな。
迷いなく、自信に満ち溢れている様に見えるスプレーンを見て俺はそう思わずにはいられなかった。
だが、冷静になって考えてみればスプレーンだってすべて順風満帆って訳ではないだろう。フルポアの理事としての立場はあまり良くない状況だと聞いてるし、ザクフォードのところでも要注意人物として見られ始めているようだった。まあ、ほとんど俺のせいではあるのだが…。
ってなんで俺がこいつにコンプレックスを感じたり罪悪感を抱いたりしなきゃならないんだ。
自業自得だろ。
俺は楽しそうに先を歩くスプレーンを見る。
やっぱ愛嬌は強い。
それが俺の出した結論だった。
「なんだってお前は俺と一緒にいるんだ?俺を勧誘しようとまでしたけど、俺はお前の立場を悪くしただけだろ?なのになぜ一緒にいるんだよ?」
「お前って言うのやめてよね」
スプレーンはクルリと振り返って言った。
「あ、ああ、すまん」
俺は思わず謝ってしまう。うう、この愛嬌にゃあ敵わん。
「あのね、じゃあ正直に言っちゃおうか?あなた、この後のパーティーで忙しい事になるわよ」
「へ?なんで?」
いきなりよくわからない事を言うスプレーンに俺はすっとんきょうな声を上げてしまう。
「だから言ったわよね?あなたはどういう訳か色々な大物に好意的な接触をとられているんだって。興味を持つ者が多く出るのも予想できるでしょ?それで調べてみれば今、飛ぶ鳥を落とす勢いの商会経営者であり異国人でありながら名門ファルブリングカレッジで多くの人望を得ているという事が見えてくる。貴族が好む人ってどんな人かわかる?」
「さあ」
「ちゃんと考えなさいよ、もう。ま、いいけども、貴族が好む人ってのはね、まずは大金持ち。あなたはこれに当てはまる。そして、影響力のある人。これもあなたに当てはまる。ケイトモは若い世代に絶大な人気があるし、ファルブリングはこの先バッグゼッドを担う重要人物の子息が通う学園である。更に言うなら今回の件で一部フルポアの生徒からも信頼を得た。さあ、これでわかった?あなたは獣のテリトリーに現れたご馳走、男性囚人収容所に現れた美女、極貧密集地区にさまよいこんだバカな金持ち、アリ塚に落ちた」
「もういいもういい!勘弁してくれよ、もう。暗い気持ちになってきたよ。パーティー行くのやめようかな」
俺の足取りは重くなる。
「そんな事をしても事態は変わらないわよ?ただ問題を先送りするだけ。利益に対する貴族の執着は強いわよ~?」
「っじゃ、どーしろっつーんだよ!」
「だから私が力になろうって言ってるのよ」
「だからお前のとこの世話にはならないって言ってるんだよ」
「お前って言うなって言ってんでしょ!」
スプレーンが立ち止まって俺にデコピンする。
「おうふっ」
「うちに来いなんて言わない。それにあなたがどこかの欲に塗れた貴族と懇意になるとも思わない」
「じゃ、なんなんだよ」
俺はデコを擦りながら口を尖らせる。
「あなたって貴族の習慣に疎いでしょ?貴族には貴族のあしらい方ってのがあるのよ。上手い事やらないと遺恨を残して周囲にも迷惑がかかるわけ。だから、今日は私があなたのスペシャルアドバイザーとしてそばにいてあげるって言ってるの。好きでしょ?スペシャルアドバイザー」
「いや、言ってるのって初めて聞いたし。だいたいお、君にそんな事が上手くできるの?君も相当、気が短いように見えるけど?」
俺はスプレーンに言ってやる。
俺が自分で対処する方がまだマシなんじゃないか?
「私くらい忍耐力がある人間もそういないわよ。とにかく、状況によっては私達も迷惑するの、グダグダ言ってないで素直にお姉さんに任せなさい」
スプレーンの言葉には自信がみなぎっている。
ちょっとここまで胸を張って言いきられてしまうと心強く感じてしまう。
くそー、人の弱みにつけ込みやがって。
こいつ、失恋の痛みにつけ込むタイプだな?
俺はスプレーンを見る。
スプレーンは邪気の無い笑顔で歩いている。
なんだか、任せてもいいかと思ってしまう。
う~ん、俺って失恋の痛みにつけ込まれるタイプだな。
そんな事を思いながら、俺とスプレーンはパーティー会場に向かった。
会場のスタンバドル庭園はライトアップされ人で賑わっており、さながらお祭り会場のようであった。
「今日はご苦労様でしたー!」
「お疲れ様です!」
「楽しんでー!」
「良いパーティーを!」
会場に入ると多くの生徒が俺に声をかけて来た。
「ほらね?人望を集めてるでしょ?」
「ただ挨拶してるだけだろうが」
「さっきの女生徒の目、見た?あれはあなたに恋をしてる目だった」
「バカ言ってんじゃないよ」
楽しそうに言うスプレーンに俺は毒づく。
スプレーンの言う事は極端だが、やけにフルポアの女生徒が俺に声をかけてくるのは確かだ。
「あ!クルースさん!お疲れでした!」
「あ、ヤスミーナさん、会場の警備ですか?ご苦労様です」
「いえいえ、こんなに大盛況なのもクルースさんのおかげですよ~。また、いずれ改めてご挨拶に伺いますよ~」
「いえいえ、お気になさらず~」
忙しそうに去って行くヤスミーナさんに俺は手を振る。
「ほらね?」
「何がほらね、だよ」
「君がトモ・クルースかね?」
スプレーンに言い返していると高そうな服を着た男が俺に声をかけてきた。
「ええ、そうですけど」
「私はシュマイツァー、君の事は聞いているよ。随分とやり手のようだね」
「ああ、どうも」
握手を求めて来た男の手を取り俺は挨拶をする。
スプレーンが隣でほらね、と口パクしながらニヤニヤ笑っている。
畜生め、笑ってないで早く助けろってんだよ。
俺はスプレーンをチラチラと見る。
「あら?シュマイツァー伯、お久しぶりですねえ。サイズース海運商会との件はお済になられたのかしら?」
「あ、ああ。久しぶりだねスプレーン女史。どうやら、お邪魔のようだね。失礼するよ」
スプレーンに声をかけられたシュマイツァーは蛇に睨まれた蛙のように委縮しそそくさと去って行った。
「おおー、凄いじゃないのさー」
魔除けスプレーンと呼びたい。
「彼はうちの息がかかってる商会から多額の借金をしているのよ。まあ、言ったらあんなのは雑魚ね。まだまだ、あんなあんなものじゃあ済まないと思うわよ」
スプレーンはニヤリと笑う。
ううう、やっぱり来なきゃよかった。




