刺さる話って素敵やん
「それじゃ、今度はあんたの息がかかってないところに入ろうや」
「用意してたのはさっきの店だけよ」
「はいはい、いいからいいから。マジで関係ない店教えろって」
俺は横でいたずらっ子のような笑みを見せるスプレーンに言う。
「だからさっきのとこだけだって言ってるでしょ?」
「それが信じらんないっつってんの」
俺はテンポよく答える。
「だったら何言っても一緒じゃないの。あそこは大丈夫、ほら、どう?信じられる?」
スプレーンが適当な店を指差して言う。
「よし、そこに決定」
俺はスプレーンが指さした店に一直線に向かって行く。
「ちわー、やってる?」
俺は小さな木戸を開いて声をかける。
「らっしゃい。お好きな席にどーぞ」
コの字型のカウンター席のみの居酒屋、カウンターの中で忙しそうに手を動かしてるオヤジが威勢の良い声を上げた。
「いいじゃんいいじゃん。こういう店って美味いもん出すのよ~」
「ちょっと、ホントにここ?嘘でしょ?」
「無理について来いなんて言ってないけど?」
顔をしかめるスプレーンだったが俺はとっとと席に座って言う。
「なによ、もう」
スプレーンは不満げに俺の隣りにドスンと座る。
けっけっけ、お前のようなセレブはこんな店に来たことはあるまい。
「大将、ビールとオススメ適当にお願い」
「あいよっ」
居酒屋の大将はこれまた子気味の良い返事をすると、テキパキと動き俺とスプレーンの前に瓶詰めのビールとグラスをふたつまず出してくれる。
ビールの瓶はラッパ飲みできるサイズの瓶、いわゆる前世で言うと所のスタイナーボトルだった。
こんな居酒屋なのにスタイナーボトル、しかもコップまでつけてくれるとは洒落てるねえ。
「なによ、瓶詰めなの?ふ~」
スプレーンがため息をつく。
「なに言ってんだよ、洒落てんじゃんか。ほれ、瓶持って」
俺は瓶を持ちスプレーンに乾杯を促す。
「え?瓶で直?」
「バッカ、それがいいんだって。ほれ、早く」
「もう」
スプレーンは仕方なくといった様子で瓶を持ち俺の瓶と重ねた。
「乾杯」
「はいはい、乾杯、乾杯」
不貞腐れるスプレーンをよそに俺は瓶をラッパ飲みする。
ううむ、このビールを小瓶で直接グビグビいく感じ!勝手なイメージだが、ビリヤード台なんかがあるアメリカンな酒場が頭に浮かぶ。
「プハー、どうよ?」
「悪くないわね」
瓶をコンとテーブルに置いたスプレーンはまんざらでもない顔をして言う。
スプレーンンの掘りの深い顔はいいのだが高そうな服がミスマッチだな。やっぱデニムにカウボーイハッとじゃねーと。まあ、ファルブリングの制服の俺が文句言える立場じゃないけども。
「オススメお待ち」
大将が小皿に乗った美味そうな料理をテーブルに置いてくれる。
「お!こりゃ当たりだったなー!」
骨付き肉の煮込み、旨辛そうな香りを立てる揚げ物、クリーミーな色をしたタレであえたエビ、色々な野菜の酢漬け。
どれも非常に食欲をそそる。
「あら?本当に美味しい」
「だろ?こういうとこは美味いんだよー」
「何言ってんのよ、私が選んだ店でしょ?」
「そっちこそ何言ってんだ、嫌がってた癖に」
「もう、小さい男ねえ」
なんて言いながらも嬉しそうに料理を食べ、ビールの追加を頼むスプレーン。
俺はこういう店のが落ち着くよ。
「あなた、結局、どこにつくつもりなの?」
お客が適当に入り店内が騒がしくなってきた頃、急にスプレーンが切り出した。
「は?何の話だよ?」
「とぼけないでよ。ハンドラーの誘いも蹴って右派ともチョーズン派とも敵対。じゃあ、帝国に仕えてるのかと言えば君は余所者でしょ?傍から見てるとどこにもいい顔しない逆風見鶏ね。それでいて、どこからも命を狙われる事もない、それどころか国や各勢力の重鎮から気に入られてるフシがある」
「命を狙われたフシもあるけどな」
俺はジト目でスプレーンを見てやる。
「だから、細かい事は気にしないの。男らしくないわよ」
