今日の愛嬌って素敵やん
「ねえねえ、ちょっとどこに連れて行く気?いきなりとか嫌よ?深い仲になりたいなら順序を守ってよね」
「バカな事、言ってんじゃねーよ!」
俺は学生たちがいない場所を求めてホテルから離れた飲食店を探した。
他の生徒達の居る場所だと、またこいつはそれを利用して自分のペースで事を運ぼうとしてきやがるからな。
「だいたい、なんで部屋わかったんだよ」
「なによ?こんな美人が来たのに不満なの?」
「そりゃ不満だろ、あんた達のせいでどれだけ面倒な事になったか」
「男だったら細かい事、言わないの!ほら、奢ってあげるから。あの店でいいでしょ?」
スプレーンは俺の背中をバシンと叩くと目についた店に向かってズンズンと進んで行った。
こんなキャラだったっけ?この人?
つーか、あれなんだよな。ザクフォードにしてもだけど、愛嬌があるんだよな。
前世で誰かが言ってたんだけど、それなりの政治家には愛嬌があるもらしいね。頭だけでも人脈だけでも金脈だけでも人はそこまでついて来ないんだとか。
時に隙とも思える所を見せたり、細かな気遣いを見せたり、失敗を取り繕う時の笑顔がたまらなかったり等々、どこか憎めない人間らしさ愛らしさが自然と滲み出ちゃうのが人を惹きつける才能なのかもしれない。
まったく恐るべしだよ。
「早くいらっしゃいよ」
「へいへい」
俺はスプレーンに続いて店に入る。
こじんまりした店だが静かで雰囲気が良く、ちょいとグレードの高そうなお店だった。
案内に来てくれた男性になにやら慣れた様子で受け答えするスプレーン。
俺なんてこっちの世界に来てそこそこの場所に行っているが、それでもやっぱり高そうなお店は気後れしちゃうもんなあ。
よく整ったテーブルに着くと給仕さんはメニューを置いて静かに一礼し立ち去った。
「ありゃ?注文は?」
「適当に頼んどいたわよ。ゆっくり話たいからね」
「え?そんな事できるの?」
「頼めばできるのよ。ほら、まずは乾杯」
先ほどの給仕さんが台車でバケツとグラスを運んできた。
氷の入ったバケツにはボトルが刺さっている。
給仕さんは手慣れた調子で俺とスプレーンの前にグラスを置くと、ボトルをバケツから引き抜きポシュンと封を開けそれぞれのグラスに中身を注ぐ。
どうやら中身はスパークリングワインのようだ。
「そのまま置いといて」
「かしこまりました」
スプレーンに言われた給仕さんは台車を置いて去って行く。
「乾杯」
「乾杯」
スプレーンに言われて俺は乾杯をした。
俺はグラスの中身をグッと飲む。
むむむ!こりゃうめぇーー!