「あ~、それは男女差別です~。このレイシストめ!」
俺はケラケラ笑って言ってやる。
「は?なんでそうなるのよ。まあ、いいけどさあ、こんな事言っても信じてくれないと思うけどね、私、あんたの事、心配してるのよ。ちょっと死なすには惜しいかなって思ってる訳」
「じゃあ殺さないでちょーだいな」
俺は笑ってビールを飲む。
「冗談じゃないのよ。バッグゼッド帝国ってのはね、大陸でもっとも注目されている国なのよ。国内政治の安定性、移民政策、魔導エネルギー政策等々、この国の政策がまんま大陸の全体の流れになるの。そして、経済的、軍事的にも主導的役割を持っている。そんな国で急速に名を売る事がどれだけの危険性を孕んでいるのか、あんた実際の所わかってるわけ?」
グイグイと俺に顔を近づけまくしたてるスプレーン。
「おいおい近い近い!お前、絡み酒かよ」
俺はスプレーンを押し戻す。
「いいから聞いて。あなたに足りないものが何かわかる?」
スプレーンは俺の肩に腕を回し更に密着して言う。
「俺なんて足りないものだらけだよ」
「あなたに足りないのは情報網よ」
耳元でそう言ったスプレーンは俺を突き飛ばす勢いで離れた。
ベタベタしたり邪険にしたり女の子ってな恐ろしいよ。これ、こっちが好意を持ってたらグルングルン振り回されてぐったりしちゃうよ。
まあ、そう言った感情は一切ないから平気だけど。
「情報網?一応、幾らかあるけど」
「偏ってるでしょ~?」
スプレーンが俺の頬を突く。
俺はそれを手で跳ねのける。
「あなたって人に頼るの下手よね?見てればわかるわ。上手く人を利用しろとは言わない、あなたってそういうの出来ない人でしょ?だからもっとうまく人に頼りなさいと言っとくわ」
「俺なんて人に頼りっぱなしだよ」
「それは違うわね。あなたを手助けしてくれる人達は皆、ほぼ自発的にやってるでしょ?もう一度言ってあげるわね、あなたは人に頼るのが下手!どーしょうもないくらいド下手!」
「どこがだよ」
俺は口を尖らせる。
「じゃあ言ってあげましょうか?例えばタンゼニンの事を覚えてる?ドーンホーム神聖協力会の」
「覚えてるけど」
「彼はあなたに借りがあると感じてるみたいだけど、彼に頼った事はある?」
「ないけど」
「ほらね。彼らの情報収集力は凄いわよ。なんせ元祖ドーンホーム教会上層部にも情報提供者がいるくらいなんだから」
スプレーンが言ってる元祖ドーンホーム教会ってのはジャーグル王国内のドーンホーム教会が名のっている団体名である。ちなみにそれ以外のドーンホーム教会はドーンホーム教会本家と名のっている。
ややこしいわ!お前らラーメン屋か!
「いや、別に頼りたくなったら頼るし。それぐらいできるし」
俺は更に口を尖らせる。
「良く言うわね~。そんな事ができるくらいの器量があったら、今頃あなた大陸を動かすくらいの地位についてるわよ」
「買いかぶり過ぎだっつーの」
俺は言い返したが実は内心刺さっていた。
今頃どうなってるか、ではなく人に頼るのが下手だって事だ。
それは実際、自覚があるのだ。
昔から引きずっているものであるし、キーケちゃんからもちょくちょく言われる俺の欠点なのだ。
なんとかしなきゃとは思っているのだが、なかなかこれが難しいのだ。
なんせ中身はおっさんだ。いや、こっちに来てからの時間を考えればおっさん通り越して初老だよ。
そんな年齢で自分の性格を直すなんてのはマジでしんどいよ。
それに俺なんてな欠点だらけだからなあ、今更ひとつばかり変えたって、なんてのは逃げだな。
とにかくスプレーンが言ってる事はあってるのだ。
だから、刺さるのだ。
「大将、強いのお願い」
俺は大将に酒を頼む。
「あいよ」
大将は短く答えてテキパキ動き、小ぶりなグラスに緑色の液体を注いでトンっと俺の前に置いた。
俺はそれをクイッと飲み干す。
くぅ~~!効くぅ~~!
スプレーンが隣で笑っている。
ちぇ、だぜ。