ついつい飲み干しちまう。
「いけるくちじゃないの。ほら、どうぞ」
俺の飲み干したグラスにスプレーンがすぐに次を注いでくれる。
「おっとっとっと、こりゃすいませんっておい。そういう飲み方する酒じゃなくね?」
「いいのよ別に、好きなように飲めば」
そう言ってスプレーンは自分のグラスに自分で酒を注いだ。
うーむ手酌かよ。
まあ、気を使わなくていいけど。
俺は注がれた酒を軽く飲む。
やっぱ美味い。
そうこうしていると先ほどの給仕さんがお皿を複数持って来てテーブルに置いた。
なんだかうまそうなつまみが来たぞ。
俺はフォークでテリーヌのような塊をひとつつまむ。
「うっま!なにこれ?」
「ズッキーニとエビのテリーヌね。他に食べたいものがあったらメニュー見て注文して」
「いや、どうせ良くわかんないからいいよ。こっちもうっま!」
「うふふ、やっぱり若いわねえ。ザクフォードはどんな条件を出したの?マルギシャスより良かった?」
俺の食べっぷりを見て少し笑ったスプレーンだったが、すぐに真顔になりそう尋ねた。
「は?条件?」
「またまたとぼけちゃって。ここまでぶっちゃけたんだから、もう全部話しちゃいなさいよ」
「だから、何を言ってんの?」
「ふぅ~、わかった。私の負け。先にうちの条件を提示しろと言うのね?若いのにしっかりしてるんだから。本当はむこうさんの上を提示する予定だったんだけどね。こうなれば、そんなセコイ事は言わない。まず手付としてバルフ海運商会の理事のイスを用意させて貰います。それから、ゼンバリン王国のバッグゼッド駐在大使も務めて貰います。しばらくは大使を務めて貰いながらハルフ海運とゼンバリン王国のパイプの強化をして貰おうと思ってます。そうやって二年周期で各国の駐在大使を務めて貰い顔を売ったら…」
「ちょちょちょちょちょ!ちょっと待った!何言ってるんだよ、お前は」
「何って私達の未来設計じゃないの」
「バカ言ってんじゃねーよ。ザクフォードともマルギシャスともそんな話はしてねーよ。なんで俺がお前らんとこで働かなきゃいけねーんだよ。それも、そんな面倒くさそうな事を。冗談じゃねーっつーの。それに、お前らなんてどうせ悪い事しようとしてんだろ?そんなもんにゃ加担できねーよ」
俺が言うと店内の空気が張り詰め静寂に包まれた。
なんだ?まさか、スプレーンの息のかかった店なのか?
「おい、お前。この店、無作為に選んだ風だったけど、もしかして」
「まあね。でも気にしないでいいわよ。それから言わせて貰うけど、私とあいつらを同じにしないでね。私達の目的はあいつらの真逆だから」
スプレーンが肩をすくめると、店内に音が戻る。
ったく油断も隙もあったもんじゃない。
「みんなそう言うんだよ。もう一度言うけど、マルギシャスにはベリンボールの邪魔をしないように言いに行っただけだし、ザクフォードはそれについて来ただけ。どうすれば仕事のオファーなんて事になるんだよ」
俺は言いながらテーブルに並べられた料理を詰め込む。
だったらあんたに用はない、出て行け、と言われかねないからな。今のうちに食っちまっとくにかぎる。
しかし、ここに居る客みんなスプレーンの手の者で俺の一挙手一投足つぶさに観察されてるのかと思うと料理の味が少し落ちた気がするよ。
「本当に?」
「本当に」
「お姉さんの目を見て言える?」
「言える。本当、絶対」
俺はスプレーンの目をまっすぐに見て言う。
「ふうん、そう。へえ、そうなの。ふうん」
スプレーンはスパークリングワインをクイッと飲むとしきりにそう言った。
「向こうさんから、そういう話は一切なかったわけ?」
「そういやザクフォードはうちに来ないかって言ってたけど、あんなの冗談だろうさ」
「やっぱり言ってたんじゃないの。よくもまあ、目を見て嘘つけるものね」
「嘘なんかついてねーよ、あんなのマジなわけねーっつーの。話にもならないよ。用ってのはこの事なのか?だったら、もう用事は済んだな。ごっそさん」
俺は席を立つ。もう適当に食って飲んだし、俺の用も済んだ。
「待ってよ、わかったから」
「何がわかったんだよ」
「もう仕事の話はしない。だから、もう少し付き合いなさいよ。店変えてもいいから」
スプレーンが真面目な顔をして俺を引き留めた。
なんなんだこの人は。
思い切り敵対して一時は俺の事を亡き者にしようとしていたのに。
この辺の切り替えっぷりも凄いよな。
良く言えば引きずらない、悪く言えば都合の悪い事はすぐ忘れる。
これも資質なのかね。
ちょっと俺には無いものだ。
これを機に学んでみるかな。
「んじゃ、店変えるか」
「そう来なくっちゃ」
スプレーンは嬉しそうに笑って俺について来る。
この笑顔も凄いな。こいつの本性を知ってる俺でも本当に無邪気に喜んでいる様に見えちまう。
今日はあんたのそう言う所を学ばせて貰いますか。




